第38話 5-7
「蓮見さん、他に必要な物あったらカゴに入れて下さい。」
「じゃあお酒も入れちゃおうかな」
「え、酒もいいんですか?なら俺も。」
「いいんじゃない?領収書に品名乗らなきゃ大丈夫よ。後は平坂さんに頼むわ。」
ホテルに入る前に近くのコンビニで腹を満たせそうな物や夜のおやつを買い込む俺たちだが、押し問答の末に俺が覚悟を決めれば、珍しくテンション高めな蓮見さん。
あれもこれもと買い物カゴに入れて、夕飯と明日の朝食や飲み物の他、スイーツやアルコール類、アイスも入れて俺が持つ買い物カゴはいっぱいになっていく。
「蓮見さ~ん、そろそろ重いんですけどまだ買うんですか~?」
「うーん・・・そうね・・・」
「いや、そうねじゃなくて、一泊しかしないんですよ?最低限のもので十分では・・・」
「だって・・・夜は長いでしょ?食べる以外する事ないじゃない。」
そんな拗ねたみたいに見上げたって、「この、なんだよおまえ可愛いな、他になんて・・・シてほしいんなら朝までだって愛してやるよハニー」とか言えないんだぞ!!
くそっ・・・!!
可愛いのに頭撫でたりとかもできないんだぞ俺は!!
あァァァァっもう!!可愛い!!
そもそも、ラブホに公的に泊まれるのに、蓮見さんとなんてこの先二度とないチャンスなのに、お手付きお触り禁止条例が俺たちの間には存在し、分厚い壁もしくは、深い深い断崖が俺たちの間には存在するので、目の前でちょろちょろと動き周り、突然方向を変えて戻って来るのをぶつからないように俺は身を翻して回避している。
俺が悶々としている間も、何度も周回したコンビニ内を更に周回を重ね、何かないかと探している。
「蓮見さん、受付終了です、レジ行きますよ。」
「あっ待って・・・っ」
「っぶな・・・すいません」
俺は、急に振り返って近くの人にぶつかりそうになった蓮見さんへ咄嗟に手を伸ばした。
それは奇しくも、蓮見さんの身体の前へと手が回り、背後から胸の少し上を抱えて抱き寄せるようになってしまった。
ぶつかりそうになった人に謝罪し、結果ぶつからずに済み、その人も持っていた珈琲をこぼさずに済んだけど、これは・・・アウトか・・・?
胸に触れてはいないけど、抱えるように抱き寄せたこの体勢は・・・条例違反なんじゃないか・・・?
これまで必死に守り続けてきたのに・・・俺の努力は水の泡なのか・・・?
一瞬で絶望に包まれ、ここがナナのつくコンビニではなく、足元からガラガラと崩れるまさに断崖の先にいるような気がしてくる。
俺は蓮見さんの身体に触れていた腕、腕だ、手ではない、手のひらで掴んでもいないし、指先で触れてもいない、触れたのは腕だ、その腕をそっと蓮見さんから離して、この状況がアウトなのかセーフなのか、<
「・・・・・・すいません、蓮見さん・・・・・・あの・・・・・・」
しかし、俺が腕の中から解放してしばらくしても、その場でカップ入りみたらしだんごを両手で握った蓮見さんに動きがない。
「・・・蓮見さん・・・?」
「・・・い・・・いき・・・ましょうか」
消え入りそうな蓮見さんの声は、俺を振り返ることなく、かと言って非難を浴びせる事もなく、みたらしだんごを手にレジへと向かう。
予想と違う反応に逆にどうしていいのか戸惑いを抱えて、重くなったカゴを手に俺はその後に続いた。
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