第4話 七夜奪還作戦
星滅教団埼玉支部。
「七夜を奪い返す」
「今の俺じゃ階梯が足りない」
遊星と吉比斗が話している。
「黒介を出す」
「ええー俺あいつ嫌い。酒臭いし」
「我慢しろ、それに今は代償階梯を上げるために禁酒中だ」
「酒我慢したくらいで上がる階梯が強いの?」
「強い。その欲望が、飢えが深いほどその強度は増していく」
二人は教団支部の地下、錆びた檻の前に立つ。
「健在か、黒介」
「酒か……?」
「仕事だ。終わったらビールをやる」
「ちっ、わかった」
「即答かよ」
吉比斗が呆れる。遊星が檻の扉を開ける。すると黒介が遊星に飛びかかったではないか。慌ててナイフを抜く吉比斗。
「落ち着け」
「俺はお前の道具じゃねぇ」
「分かっているさ。破滅願望者、我が死人よ」
舌打ちして、遊星を離す黒介。苦々しい顔。
威嚇してナイフを構えたままの吉比斗。
それを遊星が手で制す。
少年はため息を吐いてナイフをしまった。
「お前如きで俺に勝てるかよ」
「ホントムカつくなお前」
火花散らす黒介と吉比斗。
遊星は笑いながら。
「七夜を奪還する場所は此処だ」
一方、都内某所の屋敷、ウツワ達、縛り上げた七夜を尋問している。
「吐け! 星滅教団の本部はどこじゃ! 遊星の本体はどこじゃ! カツ丼食うか!?」
「最後おかしいだろ」
星路がツッコミを入れる。
ウツワははしゃいだようにカツ丼を七夜に見せびらかす。
そこに明乃がやってくる。
「ウツワ様! 星の間に予言の予兆が……」
「なに、またか。やつらよっぽどこの男が必要らしい」
「行ってこい」
「分かっておるわホシミチ」
「
星の間へ向かうウツワ達。
居間に残される星路と七夜。
「お前らに仲間意識があったとはな」
「俺達は捨て駒だ。等しく代償に焚べるための薪に過ぎない」
「その火は何を燃やす」
「無論、この星を」
沈黙が舞い降りる。
それを破ったのはドタドタ走り込んできたウツワだ。
「大変じゃ! 次は春日部じゃ! モグモグ」
「カツ丼食ってんじゃねーよ」
「ゴクン、予言の中にやつらの要求が流れ込んできた。『七夜を連れてこい、そうすれば町には手は出さない』と」
「仕方ない、連れて行くか」
「お人好し共め」
七夜が毒づく。
無視して星路は春日部に向かった。
「楽しくなりそうだなぁオイ!」
黒介が笑う。鎖鎌を振り回している。
通行人の首が跳ぶ。
しかし誰もそれを気にしない。
そこに。
「そこまでだ、約束通り連れて来たぞ」
舌打ちする黒介。
「楽しくなってきたところなのによぉ」
「さあ、闘おうか」
「オイオイ、七夜さえ渡してくれれば俺は帰るぜ? 酒が待ってる」
「簡単に渡すかよ」
「面倒くさくなってきやがった……」
鎖鎌と拳がぶつかり合う。
鎖で星路の腕を絡め取る黒介。
そのまま投げ飛ばす。電柱に叩きつけられる星路。
(こいつ、強い!?)
吉比斗や七夜と格が違う。
鎖鎌を振り回す黒介。
「ウツワ、星に願いを、今叶えたまえ」
『なんじゃホシミチ、もう音を上げるのか?』
「いいから早く」
いつものツッコミがない、相当焦っている。
『承認する』
戦闘装束を身に纏う星路。
鎖鎌を掴み取った。
「それが本気か! じゃあこっちも! 遊星! 許可を出せ!」
虚空から現れる遊星。
「変形を許可する」
鎖の化け物に変わる黒介。
とらえどころのない異形となった。
「惑星殺法、煌!」
波動を放つ星路。しかし。
鎖は自由自在に姿を変えそれを躱す。
「七夜さえ取れればいいんでね!」
星路をすり抜け、七夜の下へと向かう黒介。
「させるかよ!」
人型を形造る無数の鎖、その一本を星路は掴み取った。
しかし。
手応えが無くなる。気付けばその鎖は本体から切り離されていた。
(いや、そもそも本体なんてあるのか?)
無数の鎖、その全てがダミーだとしたら。そんな事を星路は考えた。
「厄介だな……!」
「だろ?」
黒介が笑う。星路は苦虫を噛み潰したような顔をしながら。
「明乃! 七夜を渡すな!」
突如、物陰から現れる割烹着の女性。
大の男一人を抱えているというのに悠々とその場から立ち去ろうとする。
「逃がすかよ!」
鎖が明乃に迫る。
それを受け止める星路。
「邪魔すんな!」
「お前も此処で捕縛する!」
「やってみろガキ!」
無数の鎖を捉える星路の拳。
しかし、それは致命的なダメージには至らない。衝撃がいなされているのだ。
鎖の一本が明乃の足を捉える。
そのまま引き倒された。
七夜が転げ落ちる。
その七夜を鎖が絡め取った。
「任務完了ってな〜。おい遊星、転送しろ」
その時だった。
星路が七夜を抱える鎖の先端に鎌を見つける。
「それが本体か!」
黒介とそれに抱えられた七夜が光に包まれていく。そこに。
「惑星殺法、彗星!」
輝く波動が尾を引いて放たれる。
狙うは鎌、転送中で動けない黒介にクリーンヒットする。
ひび割れる鎌、異形から人間へと戻る黒介。
しかし転送が完了する。
消え去る黒介と七夜。
「また届かなかった……」
「いいえ、そうでもありませんよ?」
明乃が不敵に笑った。
そして。
星滅教団埼玉支部。
「いてて、最後っ屁にやられた」
「七夜は取り返せたが、階梯も五しか上がらず、かえって相手側の願望階梯を上げるハメになるとはな。黒介、もっと上手くやれなかったのか」
「いったろーが、俺はお前の道具じゃない。これくらい省エネでいいのさ」
早速、どこからともなく取り出した缶ビールを開けて飲みだす黒介。
七夜が起き上がって。
「……気を付けろ」
「あん?」
「まさか――」
都内某所、ウツワが星の間にて見つめるは虚空。
「見つけたぞ遊星――衛星砲、発射」
昼の月から放たれた
星滅教団埼玉支部に降り注ぐ。
消し飛ぶ教会。
残ったのは更地のみ。
――かに思われた。
「はぁ……ぐっ!?」
遊星が障壁を張っていた。
ボロボロになった身体、ローブの裾が破れている。
しかし、黒介、七夜、そして別の部屋にいた吉比斗は無事だった。
「なんだ……今の!?」
「かーっ! 久々の酒はうめぇなぁ!」
「黒介、控えろ」
「器の衛星砲だ……やってくれる」
「奴ら、人殺しは出来ないんじゃなかったのか」
「今の光に当たってみろ、破滅願望を取り除かれて真人間にされるぞ」
遊星以外の三人が黙り込んだのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます