第186話 米国大統領

-2020年-


「次期大統領選挙を勝利したのはジョン ヴォイド氏です!彼に盛大な拍手を!」


「僅差が予想されていましたが、本当にギリギリの勝利と言ったところでしょうか」


「ヴォイド氏は近年力を強める中国、ロシアに強く出ると公言しておりましたが…」


「一部野党からはかなり批難されているようで…」


「しかしヴォイド氏が掲げた雇用創出及び一部よ減税を当面の目的とした政策、特に医療機関に対する大幅な減税は一部国民の間でかなり期待されているかと…」


「反面これまでの政権で次第に緩和されてきたマリファナと言った薬物に対してはこれまで以上の緩和はないとも…」


「タバコや酒類の値段は変わらないことに対して一部国民が反政府的な考えを示しているのに対し…」


「中国政府は今回の政権の誕生に対し、『現政権のアメリカ第一至上主義は世界全体を混乱に招くはずだ』と否定的な声明を…」


-ワシントンDC ホワイトハウス-


「こちらがホワイトハウスの全てとなっております、大統領」


「ご苦労だ…遂に私も大統領か…」


多数のシークレットサービスとスタッフと共に大統領となったジョン ヴォイドはホワイトハウスのブルールーム※へと足を踏み入れた。


※歴代大統領が来賓を迎える場所のこと


「みんな〜、ここが新しい我が家よ〜」


私の妻は先に子供達をホワイトハウスの住居スペースへと案内している。


ホワイトハウスは歴代大統領とその家族が暮らしてきて場であるが、内装も外装もここで働く者達によってきれいに保たれていた。


一度は灰となったホワイトハウス、そして私がここに住むことができたのはやはり私のただならぬ努力があったからであろう。


いまや年齢60歳を超える身、8年前までほただのニューヨーク州知事だった私がここまで登り詰めることができたのだ。


正直満足の他この上なかった。


「…大統領。メインハウスにて謁見がございます。どうぞこちらへ」


「謁見だと…?分かった…」


謁見という言葉に疑問を持ったが、すぐに向かうことになった。誰かと謁見するという予定は今の時間帯にはなかったはずだが…


私は一人案内されたグリーンルーム※に入ると、そこにはスーツ姿を着た男が一人、机を一つ挟んで向かい合う椅子の一つに座っていた。


※大統領が多様な目的で使用する部屋のこと


その男は黒のコートに灰色のメンズブーツを履いた黒髪の白人だった。うっすら見える白髪と顔の皺から50代くらいに思えるが、この人物を私は知らなかった。


そしてどうしてこの男と謁見しなければならないのかも知らなかった。何も知らされずただ会うことになったようだ。


「まずは大統領への任命、おめでとうございます。ジョン ヴォイドさん」


「…それはどうも丁寧にありがどうございます。ところであなたは一体どういった用でここに?」


私は不審に思いながらもその男に感謝の言葉を返す。しかし男はフッと不気味に笑ったかと思うと


「私はトーマス フォード。

Top Secret Agencyに勤める者です。通称TSA。合衆国運輸省とは略称は一緒ですが、全くもって別の組織です」


「トップシークレット…?CIAの者では

ないのか?」


「我々は名目上国際連合直属の組織です。あなたに大事な話があって来ました。これを…」


「ふむ…」


彼はゆっくりと手を差し出す。そこには一枚の封筒があった。私はそれを受け取り、中身である書類を確認する。

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この文書は1967年に作られた本書のコピー品であり、以降 の歴代大統領含め新任される大統領全員が精読することを願います。


まずは大統領新任おめでとうございます。あなたのご幸運を心からお祈りすると共に一つのお願いがあります。


それは最高機密情報の一つとしてこれから本書に記されることと深く関わりがございます。


_____

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……とても長く小さい文字で書かれた文書だった。だがとにかく全文は読むことができた。見出しからは到底想像できないことが書かれていた。1965年に起きた謎の超常事件、そして…


「…エリア51の正体は例えアメリカ大統領でも知ってはいけないと言いたいのか?」


「その通りです」


「何故だ?」


「平等性の観点からです。現ロシア大統領も過去に起きたその件についてはご存知です。そしてロシア大統領は納得いただいております」


「……活動拠点として使用するためいくつかの基地を我々が所有するものとし、これら基地で行われている全容は最高機密と通常生物兵器の利用懸念の上で全て黙秘とさせていただきます…だと?」


「ロシア大統領…スヴャトスラフ ヤゴエノフ氏はチェボリサクの秘密基地とシベリアの秘密基地の存在を容認しております。これはロシアとアメリカ、ましてや世界のバランスを保つためにあるのです。地球外の技術が政治目的に使用されるのは世界の崩壊を招きます」


「…!ふざけるな!この国は私の愛する国だ!それを国連直属の機密組織だかに踏み入られてたまるものか!世界を裏で操るつもりでいるのか!?」


「…どうか寛大に、そして広い目で見てください。それに…世界を裏で操っているのはあなた方アメリカとロシア、中国のはずだ」


「…!何を訳の分からんことを…」


「とにかくお願いです。どうかお認めください。我々の活動を、異世界の産物から人類を守るために」

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-現在 2022年-


「…ロサンゼルスに到着しました。大統領」


「…そうやって私を監視するためか?エアフォースワンに乗ったのは?」


「……私はあくまであなたを護衛するためにここにいるのです」


トーマス フォードは落ち着いた口調で言った。大統領はエアフォースワンから降りようと席を立ち、私より先に降りようとしたのか、すれ違う形で過ぎ去ろうとしていく。


しかし彼はすれ違いざまにこう言った。


「私は認めたわけではない。所詮お前達はニューヨーク市民を守れなかった木偶の坊に過ぎない。その報いはいつか来ることになるぞ」





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