第3話 千年後の荒野で
今宵もまた隕石が降る。
「これでも階梯は一しか上がらんか」
遊星は顎を掻く。
「充分じゃないか? 数十人の信者でそれならば」
七夜が答える。
破壊された教会跡地。
星滅教団の数ある、そして今も増えつつある教会の一つ。
破滅願望集団は増え続ける。
「お前や吉比斗を核兵器級にまで強化したい、いずれこの星を壊せるように早くな」
「星の器さえ殺せば滅ぶんだろう?」
「セカンドプランは持っておきたい」
「そういうものかね」
遊星は座り込む。小さな瓦礫を拾う。
「私はこの星の石ころ一つ憎い」
「そうか」
「だからそれを破壊できるなら手段は問わない。七夜、例の実験を行うぞ」
「了解」
その場から消え去る二人。
小さな瓦礫は砂と化していたのだった……。
「うわー! またババじゃー!」
「お前、顔に出やすいんだよ」
都内某所の屋敷。
ババ抜きをするウツワと星路。
そこに明乃が現れる。
「ウツワ様、予言のお時間です」
「む、もうそんな時間か」
「行って来い」
「応よ」
その場を離れ、明乃に奥の部屋へと通されるウツワ。
下には五芒星が描かれ。
上には星空があしらわれ。
星の間と描かれたプレートが吊り下げられる。
「星に願いを、今叶えたまえ」
「うむ、その願い聞き届けた」
ウツワの瞳が目の前の明乃を映さず、銀河になる。
比喩ではない、眼球に無数の星が輝いていた。
「視えた」
「……何を見られたのですか」
「池袋じゃ、池袋が火の海になる」
「!」
「じゃあ行くか、池袋」
その場に今に居たはずの星路が現れる。
明乃はそれには驚かない。ウツワもだ。
「行って来ます、留守をお願いします」
「頼んだぞ」
「……お気を付けて」
星路はその場から消えた。
ウツワと明乃を残して。
視点は変わって。
「懐かしいな」
池袋西口公園。
七夜が佇んでいた。
「ここもだいぶ変わった」
年寄りのような口を利くスーツ姿の成人男性はおもむろに立ち上がる。
「さて、始めるか」
パァン。
乾いた音が鳴り響く。
通行人の頭が撃ち抜かれた。舞う血飛沫。
続けざまの発砲音。集まる警官。
そいつらさえも撃ち抜く不規則な弾丸の動き。
弾が意思を持っているような動き。
人々に逃げる場所は無かった。
「そこまでだ」
星路が跳び蹴りを放っていた。それは七夜の顔面を捉えている。だが。
「痛いじゃないか」
「ちっ、こいつこの前の奴より階梯が上だ」
「如何にも俺の階梯は百だ」
殴り合いが始まる。ジャブの打ち合いだ。
空気が弾ける音。互いに躱していく。
そこに七夜のボディブローが見舞われる。星路の腹を狙って。
しかし。
「拳だけってルールはねーよな?」
跳び上がる星路、そのまま七夜の顔を踏みつける。
「だからいてぇじゃねぇか、二度も人の顔踏みつけやがって」
「何回でも踏んでやるよ、雑魚」
死闘が始まる。
銃弾が乱れ飛ぶ、それを全て素手でいなす星路、しかし疑問に思う。
(銃はどこだ?)
そう肝心の銃が見えない。
星路は目を凝らす。
そんな中でも銃撃は止まない。
「ちっ、惑星殺法、無間」
呼吸を止めた星路は銃弾の雨をゆっくりと躱していく。
時がゆっくりと流れて行き、星路だけがそこに取り残されたようだった。
「此処か」
ようやく見つける銃口、七夜の人差し指……いや違う。
五本指全てが銃口と化していた。
左右合わせて十丁の銃が有った訳だ。
「なるほどな」
種明かしは終わった。
反撃の時間。銃口につまんだ銃弾を逆に詰めてやる。
星路が呼吸を戻すと時間の流れが元に戻る。七夜の両手が暴発して弾け飛んだ。
「ちぃっ」
七夜の舌打ち、それは星路の知る由の無い事だが冷静な彼からすると珍しい行為だった。
「変形するぞ遊星」
「許可する」
突如、虚空から現れる黒いローブ姿の少年。
「……遊星」
「どうした星の使徒、会うのは何度目だ?」
「数えてねーよ」
「お前も器を呼んだらどうだ?」
銃の化け物へと姿を変える七夜。雄叫びを上げて銃弾を幾万発とばら撒く。巨大な銃弾の乱舞が辺りを破壊しつくす。
「ちっ、これじゃ近づけねぇ……」
銃撃の壁の前に圧される星路。
『我を呼べ、ホシミチ』
『
念話による会話、そんな中でも銃撃は止まない。
「仕方ない……星に願いを、今叶えたまえ」
「その願い、聞き届けた」
池袋に現れるウツワ。
「ここが池袋か! ハンズはどこじゃ!」
「あの看板ならもうない」
銃弾の雨からウツワを庇う星路。
「ガーン……」
「いいから早く願いを叶えろ」
「……変形を許可する」
変形と言っても、星路の姿が化け物へと変わる訳ではない。
星路の纏う服が変わる。
闇色の胴着を纏う。
金色のブーツと手袋がはめ込まれる。
銀河の様な意匠のマントをたなびかせる。
いまいち統一されていない衣装に変わった。
「これいつ見てもダセェ」
「ワシのセンスが古いじゃと!」
「ワシとか言ってる時点でな」
ボケとツッコミをしてる場合ではない。
銃弾の雨は止んでいない。
「惑星殺法、煌」
放たれる波動。銃弾を薙ぎ払う。七夜を貫く。
「ガハッ!?」
一気に間を詰める星路は拳を固める。
七夜は全身の銃口を星路に向けた。
「死ね」
「お断りだね」
銃口に輝く拳を突きこんだ。
弾け飛ぶ七夜の身体。銃身がバラバラに砕け散る。
「ガッハァ!?」
「どうしてこうも弱い奴ばっかり送ってくるんだ?
遊星は嗤う。
「これで代償階梯が五十は上がった」
「何?」
「今回のテロの恐怖心は、星滅教団信者の破滅願望を加速させる」
「最初からそれが狙いで……!」
「次は吉比斗で試す、止めたいならいい加減、殺す覚悟を決めたらどうだ?」
押し黙る星路。
「お前ら星の使徒は人を殺せない、それが遊星の死人という異形であっても」
「……」
「犠牲はいつまでも増え続ける」
「……止める」
「お前らには止められない」
「……止めてみせる」
遊星は嘲笑う。
「やってみろ! お人好し! 善行のつもりが犠牲を積み重ねてるだけと何故気づかない!」
星路は遊星を睨みつける。
吉比斗の時のように手品の要領で七夜を掴もうとする遊星、しかしそこで。
「こいつは渡さん☆」
ウツワが七夜を両足で踏みつけた。顔を。何度目だろうか七夜は今日だけで何回顔を踏まれたのだろうか。
「何?」
「負けっぱなしは嫌なんでね」
七夜を確保するウツワ陣営。
遊星は歯噛みする。
「ちっ、御せると良いな?」
「封印するだけだ」
消える遊星。
ウツワは七夜を縄でふん縛る。どこから出した。
「ナイフの化け物の時もこうすれば良かった」
「そうじゃな」
ウツワと星路は七夜を担いで屋敷へと帰ったのだった。
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