第183話 世界を変える者達
とあるFBI捜査官の視点
ジム コールソンは目の前にいる男の動向を観察していた。
顔付きはそこそこ、地毛なのか整えられた薄い色の金髪、白いシャツに青のジーパンと目立った特徴はない。彼はドカンと椅子に腰掛けるわけでもなく、かと言って膝を閉じて椅子に座っているわけでもなかった。
危機感というものが欠如しているのかもしれない。そしてニクソンはブツブツと声を出し始めたかと思うとはっきり質問に答えた。
「…俺の尋問なんかよりバケモン共を探す方がよっぽど効果的だと思うぜ」
「…へぇ」
何を言ったかと思えば
「確かに一理あるかもしれないが、君は今自分の立場というものを理解しているのか?」
「一応な」
「ならいい加減だんまりは止そう。君はそうやって自分の罪から逃げるつもりか?」
「……」
「……分かった。ちょっと世間話といこうか。実は私もオハイオ州生まれなんだ」
「それが?」
「オハイオというのは…田舎っぽいというイメージがあるが、魅力もたくさんある。例えば…あぁ、あの遊園地…」
「シーダーポイント」
「そうだ、シーダーポイント。ディズニーランドには負けるがあそこは良い場所だ」
こうやって世間話をやってるうちはニクソンも話に割り込んでくるようだ。この調子で事件の真相に持っていきたいところだが。
「他には…そうだな…」
「なぁ、あんたバケモンについてどう思ってる?」
「は?」
突然ニクソンがこちらに質問を投げかけてきた。
「どう…って…」
「俺は昔スーパーヒーローってもんに憧れててな。だから大学卒業した後、警備会社に入社した。そこでよ、真っ当に仕事やってたらある日よ、ビルの巡回かなんかで強盗とすれ違ってな、その強盗を殺しちまったんだ。そんで過剰防衛だとかなんとかで一人殺して余罪がついた。スーパーヒーローは悪人を殺しても何にも言われねぇのに俺は会社をリストラされた挙げ句、食うのにも困る始末だ」
「すまないが何が言いたいのか…」
「スーパーヒーローはこの世にいない。仮に俺が超能力を使えたとしたらお前らどうすんだ?」
「…悪いがそんな話には…」
「ニューヨークのやつをテレビで見て、ワシントンDCのやつもテレビで見てたらヴィランみてぇな野郎が街で大暴れ。お前らみたいなのが俺みたいな奴の相手ばっかしてるから死人ばっかだすんだよ」
「…君は自分がやった事の重さを理解していない。人にはやり直すチャンスが誰にでもあるはずだが君は自分からその権利を放棄してるように見える」
「やり直し?んなものねぇよ。俺に犯罪者という足枷がついてからやり直しなんか一度もなかった。俺はずっと惨めな奴だ」
「それが人を殺していい理由になるとでも思っているのか?」
「あ?こうなっちまったのはお前らのせいだ。お前らが過剰防衛とか訳の分かんねぇことにしたせいで俺は銃をぶっ放したんだ!」
「貴様…!人の命を何だと…!」
私は立ち上がりニクソンの胸ぐらを掴もうとする。
「コールソンさん!落ち着いて!」
割いるようにして彼の部下が抑え込もうとする。そしてすぐに私とニクソンの距離は離され、私は部屋の外に出される。
「コールソンさんどうしたんですか、いつもはあんなに…」
「あいつは…絶対断罪させなきゃ駄目だ…」
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とある少年の視点
「…でお前の仮説通りに行けば、この一連の事件は異世界人共が関わっていると」
「だね、正確には魔王とその御一行だけれども」
「それは分かったが…今お前どこにいるんだ?千葉からは脱出できたのか?」
「緊急事態宣言が敷かれて大変だったけどなんとか、いやさぁ聞いてよユウタァァ〜〜」
対話相手のヒカルがうざったい声を上げた。それを聞いた大須裕太は図らずも画面の向こう側でため息を付きながら寝転がるヒカルの姿が思い浮かぶことになった。
「俺らさぁ、秘密組織の力添えでなんとか木更津からアクアラインに行けたんよ、それで15分って聞いたんだけどね…まさかの2時間、うん高速でも何でもないのに2時間!」
「はいはい分かった分かった」
彼らヒカル御一行は車で千葉から神奈川方面に向かおうとしたらしい。当初は東京都江東区に向かう手筈だったらしいが、思わぬ昨今の東京都を巻き込むテロと千葉の混乱で大渋滞。仕方なくまだ混みが少ない神奈川からどうにかしようとなったらしいが…
当時の東京湾アクアラインは渋滞度を表す比重で見てみれば真っ赤、真っ赤だった。つまりそこでは大渋滞が起きていたことになる。
「…それで何か手掛かりはあった?」
ヒカルは声の調子を変え、至って真面目…のように装っているのだろう。
「ロンドンの方のテロも〆がついたらしい。あっちのほうが死者数も少ないんだと」
「やっぱ東京駅のほうがきつかったか…そりゃそうだよね…」
「お前が行くところには事件しか起きんな…どっかの地下で監禁されてるほうがいいんじゃないか?」
「俺じゃなくて周りの異世界人のせいだと思うけど…」
……それは否めない。思えばヒカルが異世界人と関わってから歯車が狂った感じがする。
「…それとアメリカの銃乱射事件なんだがな」
「ふんふん」
ヒカルは興味ありげに続きを聞こうと同調の意を示す。
「47個起きてた。しかも全部が別の州だ」
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