魔法省人事録(8)
「ええー、事件からもう一週間が経ったわけですね」
魔法省施設長からの通達、今日はとても大事な通達事項があるとのことで職員全員が、各々の部屋から聞くなり、壊れかけただだっ広いメインホールに集まるなりして、その話を聞かなければならない。
ここ最近できた拡声器という物のおかげで声がより大きく遠くまで響かせることが可能となったことでやばい組織の集会のような集まりをメインホールで聞く必要はなくなった。
つーか紙面で配れという話だが、与えられた本棚の中にある部屋で俺は拡声器越しに話を聞いていた。
「まず一つ目、先の戦いで施設の設備の大半及び職員数十人の命を失うこととなりました。これは私達にとってとても悲しい出来事となりましたね。なので全員で黙祷を捧げましょう」
施設長は気だるげというか覇気のない声でそう告げる。30代の施設長とはとても思えない程カリスマ性というのはないように見える。
「それで二つ目、これが最も大事なことです。ええ私達が危惧していた事態の一つ、保管していた魔族の遺体が消失しました。この魔族の遺体はラルゲイユスと名乗る魔族がナルバエスと呼んでいた…」
この報告により、職員がざわつき始めたのが分かる。
ナルバエスの遺体。急遽名付けられた魔族の遺体こと一連の魔族襲撃に関する証拠品が消失した。
そもそもどうして消失したのか、そもそもどこで保管していたのか、誰かが盗んで行ったものなのか、という質問などに答えるつもりはないのか、施設長はまた気だるげに「三つ目」と声を上げる。
「ロディ、メアリー、ロベルト。全員年齢17歳の以上三名、解散後メインホールに集合」
「へ」
思わず声を出してしまった。施設長からの突然呼び出し、しかもメアリー、ロベルトと比較的一緒にいることが多いメンバーと共に。
俺もメアリーとロベルトも施設の復旧が少しは進んだとのことで今日ここに来たばかりだ。それまでは魔法省管轄の貸しアパートで惰眠を貪っていた。
復帰初日に呼び出し。ということで解散となったあと俺は自身の部屋から出て、メインホールへと向かおうとした。
だが部屋の前には見たことのある人物が立っており、それにより俺の歩みは阻まれた。
「わ、ロディぶつかるなよ〜」
「…ロベルト、何だよ俺の部屋の前まで来て」
俺がロベルトに気づかずにぶっかったことをわざとらしく痛むような表情を浮かべて上目遣いにこちらを見る。それはただ単純に気味が悪かっただけだが。
「何だよってさ、呼ばれたメンバーが何だかな〜って、このメンバーって例の戦いで生き残った人だよ」
「例のって、あの空飛ぶ狼か」
「だね。俺は一応魔族対抗の選抜要員のつもりだったんだけど彼女に先越されちゃったし」
「…それで?」
「まあそういう関連の話だろうね〜ってだね、じゃ一緒行こ」
ロベルトは軽くそう話しかけてくる。こちとらまだ傷がそんなに癒えてないってのに。心臓止まってたんだぞお前も俺も。なんでそんな元気なんだ。
酒を飲んだつもりはないの飲んだみたいに頭がガンガンと痛い。15歳未満での飲酒が禁止され出してきている理由が少し分かる。多分こうなって仕事にならないからだ。
俺とロベルトはロベルトを先頭にメインホールへと向かいだした。道中に話を弾ませようとしたロベルトを無視して、ロベルト独り話ながらメインホールに辿り着いた。
メアリーはどうやら先に着いていたらしく、施設長と話をしていた。だが思ったよりメアリーの顔が深刻に見えたが。
「…えっと、呼ばれたロディです」
「俺ロベルトっす。で用って何ですかぁ?」
ロベルトはわざとそう言っているのか、そのまま肩を叩くレベルで施設長に話しかけた。
「あー、ロディとロベルト、で彼女がメアリー。僕は施設長のジャッカル・ラギー。君達があの空飛ぶ狼と第一線で戦ってた僅かな生き残りって解釈でいいかな?」
施設長の名前(忘れてた)のジャッカル・ラギーは通達時とほぼ同様に気だるげにそう言ってくる。
「まあ彼女にはちゃんと説明したけどもう一回するね。ここから遠く離れたヒレェユィ村で例のアレ…えっと…そう、伝染病」
伝染病…伝染病だと?
「それ本当ですか?」
「あー、うん。今魔法省の施設の大半が崩壊して、人員のほとんど復旧に回してんの。だからまあ開いてるのが君達だし、君達は唯一心臓の…心臓の…あれで生き残ったから頑張れるよねってことで…」
こいつ伝染病の恐ろしさ知ってんのか?もはや怒りすら覚えるレベルにイライラとしていた。
この施設長は下の名前を持つ通り、貴族の一派だ。だから他の貴族、例えばグレイン家のように前に兄妹で事件起こした奴との関係を保つためか、あるいは仲が良いためか、物事の匙加減がとにかく適当だ。
伝染病はその気になれば街一つを駄目にできる。それを三人で対処するなど…
「あのですね…伝染病ってこんな少ない人数で対処できるもんじゃないですよ」
俺は思わずそう言った。だが施設長は聞く耳を持たず、ただ感情的でもなく事務的にこう言った。
「もう決まったことだから。じゃ、あとは頑張ってね」
殴りたくなった。
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