マツイくん

甲乙いろは

ep.1

マツイくんは、中学3年生の時のクラスメイトで、

誰にでも優しい口調で喋る男の子でした。

僕はそこまで仲良くはなかったけど、席が近かったので、少しずつ喋るようになりました。

朝のあいさつをしたり、シャーペンの芯をもらったり、消しゴムを借りたり、教科書を見せてもらったり、ノートを借りたり、

どんな時でも、嫌な顔せずにいつも優しく接してくれました。

そんなマツイくんにも、一つ苦手なことがありました。

それは朝が弱いということでした。

いつも廊下を走って教室に入ってきました。

僕は笑いながら「今日も間に合ったね」と言うと、

マツイくんは、息切れしながら「うん」と言って笑いました。


中学を卒業すると、マツイくんと会うことはありませんでした。


僕は21歳の時に近所のボウリング場でアルバイトをはじめました。

そこで、マツイくんと再会しました。

その時も、マツイくんは走っていました。

アルバイト先でも、マツイくんはいつも遅刻ギリギリの時間に走ってきました。

僕は笑いながら「今日も間に合ったね」と言うと

マツイくんは、息切れしながら「うん」と言って笑いました。


アルバイトを辞めてからは、マツイくんに会っていません。

でも、きっと今日もどこかでマツイくんは走っているのかなぁ。

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マツイくん 甲乙いろは @coats

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