第182話 物語の続き
…一区切り彼らに話した後、私は一人になるべく、その場を離れた。そして全てを話したわけではない。人を殺したことは話していない。なんとも自分勝手なものだと思う。
「偉大なる…先人か…」
あの騎士は確かそう言っていた。彼の顔を今はよく鮮明に思い出せなかったが。
私はモヤモヤとした気分を捨てられずにいた。
何故あいつはあっさりと死んだのか、何故あいつは笑ったままでいられたのか…それをずっと考えてしまう。
あいつは他人を陥れ、嬲ることに生命を掛けているように見えた。かなり重度のロリコンである事も生理的な嫌悪感の一種であった。
純度100の怒り、憎しみ、哀しみ、そして殺意で構成されていたあいつに対する感情はあいつが死んだというのに鳴りを収めなかった。
『全てを出し切って、そのうえで君とやり合おう。それで君が絶望して、僕が死ねるなら本望だ』
あいつはあの時、殺すではなく、やり合おうと言った。そして何故かあの時は自分は死んでも良いと言った。今さっきの戦闘の際にもそう言っていた。
あっさりと策に引っかかり、死んだ。かなり苦しいはずなのに笑顔を努め、この世を去った。何故あいつ程の奴が私の策を見抜けなかったのか。
「……あぁ…んだよ…あのクソ野郎…!」
そしてその答えは導き出せていた。突拍子も無い程に馬鹿げたものだ。
あいつは自分の死を犠牲にしてまで私を苦しめようとした。
二年もの間、元いた世界で魔王軍を殺してきた。そうさせたのは私に篭った怒り、憎しみ、殺意があいつを絶対見つけるという信念に変わったから。いつかあいつこそ絶望におとしてやると決めたから。
だが本当は違う、あいつは私の内に篭る感情全てを無理やり引き出させ、自分に対しての憎悪を一生持たせるようにした。
そしてあいつは私の思い通りになった。あいつは絶望することなく死を受け入れ、苦しみから逃れようともせずに死ぬことで。
そしてその拍子抜けした死によって私の中のにある憎悪を消させることなくこの世を去った。ベラドンナや死んだ人間達に懺悔の一言もせず、自分は死をあっさりと受け入れた。
私の内に秘めたあいつへの怒りと憎しみと殺意はあんなちっぽけな死じゃ収まらない。そしてそれこそがあいつの狙い。
あいつは…晴らすことのできない…一生持たなければいけない憎悪を私に持たせたまま死んだ。私があいつをただ殺すだけでは収まらないと知っていたからあいつはあっさり死んだ。
「なぁ、お前が死んでベラドンナは報われたと思うわけ…なんで…あっさりとあんなに早く死んだ…もっと生きて…苦しめば…」
怒りで前が見えないこともあいつは利用し、まんまと逆に策に嵌められた。全ては私を苦しませるため。一生あいつに対しての憎悪を覚えさせるために…
あいつはベラドンナの死、そして自分の死すら利用し、私の意志を踏み潰した。
「…なんだよ…私の負けかよ…私の…」
やり場のない感情のみがその場に残った。
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「速報です。ただいま日本政府より緊急事態宣言が発令され…」
「こちらは現在千葉県館山市に続く富浦ICなんですが、ご覧のように現在防弾服を纏った警察官によって封鎖されており…」
「陸上自衛隊のヘリコプターによる民間人の避難が続々と行われ…」
「くり返しお伝えしますが、避難区域は千葉県館山市全域、南房総市全域、富津市全域、鴨川市全域、木更津市南部となっており…」
「これらに該当する地域は警察官の指示に従って速やかに避難してください」
「房総丘陵を中心に半径15km以内が大変危険な区域となっております」
「えぇ。情報によりますと謎の生命体による襲撃が千葉県で…」
「ニューヨークで確認された個体とはまた別の…」
「現在までに巨大な生命体は確認されておらず…」
「東京駅でのテロとの関連性が疑われており…」
「日本政府は緊急記者会見にて東京都及び千葉県に自衛隊の治安出動を要請し…」
「いわばこれは日本、いやこの星に対する宣戦布告、私は何度もそう言っているでしょう」
「日本国憲法の範囲で許される、許されないの境界が曖昧になることを懸念するべきです」
「自衛隊による火器の使用の是非については現在までに解答されておらず…」
「木更津市の方でも避難に対する混乱が広がろうとしており…」
「地球外生命体に対しての対応が後手に回っており…」
「当たり前だ。例えば我々にゴジラの対処法があるとでも?」
「これらの生命体に知性があるのか…万が一知性を持っていたと仮定した場合…」
「とうとう日本でも起きてしまった地球外生命体による事件…これらの正体とは一体何なのでしょうか…」
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「これからどうするつもりだ?ヒカル君」
「決まってるよ。まずは俺らが乗ってた高速バスを爆破した奴から探す。そっから魔王の奴らに繋がるだろうし」
「どうやってだ?君達の正体を我々が知った以上、大っぴらに君達は動きにくいだろう」
「田村さんと中谷さんがそうさせたのにね…まあでもいいよ。俺は俺なりのやり方でやろうかな。それまでちょっと寄り道させてくれない?あと手伝って」
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日本、千葉県内において異次元的地球外生命体による事件が発生した時刻と同時刻
アメリカ合衆国 ニューメキシコ州
FBI支局内
「……何か喋ったのか?こいつは?」
「いいえ、警察官に取り押さえられてからは何も…」
「テキサス州で事件を起こしてニューメキシコ州でも事件、いや銃乱射で20人以上が死んでいるのか」
「素性はここに書いてあります。コールソンさん」
「あぁ、助かる……サミュエル ニクソン。オハイオ州生まれの白人男性。32歳、地元の大学を卒業後就職…この部分が動機かもな」
「ですがこの部分であれ程の原動力になるのは…」
「就職後僅か3年の25歳でリストラ。俺ならかなりきつい……彼はこの中か?」
「はい」
「分かった。ここには俺一人で入る。君は外で待っていてくれ…………やぁ、君がニクソンだね。良かったら君の知っていること…例えば謎のサーファーについて教えてもらえないかな?」
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正方形の部屋、白一択の壁と天井、そして明るい木でてきた床。いるのは私服姿の男女と一際目立つ男のみ。彼は一人、壁に張ってあるスクリーンに手をかざしながら言い放った。
「時は来た!」
彼はそう言った。
「これは我々への道標に違いない。我々が平等な道へ行くための!」
彼はそう言った。スクリーンには北アメリカ大陸が移り、アメリカには49個のバツ印、カナダに4個のバツ印が描かれている。
「我々は散々苦汁を飲まされてきた。だが本当の平等のためだと思えば、それは苦ではい!55人の犠牲の上で我々は成り立ち、そして今、放たれる。諸君!始めるぞ!」
そして歓声に包まれる。そして多くが熱狂していた。
「…新世界を作ろうではないか」
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