第39話 6-1:Room of a secret




ーーーーーガチャン。




響いた施錠の音は、勿論部屋のシステムによるもの。


この瞬間から俺と蓮見さんは、当たり前に大きいベッドが横たわり、無駄に耳に障るBGMと、無駄に雰囲気を煽るピンクやパープルに変色するライトの部屋に隔離、捕らわれ、閉じ込められて一夜を明かす事になった。


コンビニでの出来事から部屋に入るまで蓮見さんは一言も話さず、買い物中のはしゃぎっぷりはどこへやら、今は借りて来たネコの如くベッドの端っこに腰を掛けている。



俺は買って来た物を冷蔵庫へと入れ、濡れた上着をハンガーに掛けてネクタイを緩めた。


「蓮見さん、服濡れてるから脱いだ方がいいですよ?」


「!!」


「・・・蓮見さん、大丈夫ですか・・・?その・・・わざとじゃないんですけど・・・さっき・・・」


「いっ・・・あ、そ、それは・・・だいじょうぶ・・・」


いや、その様子で大丈夫って言われても・・・明らかに気にしてるし、様子変じゃんかよ・・・


声掛けただけでビクッてするし、俺ラブホに入ったからって「待ってました!!」みたいに襲わねぇし・・・


「風邪ひくと困るし、蓮見さん先にシャワー浴びますか?」


「!!シャッ・・・しゃわァ・・・?!!」


「・・・・・・蓮見さん・・・ふ・・・ふは・・・あはははッ・・・ほんと、ははっ・・・どうしたんですか?」


なんだかわからないけど、挙動不審な蓮見さんは声も裏返るし、意識しまくりすぎて俺は可笑しくて噴き出した。


「そんな警戒しなくても何もしませんよ、俺先にシャワー浴びてきますね、ワイシャツくっついてキモチ悪いし、さっぱりしてきます。」


「わ、わかった、わ・・・どうぞ・・・」


「くっ・・・ふは・・・」


反論すらせずに、蓮見さんはガチガチに緊張している。


なんだ?そんな要素あの時あったか??


何はともあれ、いつもと違う蓮見さんを見れて俺は嬉しい。


「はい、まぁお茶でも飲んでゆっくりしててください、アルコールがよければ冷蔵庫に入れてありますから。」


お茶のペットボトルを手渡し、ベッドの上のナイトガウンを手に、俺はバスルームへ向かう。


ラブホなんてそういえばひさしぶりだな、と広めの浴室に目を配って感慨に浸る。


いつぶりかわからないラブホにドキドキなんて今更しないし、見た事ないくらい緊張している様子の蓮見さんも面白いし、不可抗力で触れてしまった身体は小さくて、細くて、あのまま抱きしめてしまいたかった。


そうしてもいい権利があればいいのに、ただの片思いとも違うし、ただフラれるよりも・・・って、あ、俺フラれてるんだった、うっかり忘れてたわ。


男嫌いの上にノンセクシャル、他人の愛を求めないし、好きにもならないんじゃ、下手な事をして嫌悪されてこの関係が破綻する方が嫌だ。


何回フラれてもいいけど、無関係の関係になるのだけは避けたい。


蓮見さんに失望されたくないんだよ俺は。


『仕事上では信頼してる』、あの言葉と笑顔を失いたくないんだ。




シャワーを浴びて浴槽を流し、蓮見さんが入るかわからないけど湯張りをしてから俺は、何もしないぞという決意を新たに蓮見さんがいるベッドルームへと戻った。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る