魔法省人事録(6)
魔法省。ロベルトとも知り合ったのもここだった。そしてロベルトとも親しい仲になってきた頃
「…知ってる?ロディ」
「何をだ?」
「あのメアリーとか言う女のこと、俺らより2年くらい先に入ってきた奴でさ、一応は俺らの先輩的な扱いらしいよ」
「そうらしいな」
「で面白い話が一つ、そいつ実技テストで100点満点取ったって噂」
「100点?」
「またテスト方式じゃなくて加点式なんだけど、そのくらいほぼ圧倒されるような魔法とかそういうのを使えるって話」
「つまり?」
「魔法省にいる中で一番強いかもね〜って話、世の中はとても広いから分かんないけどさ。また二つ名持ちが世界に増えるかも」
「ふ〜ん」
その後、メアリーは俺達の前にいた。何故だったか、職員同士の組み合わせがあったはずだがそれがメアリーだった気がする。
そしてその律儀な性格にうんざりした。ロベルトはそれはそれで楽しんでいたようだが。
「あいつほんとに強いのか…」
と疑う日々もあった。その力はほとんど人間には使わない。冒険者ギルドから矢継ぎ早に任された魔物退治も大抵誰でも使えそうな魔法で一撃で葬り去るから。
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そして今、俺は彼女を見ていた。雨と風と稲妻が混ざった塊を浮かばせる彼女の姿を。
そしてその手はラルゲイユスの方へ向けられる。その瞬間その塊は分裂を繰り返し、水、風、雷の音を鳴らしながら放たれて行く。
ラルゲイユスはその塊を頭部に生えた剣で切り裂いて行く。剣がその塊に触れるたびに弾け飛んでいく。
ラルゲイユスは距離を取りながらまた空中に浮かぶ。そして再びの咆哮により、雷を天から呼び寄せる。程なくして嵐が再び戻ってくる。
『奴だ…奴が一番危険だ。何故…奴は…』
ラルゲイユスは独り呟きながら稲妻を放っていく。
だがラルゲイユスは気づいていない。先程の攻撃は全てこの一撃のための過程ということを。
雷が鳴る。再び光が放たれる……そして青い光がラルゲイユスを襲う。
「ん?」
おかしい。確かラルゲイユスが稲妻を呼び寄せた瞬間、ラルゲイユスの真下の地面から青い光が上空に向かって放たれたのだ。要は攻撃を防ぐために逆に先制攻撃してやったということだろう。
「わー、あれは魔族とかそういうやべーのに効きそうな魔法やー」
ロベルトが隣で青い光の解説をしてくれたが、イマイチ分からない。
ラルゲイユスは呻くことはなかったが、苦悶の表情を浮かべる。そしてその場を動くことはなかった。
青い光が消えると同時にラルゲイユスは地面にバタン!と大きい音と瓦礫による煙を上げながら落ちていく。
「見事見事、倒しちゃったのそのまま?」
ロベルトは俺の頭越しにメアリーに気さくそのままに話しかけるが、メアリーはこちらをチラリと見るだけだった。
「…真面目にやれって言われちゃったね。よし、後処理するぞー!皆ー!」
ロベルトの掛け声にそれまでジッと見ているだけの魔法省職員、俺含めてが自分の役割を思い出し、すぐ様ラルゲイユスに向かって走り出す。
「瀕死の者は遠くに運んでいけ!」
「対魔族用の魔導具は!?」
「全員始末の準備に取りかかれ!」
ラルゲイユスはおそらくこの後、殺されるだろう。おそらくあの青い光ではまだ死んでいない。あれだけ天候を操れる力があるのだ。そう簡単には死なないだろう。
その始末には俺も賛成するつもりでいた。ただ気がかりなのはただ一つ、メアリーのことだけだ。
はっきり言って何者かも分からない奴だ。魔法省で抜け出たあれ程の強さ、一体何者なのか…。たまにそういう桁違いの奴という者はどの分野にいてもいるのだが。
「…にしても魔族が襲撃に来るとはね〜、従者うんぬんの話も気になるし、何よりこれからの研究が捗るぞ〜、少しでも死体の一部を回収さえできれば…うん!」
ロベルトは勝手にそう喜んでいるが、無視して俺もラルゲイユスの方に向かおうとした時だった。
パチという音。
俺は目を見合わせる。隣のロベルトは不思議な顔をしてラルゲイユスの方を見ていた。同じく隣で空中に浮かぶメアリーも。
再びパチという音。
腕のあたりがゾワゾワするのを感じた。
またパチという音。
今度は体全体でヒリヒリとした。一瞬指の先から黄色い光が見えた。まるで雷のような。
そして…またパチという音。
その瞬間だった。
空間を斬り裂くような残影、それが何重にも渡って通り過ぎていく。体の感覚が消えていくのを感じる。何が起きたのか全く分からない。気付けば地面に横たわっている。
上手く動けない。考えられない。息ができているかも分からない。
それも俺だけじゃない。全員だ。メアリーもロベルトも他の職員も全員倒れている。
『…これは九死の力、となれば我は死の淵にいたということか』
狼の声だけが聞こえる。
『我は雷の化身、全ての灯火を操る者。人の子よ、それはお前達自身の灯火による結末だ。やがて来る死を待つがいい。それが我が従者の報いとなる』
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