第180話 過去のおはなし(16)

何故これ程破壊されていてもこの建物が燃えないのか分からない。


かつて冒険者ギルドと名付けられたその建物には他の建物の断片やらが突き刺さり、もぎ取られた形でそこに存在していた。


正面玄関などというものはなかった。なので壁に大きくできている穴から入るほかはない。


「……何…これ?」


アナリスは目の前の光景を見て、絶句した。あれ程私を無下にしてきた彼らは全員動かない人だったものへとなっているから。


ただ一人、ギルドの受付で後ろ向きで何やらゴソゴソとしている男がいた。


「……あ!やっと来た!どこ行ってたの?」


「なんでここに…」


「君に会いたいから来ちゃった」


そのエルフは笑った。そして耳に付くその声は間違いなく、あの時あの場で聞いたあの…


「…この子はもう耐えられないんだってさ。少しずつ骨を折っていたんだけどさ、5本目くらいでもう何も喋らなくなったから殺しちゃった」


そう言うとエルフは笑顔で振り向いた。笑っていた。


「…どう苦しめようかな。うん、君からは貞操を奪う。できれば屈辱に塗れて死んでほしいな」


「…………」


「どうし…」


「わあああああああああ!!!!!お前…絶対殺す!!!」


「……その意気だ。さぁ、おいで」


その瞬間、全てが弾け飛ぶかのような感覚に襲われる。そして…



「すごい…すごいよ…君は…魔法の威力は感情で左右されるって聞くけどこんなにも…やはり君と会えたことは光栄だ!」


空に大挙して押し寄せる禍々しい電流、地面や壁、天井などありとあらゆる箇所に次元の狭間ができる。


そこから出てくるのは無数の黒い鉤爪のような存在、それが触手のように唸りながらファランクスへと近づく。


ファランクスはそれを表情一つ変えず、ただ笑ったまま避ける。身体強化があるのか宙返りで避けたりなどアクロバティックな動きもしてみせる。


「フフッ、今度は僕の番」


ファランクスはなんとも楽しそうにそう呟いた時、地面がボコボコと盛り上がる。それは冒険者ギルドだけでなく、周囲の建物も巻き添えに隆起しだす。


そして浮き出す複数の瓦礫が私へと向かってくる。


しかしそれらは全て私に届く前に粉々に砕け散る。当然だ、奴は魔法使いなのだ、ならば魔法の対策をしてないわけがない。


「…いいね、面白…」


ファランクスが何か言う前に隆起した地面から龍のように炎が舞い上がる。それはファランクスを体ごと包み込もうとする。


しかしファランクスはそれまで地面に立っていた足を浮かし、空高くへと跳ぶ。その高さは優に10mを超える。


「…逃がさない」


その瞬間ファランクスは地面へと叩きつけられる。


ガン!という人間本来ではしないはずの音が鳴り響く。そこに追い打ちをかけるかのように大量の瓦礫が生き埋めにせんとばかりに凄まじい速度で迫ってくる。


「……わあ!危ない危ない」


だがその鼻につく声は背後から、いやあちこちから聞こえる。


「クソが!どこ行った!?」


「さっき埋めた場所♪」


「どうせいないんだろ!出てこい!」


「じゃあ♪」


その時だ、地面がガラリと崩れ、大きな穴ができる。そこからファランクスが悠々と体を宙に浮かしながら登場する。


「いやーまぁあそこにいたんだけど寸で地面に逃げれてねー、いや楽しかったよじゃあね」


そう言うとファランクスは右手を撚る。その瞬間何故だか私の右腕が潰されたかのように変形する。


「どう痛い?切断するには時間がかかるなぁ、やっぱり」


「…!」


「わ…本気それ?」


腕は一瞬で治癒魔法で治したことを不審に思ったのか、ファランクスは首を傾げる。


「…おかしいなぁ、普通痛みとかで使える魔法は限られてくるのに…」


「…痛くないからね」


「そういうことか」


その瞬間、私は空を跳ぶ。これが…宙に浮くって意味か、ここまでできたのは初めてだ。全てはファランクスのおかげと言っても差し支えないたろう。


「それ僕の魔法だよ、なんだよもう〜」


「じゃあ死ね」


「やだよまだ」


私はファランクスの真上に跳ぶとそのまま炎と氷の上位魔法、炎龍と氷竜の如くのそれは生き物が噛みつくかのようにファランクスへと迫る。


「…君が最高に苦しむ方法を思いついたよ、最高な君に相応しい、ね」


その瞬間、この街全体が熱と冷気に包まれた。

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