第179話 過去のおはなし(15)

辺境の街での人間連続殺人事件!治安当局が本格的な操作開始!情報求む!


「号外!号外!」


「何でもいいです!どんな些細な事でも…」


「うちの子供が現場を見て…それ以来ずっと泣いて…どうしてくれるの!」


「かなりの魔法の使い手だ。人をこんな簡単にネジったり溶かすなんて…」


「魔法省からも数人派遣してくれるそうだ!」


「一刻も早く捕まえとくれ!そんな穢らわしい奴なんかにはギロチンが一番だ!」


「そうだ!火炙りにしないと!幼い子供が見てるんだ!一生もののトラウマになるかもしれないんだぞ!」


「被害者の情報もかなり少ないです!一人のみ顔が鮮明なのでかろうじて分かりそうですが…」


「どん面してこの街にいやがる!?そいつは正気か!?とっとと死刑にしろ!」

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アパートのドアを叩く音。


ドンドンドンドンドンドン


「いないのか?もしかしたらこのアパートじゃないんじゃ…」


ドンドンドンドンドンドン


「いや、ここの部屋であってるはずだ。ちゃんと確認してきた」


「アナリスさん!いらっしゃいますよね?魔法省から派遣された者なんですけど!先週に起きた殺人事件についてなんですけど!」


「本当に留守なのか?でも冒険者ギルドにはしばらく顔を出してないそうだぞ」


「お願いですから出てもらえますかぁ!出ないならこちらも強硬的なしゅだんおおぉぉ………!!!」


「どうし…え?ぶっっ!!!」


二人の魔法省職員はこの瞬間、はるか彼方まで吹き飛ばされ、原型を留めない形で絶命していた。それはある種の魔法によるものだった。


だがその魔法を使ったのは彼ら職員が探していた少女とは違う者だった。


「は?」


「建物が…!」


「おい!そこに人が……ぎゃあっ!」


「なんだアイツ!?……おがっあ!」


奴は近くにいた通行人やらを無差別に巻き込み、周囲の建物を魔法で蹴散らしていく。


「また会えるといいな。あの子もここにいるんだろ?」


「何者だ?お前…!?」


近くにいた冒険者の中年の男がその魔法を使った人物に問いかけた。


「僕は…魔王軍幹部のファランクス。この街の住人と共にパーティーを始めるために来た」

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「パーティーにはゲームが付き物だ。そこで今からあるゲームを始める。今から10分間、僕と戦う者はこの街に、戦えない者は街の外に。その間僕は何もしない。そして10分を過ぎた時、今度はこの街の中にいる人を殺して回る。女子供老人も病人も赤子も殺す。殺されたくない者は街の外に。じゃあ始めよう!」


彼は破壊された建物を背後にそう宣言する。周りには野次馬が集まり、冒険者らしき男は剣やら魔法やらの準備をしていた。


「……おいおい、あそこにいるのはイカれたエルフさんじゃないですか?」


「おや?君は?」


一人の男が前に出た。そいつはどこか見た目の悪そうな風貌をしていた。


「俺の名前はジョニー。この街の女の子には手を出させぶっっ……!!!」


ドッッッ!!!!


「それじゃあ始まりだ。こんな感じで舐めてもらったら困るよ」


ジョニーはその場に倒れ伏す。圧倒的な魔力と上位魔法によって一瞬にして胸と腹に穴を開けられた。


「今のは見せしめだ。悪く思わないでくれよ。そもそもその実力で僕に挑むつもりだったのかい?」


ファランクスはジョニーを踏みつけるようにしてそう言う。ジョニーはもう動かなかった。

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「あいつの言う事が本当だったらやばいぞ!馬車を出せ!」


「子供達がまだ家の中に!私の赤ちゃんだって!」


「おじいちゃん早く逃げないと!僕達死んじゃうよ!」


「時間がねぇぞ!あと5分で殺戮が始まっちまう!」


「腕のある者はあいつを殺しに行くぞ!全員集めろ!」


そして10分が経った。ファランクスは移動し、街の真ん中にそびえ立つ塔の上にいた。


「…気配を隠しているのか。どこにいるのか分からないな、でもまあいいや。

ここら一体吹き飛ばして君の死体でも何でもいいから…うん今日はその体を犯そうかな」


その瞬間、ファランクスは塔の上で魔法を発動させた。至って単純な物体を宙に浮かす空中浮遊の魔法。しかしその威力は塔以外の周りの建物を浮かすまでに及んだ。


「冒険者ギルドは…なるほど」


ファランクスは一目で冒険者ギルドの場所を把握するとそちらに手をかざした。

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「いいか皆!まだ逃げ遅れた人が大勢この街にいる。そして今その人達を守れるのは俺達しかいない!俺達冒険者が力を合わせてこの街を守r………」


ガガガガガガ!!!!!


「へっ?」


「ひぃっ…」


冒険者ギルドの真ん中で冒険者全体に演説を行っていた筋肉質な男のその姿は飛んできた民家によって失われていた。


他の冒険者は装備を整えるため冒険者ギルドにいた。そしてそれらの半分は民家の砲撃によって爆散していた。


「ぼ、冒険者ギルドが一瞬で…」


「う、うわあああ!!!は、早くここから逃げなきゃ!」


「ねぇ、ねぇ起きてよ!ねぇ!死なないでってば!」


一瞬にして冒険者ギルドは阿鼻叫喚に包まれる。それぞれがバラけ、辺り一面に錯乱していた。


その時だった。民家の砲撃によってポッカリと開いた冒険者ギルドの天井からまるで天使のようにゆっくりと何かが舞い降りてきた。


「……まだ生きてるんだ」


しかしそれは悪魔あるいは堕天使の間違いだった。そいつは笑いながら殺戮を始めた。




さらに5分が経ち、遂に冒険者ギルドは壊滅していた。


「よ、よくも!」


最後の若い女冒険者はファランクスに飛び掛かりながら手に持つ片手剣を振るおうとする。


長い茶色の髪をした可愛い女の子だった。歳は14歳くらいで…あ、胸は大きい。その顔は怒りと恐怖に支配されていた。


ファランクスは避ける事なく、その振り下ろされた片手剣を右手で折って見せる。


「な…う、嘘…」


「嘘じゃないよ」


ファランクスは笑顔で実に嬉しそうにそう言った瞬間、少女の怒りは消え、純粋な恐怖飲みが体を支配していた。


「な、何するの、お、お願い。殺さないで…」


「…分かった」


そう言うとファランクスは少女に向けて手を振った。少女はしばらく動けずにやがてヨロヨロと逃げ出し…出せなかった。


「あれ?なんで私…走れない。なんで…ねぇ!なんで!?」


少女はずっと立ち上がることができなかった。その少女の両足の太腿には鋭い物を刺したような大きな傷があった。


「種明かし。君は幻覚を見て、私だけ五体満足でいれてると思ってた。でも実際は違ってて、君は足に大きな怪我をしていた。痛みを感じなくしたのは僕だけど、君は自ら膝ごと剣で貫き、自分で自分を逃げれなくした」


その瞬間、少女は絶叫した。痛みから来る叫びだった。


「…いいねその表情最高だ!人間だったらこういうのを絶頂って言うんだっけ?アハハ、楽しかったよ、じゃあね!」


ファランクスはその直後あっさりと彼女を魔法で灰へと燃やし尽くした。


残されたのは真っ赤な地面、血が滴る音、異臭と折れた武器。破片に変わった椅子と長机。穴だらけの側壁と天井。


そして受付嬢はまだ生きていた。ファランクスはそれを一目見るとそばに近寄った。


「あ…」


受付嬢はヘタリと座り込んでいた。ファランクスは何も言わずに彼女の目の前に立った。


「お、お願いやめ…」


受付嬢がそう言った瞬間、ファランクスは彼女の前で手を振った。

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何故これ程破壊されていてもこの建物が燃えないのか分からない。


かつて冒険者ギルドと名付けられたその建物には他の建物の断片やらが突き刺さり、もぎ取られた形でそこに存在していた。


正面玄関などというものはなかった。なので壁に大きくできている穴から入るほかはない。


「……何…これ?」


アナリスは目の前の光景を見て、絶句した。あれ程私を無下にしてきた彼らは全員動かない人だったものへとなっているから。


ただ一人、ギルドの受付で後ろ向きで何やらゴソゴソとしている男がいた。


「……あ!やっと来た!どこ行ってたの?」


「なんでここに…」


「君に会いたいから来ちゃった」


そのエルフは笑った。そして耳に付くその声は間違いなく、あの時あの場で聞いたあの…


「…この子はもう耐えられないんだってさ。少しずつ骨を折っていたんだけどさ、5本目くらいでもう何も喋らなくなったから殺しちゃった」


そう言うとエルフは笑顔で振り向いた。笑っていた。


「…どう苦しめようかな。うん、君からは貞操を奪う。できれば屈辱に塗れて死んでほしいな」


「…………」


「どうし…」


「わあああああああああ!!!!!お前…絶対殺す!!!」


「……その意気だ。さぁ、おいで」



















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