第187話 大統領と車列とTSA
2022年 9月16日 アメリカ西部標準時
午後2時08分
アメリカ合衆国 カリフォルニア州
ロサンゼルス ロングビーチフリーウェイ
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ロサンゼルス。アメリカ合衆国カリフォルニア州の都市。同州最大かつ北米屈指の世界都市の一つである。アメリカ国内ではニューヨークに次いで人口が多い都市であり、映画産業やテレビ産業の中心地である。
日本との時差は16時間。日本は現在午前6時に値する…
現在このロサンゼルスにはアメリカ大統領が訪問していた。西海岸の貿易を担うロングビーチ港の視察、これは元々7月11日に予定されていたものだが、丁度その日にニューヨークの惨事が発生し、ボツになった。
東海岸での事件が度重なる中、今回再度の視察は改めて西海岸のさらなる整備が必要と考えられた結果である。
しかしトーマス フォードという人物に限ってはそのようなことはあまり気掛かりではなかった。大統領がロングビーチへと向かう際の車列、その最後尾にいた彼は…
「日本の支部が出した昨今行われている様々な超常事件に対する一つの解答案…か」
トーマス フォードは黒のレクサスの助手席でノートパソコンを開き、送られてきたメッセージを精読していた。無論これが一回目ではなかった。
「日本でも起きたのか……大統領も俺達もこんなことしてる暇あるもんなのか?」
運転席に座る同僚がその姿を見かねたのか疑問を投げてきた。
「…政府には政府の考えがあるんだろうな。我々がどうこう干渉するわけにもいくまい。そもそも異次元的地球外生命体の対処全てが政治ではない」
「だが世界各地でいまや大体的に起きつつあるこういう類の事件に万が一遭遇した場合、我々が真っ先に対処できる…それが俺達がここにいる理由だ。そもそも政治家だってあいつらが大体的になる前の事と同じことをしているわけだ」
後部座席の真ん中の座席に座っている同僚が口を挟んでくる。この車には私含め5人の同僚が乗っている。レクサスは7人乗りなためスペースにはかなり余裕があった。
「そんなもんか…もうすぐでロングビーチに着くぞ。サン・ディエゴフリーウェイが見えてきた」
同僚は納得したのかそう答えると運転に再度集中したようだった。サン・ディエゴフリーウェイとこのロングビーチフリーウェイに差し掛かる大きなジャンクションまではもう少しのようだ。
「日本支部が見つけたデータによれば…魔王という存在が示唆されているらしい…」
「魔王か…ほんとにファンタジー世界になったみたいだな。俺達でどうにかできるもんなのか?」
「我々はプロだぞ。我々がどうにかできなくてどうする?」
「…そうだな」
やがて左右上下と道が広がるジャンクションがはっきり見えてくる。そして上に広がる左右のサン・ディエゴフリーウェイから対向車線へと向かう橋へともう少しで差し掛かるとした瞬間だった。
「…!止まれ!」
咄嗟にそう言った。同僚もどうやら事態に気づき、レクサスを停車させた。どうやら車列全体が止まったようだ。
「何か今一瞬爆発音がしなかったか?」
「最前列あたりで何かあったみたいだぞ…」
「俺達も行ったほうがいいなこれは…」
他の同僚は足早にシートベルトを外し、外へ様子を見に行く。一人車で出遅れてしまったが、すぐに外へ行こうとシートベルトを外そうと…
「…!クソっ外れん…どういうことだ…」
どうしてかうまくシートベルトが外れない。このもどかしさが今ここで来ては困るというのに。
「よしっ…」
遅れたこととこんなことで手間がかかったことに恥じながら外に出ようとした瞬間だった。
「しゅ…りゅ…弾!!!!!」
ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!
車全体が揺れるような感覚に陥る。いや感覚ではない実際に揺れている。
「…な…なんだ…」
揺れは治まったが五感がうまくまとまらない。だが外に出なければならない。そして先程の声…窓越しでうまく聞き取れなかったがその言葉が意味するのは最悪のことだ。
私はレクサスから解放されるかのように外に出た。その瞬間はっきりとそれでいて忌々しい音が聞こえてきた。
ダダダダダという規則正しい花火の音が。
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それは車列の最前列がジャンクションに差し掛かろうとした時だ。ロングビーチハイウェイの横に広がる建物群、その中の一つである電車の車両基地から彼は合図を送った。
「…前から白バイが4台、次にパトカー2台…3台…全部で4台、SPの車両が6台来たな…後の2台は電子戦と通信用…ビーストが来たが前のがおそらく本命、後ろはダミーだ。でSPのが6台…で特殊部隊の護送車が2台後ろからで衛星通信とゲリラ用のが4台…またSPの車両だ。あとは…パトカー2台とレクサスで終わりだ」
「車両は全部で……32台か随分と多いな、想定内だが」
「予定通り、橋を爆破させてリムジンを埋めるぞ」
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