第193話 大統領と車列とTSA(7)

大統領車列襲撃から遡ること5分前


-アメリカ合衆国 カリフォルニア州 

モハーヴェ空港-


モハーヴェ空港。そこは飛行機の墓場、いわゆる廃棄予定の飛行機の終着地点となる場所だ。


砂漠の真ん中にあるこの空港の滑走路はありとあらゆる廃棄予定の飛行機で埋め尽くされていた。


本来廃棄予定の飛行機が入るその滑走路に今着地しようとする飛行機が1機…この空港へと入ってきた。


「…にしてもTu-244がまさか実用化されているとは思わなかったな。こいつを作ろうという計画は凍結されたと聞いてたもんで…」


マイク アレックスは自身が乗ってきた超音速旅客機の名前を呼ぶとともにその先の尖った独特な機体を目に、滑走路へと降り立った。


「特注でロシア政府に作らせたものです。超速度で大規模な輸送が可能な機体がロシア政府が実現しようとしていたTu-244ジェット機が割にあってたもので…顧客が我々しかいないためか極秘裏に1機のみしか作られていないのですがね」


「超音速旅客機か…世の中すごく変わったもんだな…いろいろと…」


ケニー ロイド。アフガニスタンの米軍基地時代からの俺の友は何かに感慨したのか、そう後頭部を薄くなぞらえるように掻きながら、スタッと滑走路に降り立つ。


「えぇ、ほんとに時代は変わったものですよ…我々が把握できない程にね…」


先程から丁寧な言葉遣いで話しているこいつはいわゆる中東アフガニスタンからアフリカのナイジェリア、モロッコ、そしてアメリカという故郷に帰ってきた俺達のガイドと言ったところだろうか。


いわゆる彼合わせたエージェントと言われる彼らが俺達を家に帰してくれるということらしい。


「マイクさん、ケニーさん共にサンフランシスコの近くに住んでいると聞いています。すぐに車両をご用意致しますので少々お待ちを」


「あ、あぁ頼む…」


俺ははっきり言って慣れないエージェントに曖昧に頷くとエージェントは会釈後に去っていく。


「…なんだか慣れないな。あんな丁寧でいられると」


「それよりかはまずはペプシコーラを飲まないとな。あそこじゃ全然飲めなかったもんだ」


「おいおい、コカ・コーラじゃないのか…」


「ペプシコーラのほうが俺には合ってんだよ…それより他の奴らは無事に帰れたらしいぜ」


「他…?あぁ彼らか、それは良かった」


彼らというのはナイジェリアの任務で一緒になったクリス、ハミルトン、マキシモフの三人だ。


彼らの故郷はそれぞれカナダ、フランス、ロシアとなっているが…


「なんでアメリカの俺らは一番遅いんだろうな。自由に入国すらさせてもらえないのか?自由の国だってんのに…」


俺達TSAはニューヨークの件も合わせ、アメリカ政府からは人目置かれることとなった。そのためアメリカ国内、国外合わせての権利云々が面倒くさくなったという。


「ニューヨークは今も後片付けに追われてるらしい。ウォール街の封鎖で世界経済もめちゃくちゃだ…」


ケニーはう〜むと唸りを上げて、再び前髪をヒタリと抑える。


「とりあえず家に帰ろう。お前の奥さんも待ってるんだろ?」


「そうだな……ところで迎えの車遅くないか?」


「少々が少々じゃないことくらいお前も分かってんだろ……」


※アメリカの公共バスは平気で時間割に遅れます。ひどい場合は30分。というかそもそも時間割がない場合もある。


「それもそうなんだが…」


その時だった。


「……出動要請が出たぞ!場所はロサンゼルス!」


「なっ…!?」


遠くから叫び声が聞こえたのは。


出動要請、それは我々TSAが動かなければならない異常事態が発生したということだ。


「また化け物共か…クソっ!」


「ロサンゼルス…だと…」


俺はロサンゼルスという大都市の名前を聞いて焦った。ニューヨーク、ワシントンDCに続きロサンゼルスも…


だがその後、叫び声の主こと先程丁寧な口調の彼が再び走りながら飛び出して、俺とケニー含む多数のエージェントと特殊部隊に話をまとめようとする。


「任務の詳細は…大統領車列襲撃者の撃退だ…」


「あぁ」


「正確には排除と言ったほうがただしい。後は大統領の救出、以上」


「ま、待て。襲撃者の詳細はないのかよ?」


ケニーは慌てたようにエージェントに聞く。俺もそれは気になっていた。


だがエージェントはハッという感じ、説明し忘れたというより説明の必要がないものと思っていたような…


「…襲撃者は人間。何の能力もないただの人間…だ」


「人間……?」


「あぁ…」


「どういうことだ?人間…?俺達の仕事は異次元的地球外生命体の捕獲と排除が目的じゃあ…」


「そうだ…だがこの情報を報せたFBIに潜んでいるエージェントが言うには同僚が護衛をしていたらしい。本来我々が政治色の強い事態に関わるのはご法度だが…」


「だが…?」


「同僚、ましてやアメリカの危機となれば仕方ない。TSA出動!アメリカ合衆国大統領の救出!ブラックホークは用意している!乗れ!」


こうしてミッションは始まった。





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