第185話 世界を変える者達(3)

2022年 9月16日 日本標準時

午後10時4分

日本 神奈川県川崎市

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事件が起きてから1日と半日が経過した。日は沈み、既に街中には夜の明かりが付いている時間。だが混乱はいまや収まるどころか神奈川、埼玉、茨城にまで広がり、既に南関東は混乱の渦に包まれた最中であった。


「…TSAは彼らの管理を俺とお前に一任してるんだってさ」


「好都合じゃないか、彼らが警戒する必要もなくなる」


「そういう問題じゃないだろ…なぁ、田村、これからどうするつもりだ?」


神奈川県川崎市内のビジネスホテル、現在彼らはそこに泊まっている。彼ら少年少女も警戒こそしたが、すんなりと受け入れてくれた。


田村雅功と中谷俊哉はそんな彼ら、ひと括りに言えば異世界人の集団を管理することになった。現状の人員はこの二人しかいない。一度は逃してしまったこのエージェント二人がまた異世界人を捕えた…と上層部は見るだろう。今のところ双方協力関係ということになっている。


「しばらくはこのままになるだろう。現状は落ち着いて彼らもここにいるわけだし」


「彼らのことじゃない。話だと別の異世界人も来てるらしいぞ。それが問題だ、アメリカ、ドイツ、中国、日本がその別の奴らの手で侵略を受けかけた。これを説明したら現状彼らの保護観察が即時殺害になる可能性もある。彼らがこうしてホテルにいることができているのは…」


「利害関係の調べと威力偵察、彼らの力の源が知りたいってことなんだろ?もう試したじゃないか、ワシントンDCで」


「あれにはいくつもおかしい点がある…米陸軍が…」


「アメリカの話はいい、それより敵対的な生命体の情報は何かないのか?」


「…中部航空警戒管制団のレーダーに正体不明の接近物を感知した。空自のF-15Jが小松からスクランブル発進したが、既にレーダーからは消えて、変わりにいくつもの洞穴があった。そして…その洞穴から多種多様な生命体が確認されたらしい。どれも陸自の一部勢力で片付いて、その洞穴は陸自含む我々が調査してることだ」


「…なるほどな、要はあのダンジョンなるもののかたはついたわけか」


田村は歩道と車道の間にあるガードレールに寄りかかる。中谷は同じようにガードレールに寄っかかると後ろを一般車が通り過ぎる。


「振り幅縦に約20m、推定の平均面積は約735m、高低差がある迷路に近いらしい。ゴールには大物がいる、な」


「この国はどうなるもんか…無事に済むといいんだが…」


それはTSAという組織に入っている者全員が思っていることだろう。


10年に1回あるかないかで出現したはずの異次元的地球外生命体はいまや1年のうちに5回、それもまだ年を越してないからまだ際限なく、増えるという可能性も秘めている。


「…無事に年を越したいもんだ〜、2023年に」


中谷はそうポツリと呟いたが、それは心からそう願っているように見えた。


…いや当たり前だろう。誰しもが無事にいたいというのは。


「とにかく新しい情報を…」


「田村!中谷!…さん!」


田村は中谷に指示を出そうとした時だ。ホテルのロビーから勢いよく少年が飛び出して来た。


「…ヒカル君…どうした?」


武本輝という少年は息を切らさず、淡々と説明する。


「奴ら…えーっとなんだっけ?あいつら…」


「地球に来た他の奴らのことか?」


「いや、そっちじゃなくて…そうだ!あのサーファー!」


「…?」


応対した中谷はよく知らないのかポカンとしている。だがサーファー、その名はここ数日頻繁に聞いている。


「…それがどうした?」


「…ロサンゼルスだ…次の標的は間違いなく…」


「何故だ?何故分かるんだ?」


「それは…」

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同時刻 アメリカ合衆国 アリゾナ州上空


「ロサンゼルス到着まではもう少しですよ…大統領…」


「あの会合は無駄だった。事務総長は何も分かっとらん、馬鹿が…!」


ジョン ヴォイドは爪を齧る勢いで指を口に近づけていた。


「中国もロシアもこれを期に爪を立ててきている。奴らはこんな非常事態だというのにアメリカを貶すことしか考えていない腑抜けどもだ…!」


「ですが香港のほうでもあったようですし、尤もそれがどのようにして起こったかは不明ですが…」


「…何故お前がエアフォースワンにいる?お前と会うのは実に2年ぶりだが名前は覚えているぞ。トーマス フォード」


「…お久しぶりです。大統領。ロサンゼルスにはニューヨークの一件で台無しにされたロングビーチ港の視察を行うと聞いておりますが…それだけですか?」


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