第5話 命命


 都内某所のお屋敷。

 そこに白装束の少女が現れる。


「星の欠片か、横浜以来じゃの」

「は? 知らないわよ、そんな事、星の欠片だって個人ってものがあるんだから他人と一緒にしないでくれる?」

「か、仮にも主に向かってなんたる口のきき方!?」


 白装束の少女は髪をかきあげる。


「私はアンタを主と認めていない。私はただの伝令役」

「で? その伝令って?」


 怒りに暴れ狂うウツワを羽交い締めにしながら星路が聞いた。


「……中国から命命めいめいが来るわ」

「おお! 命命か! 頼もしいではないか!」

「命命さんかぁ……」


 命命とは星の使徒の一人である。つまりは星路達の味方なのだが――


 仕方なく空港まで出迎えに行く事になった星路達。

 ウツワははしゃいでいる。

 明乃は苦笑いしながら。


「どんな人なんです? 命命さんって」

「変わった人だよ……色々と」


 空港の出口で待ち合わせる事にしていた。

 

「見つかるんですか?」

「すぐにね」


 そこに現れるチャイナドレスの女性。スリットがエグい事になっていた。


「ニーハオ! ウツワ様! 会いたかったヨ!」

「おー命命! 久しいの!」

「おひサー! セイジも!」

「お久しぶりです」


 頭をお団子で丸めたチャイニーズな女性。彼女が命命。

 三人は再会を喜び合う。

 

「デ? 最近ドウ? ユウセイの奴らハ?」

「……無駄に暴れてます。被害が出て困ってたところです」

「アラ、セイジ、ヒガイ出しちゃったの? メズラシ」

「面目ないです」


 頭を下げる星路、命命は中国の星滅教団を人間だ。彼女に敵う相手などいないだろう。

 現状、逃げられているとはいえ、全戦全勝している星路。

 命命が居れば、もう人死にが出る事もなくなるかもしれない。


「じゃあワタシ、星滅教団の拠点、潰しマワッテくるヨ」

「え? 今からですか? ちょっと休んだほうが、来たばかりなんですし」

「いいぞーやれやれー」

「おいウツワ」

「ホシミチは小さくまとまりすぎなんじゃ、だから被害が出る」


 図星だった、極力、行動を最小限にしていた節はあった。

 遊星に対しての憎しみが足りなかった。

 遊星に家族を殺された命命さんと比べたら。

 そう星路は思った。


「ザ、行って来るネ」

「おうよ」


 その場から消え去る命命。

 

 翌日。


『えー、日本各地で、カルト教団らしき一味が次々と捉えられているという情報が相次いでいます。罪状は集団自殺未遂……発見者は中国人の女性で――』


 そんな声がテレビから流れる。アナウンサーはよどみなく事実を伝える。


「……一気に代償階梯の幅が狭まったな」

「さすが命命じゃ、ホシミチと違ってな」

「うっせ」


 いつもの「せいじだっつーの」が無い。それだけ図星を突かれたという事か。

 そこに命命が都内某所のお屋敷へとやって来る。


「これで五十箇所は潰したヨ、デモ、まだ安心しちゃだめネ」

「どうしてですか?」

「一回、遊星に会ったヨ」

「!?」


 星路が驚きに染まる。

 命命が嫌そうな顔をしながら。


「アイツ、強かったネ。ゴメンだけどワタシじゃ敵わなかっタ」

「なに!? 命命でもか!?」


 ウツワも驚く、命命の願望階梯は五千段。星路の五倍だ。

 それでも届かないほど強くなっているというのか。


「殺されなかっただけラッキーだったネ。危うく死ぬかと思ったヨ」

「そこまで……って命命さん!?」


 倒れ込む命命、そこで背中の大傷が露わになった。

 息を飲むウツワと星路。

 そこに明乃が現れ、急いで命命の治療に当たる。

 星路は遊星との直接対決に初めて……いや二度目の恐怖を抱いた。

 初めては東京湾。吉比斗を撃破した時の事。

 遊星に手を伸ばして届かなかったあの時。

 願いが足らなかったのではない。

 恐怖で足を止めてしまった。

 今、傷ついた命命を前にして、また手が震えだす。

 どうしたらいい。

 どうすれば、奴に勝てる。

 星路は考える。

 そして一つの決意をする。


「俺、天岩戸に行くよ」

「ホシミチ、お前!?」


 天岩戸、そこは星の使徒が修行に使ったとされるの洞窟だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

星の器 亜未田久志 @abky-6102

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ