第189話 大統領と車列とTSA(3)
爆炎が大きく上がると共に黒のキャデラックが大きく宙に浮き、横転する。
(なんだ…爆発…奴ら一体何をして…?)
少なくとも分かるのはあの爆発の威力は手榴弾の2倍以上はあることくらいだ。
そして爆炎の上がり方を見るに、人ではなくどちらかと言えば車両の破壊を目的とした物が使われたのだろう。
そう考えている間にも対向車線と橋の上にいる敵の銃撃は止まない。横と上を取られたのはかなりの痛手だ。
そしてこの銃撃戦は止めることができない。SPや警察官が同じく銃で応戦している理由は大統領の安全確保のため。
大統領の乗る車両、ビーストは橋の崩壊に巻き込まれて動けない可能性が高い。距離の問題で最前列で何かあったかと思っていたがそれはおそらく間違いだろう。
だがビーストの性能は対戦車砲を受けても走れる程の防御力を誇り、例えパンクしていてもホイル走行が可能だ。
(ひとまず他のSP同様、大統領の様子を見に行かねば…)
だが…
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「…クソっ!近づけない!」
SPの特殊部隊の面々は大きく足止めを喰らい、大統領のビーストに近づけないでいた。
先程の爆発によって何台かこちら側の車が横転したことが大きい。ガソリンへの引火が原因でその先に続く道のりが困難になっている。
「対向車線側の敵からなんとかする。二手に分かれて行動、上方からの銃弾を隠せるように防護盾を上に向ける人員と発砲する人員とで分担、投擲物に注意!行動開始!」
特殊部隊のリーダーはそう言うと一気に身を翻し、動こうとした…が…
「…!投擲確認!バックパック!」
「何!?」
次の瞬間、先程と同様の爆発が背後で起きる。その爆炎に巻き込まれる特殊部隊、かろうじて数人がSPのキャデラックで隠れることができた。
「上から銃弾!」
「スモークは炊くな!脇を狙われるぞ!」
「閃光手榴弾!」
特殊部隊は上からの攻撃を中和しようと閃光手榴弾を投げる。
ピカン!
閃光手榴弾の光が一時的に上からの攻撃を止ませることに成功した。
「さっきのあれはバッグか!?」
「あの中に爆薬…先程上の奴らが投げているのを見ました」
「C4爆弾…クソっ!現状の生存者は!?応援はまだか!?」
その時だった。
「SPの生き残りか!?」
そう声がした。そちらを向けば中年の男が爆炎の煤を被りながらも車両一台を挟んでまだ続く車両に身を潜めていた。
「そうだ!現状のこちるの死者数は不明!だが既に何人かやられてる!」
「橋の崩落地点の様子は!?」
「上からまず真っ先に蜂の巣にあった…どうにかここで銃弾をしのいでいる!」
「LAPD(ロサンゼルス市警)はまだなのか…」
「警察の火力では対処できん!コードレッドだと既に伝えている!」
「衛星通信車か…」
「だが公式的な応援はまだだ!SWATも10分はかかる!」
「公式的…そうか…あんた携帯は!?」
「は!?」
「機種は何でもいい!とにかく携帯を!」
中年はそう言うと特殊部隊に携帯電話を求めてきた。
「何をするつもりだ!」
「説明してる暇はない!」
「シークレットサービスに変わりは…クソっ!場所がバレてる!奴ら撃ってきてやがるな!」
「時間がない!対向車線側からも来てるぞ!」
「……ほら!受け取れ!」
特殊部隊のリーダーは何を考えているか分からない中年にスマートフォンを投げる。
中年は見事に両手でキャッチし、どこかに電話をかけているようだった。
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-アメリカ合衆国 ニューメキシコ州 FBI支局内-
「事件が起きうる可能性が一番高いのはカリフォルニアだ。ネット上での活動を主としているせいか犯人像がいまだに掴めない」
「CIAのデータサーバにも当てはまる人物はいないと…」
ジム コールソンは歩きながら会話していた。
その隣にいる人物、エレナ シャーロットと共に。そしてエレナはその時、自身のスマートフォンに着信が鳴っていることに気づいた。
「失礼します…はい…」
『トーマス フォードだ。至急コード・レッド!場所はロングビーチフリーウェイとサン・ディエゴフリーウェイの合流地点!』
「コード・レッド…?」
コード・レッドとはTSA内で使われる言葉で三段階のブルー、イエロー、レッドに分かれ、レッドは最も最悪な事態を表す言葉だ。
「ロングビーチ…カリフォルニア…何が…?」
『大統領車列の襲撃だ!』
「なんですって?」
その時、廊下を走っていた捜査官の一人が大声で叫び始める。
「大統領車列の襲撃発生!可動員は全員情報収集を!」
「な、なんだと!?」
これにはジムもかなり動揺しているようだった。
「TSAの基地はカリフォルニアにはない…急いで向かわせたところで30分は…」
『分かっている!だから公式の手筈ではなく、非公式の手筈での応援を頼みたい!』
「何?」
『エレナにしかできないことだ!時間はない!手短に言うと…』
現時刻2022年9月16日午後2時32分。車列襲撃から8分後
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