第190話 大統領と車列とTSA(3)

「状況は?」


「予定通り…C4の入った爆弾放り投げたましたよ」


「こっちに元海兵隊員がいてくれたおかげか。引き続き現場の指示は彼に」


「分かりました」


彼は電話を切ると、停車中の電車の上から降りようとする。先程から見晴らしの良いように車両基地の電車の上からずっと双眼鏡で様子を見ていた。


ここまで筋書き通り、大統領はできれば見せしめに殺すつもりでいるが、最悪あの場で殺せばいい。既に大統領のビーストにはC4爆弾を仕掛けているのだから。


元々電話相手の彼はこのカルトじみた組織を発足する以前に在席していた組織でいわば同僚に近い状態だった。


「…任せたぞ」


彼は信頼を込め、力強くそう言った。

____________________

「私が対向車線に行って横から攻撃する。その隙に奴らを一掃してくれ」


「正気か?上から良い的にされるぞ」


「だからこそだ、注意が少しでも逸れる」


「…分かった」


トーマス フォードは覚悟を決め、立ち上がった。そして車の影から出ると、勢いのまま路側帯の縁を越え、横列している車の一台の陰に踏み入れようとする。お守り程度にしかならないが拳銃で敵を僅かに牽制しながら。


対向車列側の敵に接近しすぎないように斜めに対向車線に入ろうとする。その分銃弾に晒されるリスクは大きくなるが。


当然、銃弾は私の足元のすぐそばを通る。だが、それらが私に当たることはなく、どうにか無傷で辿り着けた。


だが…


「っ!やはり撃ってくるか…!」


対向車線側にいた銃撃者の数人は一般車を盾にこちらに銃弾を撃ってくる。よく見れば銃撃者全員が黒いアーミーマスクを被っている。


(…やはり統率自体はあるようだ。数人でこちらに向かわせ、残りは全て車列の残党狩りに集中している…)


それに加え、こちらに来る少なくとも5人の人物、彼らは全て自動小銃…おそらくロシア製に見える物を全員が所持し、うち3人が段々と接近してきていた。


(無謀すぎたか…援護射撃で弾幕を張って、顔を出させないうちに近づこうという寸法か…)


敵の戦略は分かる。だが分かったからと言ってこれと言った打開策が出せない。既に彼らとの距離は15mもないだろう。


ならばこちはも秘策をと思い


「…頼んだぞ」


が、その瞬間、こちらに接近していたうちの一人が銃を地面スレスレまでに下げた。


(…!まずい!)


その刹那、寸前のところで前の車に移る。銃弾が当たらないように射線を切りながら。


ダダダダダダダダッ!!!!


銃声と共に先程までいた車の下を銃弾が通り抜けて行く。だが移った車の下を銃弾が通り抜けることはなかった。


(足を狙ったな…車の下に銃弾を通すか…!)


だがこちらも打開策はある。先程投げそこねたこれを…


「今度こそ…!」


私は車の取り付けてある発煙筒を上に投げた。その瞬間である。


カランという乾いた音が私の近くで鳴る。それを皮切りに私は目と耳を塞ぐ。そして…


カッ!


「!?ッ!クソッ!フラッシュだ!」


銃撃者の一人が叫んだ。フラッシュこと閃光手榴弾が近くで効果を発揮した。


(隙ができた!)


私はそれを見逃さなかった。すぐにP320自動拳銃を握りしめる手を強め、そして…


ダンッ!


先程車の下を撃った銃撃者、立ち上がった後もろに閃光手榴弾を喰らっているであろう彼に鉛玉を撃ち込む。


撃たれた彼は銃弾が進む勢いのまま仰向けに倒れる。額あたりに撃ったが致命傷となったかは分からない。


(防弾チョッキを着ている可能性が高い以上頭を狙わなくては…)


続けて接近していた残り二人のうちの一人に拳銃を向け


ダンッ!


車のボンネット越しに放つ。銃弾は今度ははっきり左頬を撃ち抜いた。その後少し間を置いて倒れたようだ。


「あとは…」


だがそこで後方からの援護射撃が邪魔をする。やはり後方の人間は閃光手榴弾が発揮した効果が薄いようだ。


その瞬間、接近していたあと一人、彼は自動小銃を手にし、頭を振って正気を保つような動作の後に


ダダダダダダダダダダダダッッッッ!!!!


手当たり次第に銃弾を撃ち込んできた。距離はかなり近く、隠れ蓑にしている車に次々と風穴ができる。


(徹甲弾でこの距離なら一般車などすぐに貫通してしまう)


このままではどのみち死んでしまうだろう。ならばと私は


「おおおおお!」


私は声低く叫び、身を出した。相手が怯むかどうかは分からない。先程の銃声の長さを聞くに、今はリロード中のはずだ。


そして…


ダンッッ!!

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