第165話 過去のおはなし

陸上自衛隊第一輸送ヘリコプター群。

陸上自衛隊第四対戦車ヘリコプター隊。

陸上自衛隊特殊作戦群。

陸上自衛隊第一空挺団。


以上が千葉県木更津駐屯地より出動。千葉県南部の異常事件の対応を主目的とする。


ババババという音が響く中での事であった。唐突にギュオーンという轟音が木々を薙ぎ倒しながら後方を見るリヴリーに向かっていた。


「変更だ。ファランクスが死んだ事は大きい」


来るやいなやでエルターゼはリヴリーに話しかける。その場にいる特殊部隊やアナリス、カノン、俺を無視して


「やだよ!それに……」


リヴリーが反論をしようとエルターゼの面と向かって何か言おうとしていたがその余地なくエルターゼは一瞬にしてその場を消える。


「……は?」


残された面々はただしばらく呆然と立ち尽くすしかなかった。

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「……要するにあいつは逃げたってことでいいよね?」


俺は事が済み、緊急で張り出された特殊部隊のテントに寄りかかるようにして座っていた。


周りは木々に囲われているがところどころ抉れ、緑は消えていた。


「上空の攻撃ヘリには何も手出しせずに…か」


「フェリーのほうは今ヘリコプターが救助に向かってるそうですよ」


そう言えばさっき数機の輸送ヘリコプターが海の方へ向かって行っていた。


「ダンジョンも消えて幸運って言ったところか。魔物も全てこの世界の住人が退治してくれたらしい。正直あの量をあんな器用に殺せるのはすごいよ。私は今全てを吹き飛ばすことしかできないから」


アナリスはそう言うと宙を見つめ、手を交差させる。彼女は魔王軍の幹部の一人を殺すという大きな功績を持っている。にも関わらずその表情はどこか憂鬱だった。


「…あの人がまだ来てませんけど話してもらえます?」


「何を?」


カノンはアナリスの前まで立ち歩く。


「あの魔王軍の幹部。あの方はよく知りませんけどあなたとは何かあったようですし」


「…聞きたい?泥沼で陰鬱で最高に気分悪くなるけどそれでも?」


「そう言うと人間というものは聞きたくなる。いいよそういうのは俺好きだから話してみな」


横から割り込んできたヒカルが右手に包帯を巻きながら喋る。


「……彼女が来てからね。フェリーに取り残された彼女が。あらすじはとある女の子と出会いました〜」

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2年前の14歳の頃。全てがどうでもいいと思える時期があった。


両親はいた。いたけど逃げた。無理強いを強いてきたらしいがよく分からない。あんまり記憶にない。


魔法だけはずば抜けて使えることが起因しているかもしれない。適当にその辺のギルドやらで適当に魔物を狩って適当に金を集める日々。


面白くないが第一声、生きてる意味あるのかなが第二声だった。


「……いいなあ、若い女は。きれいで可愛くてよ」


とか言う輩も徹底的に潰した。何人かは再起不能かもしれない。


「その…あなたにかなりの苦情がきてるんです。チンピラを倒すのはいいけど街をめちゃくちゃにする気か!って…」


とか言うギルドの奴らの事も無視した。かなりめんどくさい。


近くの酒場はよく行った。いろんな話があるからだ。ここはそれなりに良かった。


お酒も飲んだけど…不味いしかなり気分が悪かった。どうやら合わない事がそこで分かった。


いつの日か、この酒場帰りに突然意識を失った。


目が覚めたら5人位の荒くれ者がいた。


「…あんた有名だぜ。よくも仲間をやってれたな」


リーダー格の男はそう言った。


「…まともに勝てないからって飲み物になんか入れた?何の魔導具?」


「ふん!そんな事言ってる暇あんのかあ?ほら、動いてみろよ!」


胸ぐらを捕まれて、ドンと突き放された。どうやら立ち上がる事もできない程のやつらしい。


「毎日お前が酒場で飲み物頼むからよ〜。ちょっぴりのを毎日、なだけで一気にこうなってくれたからな。酒場の奴も金さえ渡せば入れてくれるしな」


「…あっそ。それで?」


「…おい、怖がれよ!」


リーダー格の男は静かにやって来て睨みつけた。周りの取り巻きはケケケと笑っている。


「お前馬鹿か?あん?状況分かってんの?

お前は今から俺達からあんな事こんな事されるわけ。そんな生意気な態度取ってていいの?命乞いの一つや二つ…」


「うるさいもういい」


私はリーダー格の男の言葉を遮る。男の顔がさらなる怒りに湧き出ているのが分かる。


「御託並べんなよ気持ち悪い。早く殴って、ヤッて、殺せばいい。それで気持ち良くなるならどーぞ」


「…てめぇ!!!」


リーダー格の男は首を締めてくる。でも何とも思わなかった。


殴られるのかな?犯されるのかな?殺されるのかな?というこれから起きそうな事に対する事に恐怖がなかった。顔や貞操、ましてや自分の命に対してさえ多分もうどうでも良かったと思う。


日がよく当たらない路地だ。しばらく死体も見つからないんだろうな、そう考えた時だ。


「あなた達何してるの?」


女の子の声が響いた。明るい声だった。どうやら男達の後ろにいるらしい。一斉に振り向いている。


「…何、か。お嬢ちゃんには関係ないよ」


リーダー格の男は猫のような優しい声で答える。


「ほら早く行きな。ここは危ないぞ」


「でもその女の子、嫌がってません?」


「…大丈夫だよ。嫌がってない。俺達の事情でこうなってるんだ。な?ほらもういいだろ。早く行け」


リーダー格の男は笑みを多少崩し、その女の子に早く去るように促す。


「そんな事言われても、です。大体あなた達明らかに優しそうな人じゃないですし、その子、無理やりそうされてるんじゃないですか?」


「あん?うるせえ。お前もこうなりたいのか?あ?一人だからって容赦しねぇぞ?」


「まだ何もしてないくせに…」


「てめえは黙ってろ!!!」


私が横から口を挟むと男は激怒した。そのまま私の口を抑えたその時である。


「ぐぎゃあっ!」


「おわっ!?」


バタン!


悲鳴と共に何かが倒れる音。取り巻きがこちらへとやって来る。というよりは何かから距離を取っているようだ。


「なっ!?てめえ!!!」


リーダー格の男は立ち上がり、その少女に立ち向かおうとしているのか腰の鞘からナイフを取り出す。


「…この街でナイフを取り出すのは条例で禁止されて…」


少女がそう言う最中、取り巻き連中がそれぞれ斧、鎌を振る。


「…はっ!?消えた!?」


「どこ行きやがった!?」


突然少女は姿を消したようで取り巻き連中が焦ったその時、取り巻き連中の体は空高く飛ばされたかと思うと、そのまま地面に向かって落ちてくる。


ドコン!


「…ガッ!?」


「ウガァッ!」


取り巻き連中は落下の衝撃からかそのまま地面に伏せてしまう。


「……ッッ!!てめえいつから俺の傍に……」


リーダー格の男の言う事を無視して、少女はこちらへとやって来る。ようやくして鮮明な姿が見えるようになる。


「俺の傍に来んじゃねぇ!って…!」


リーダー格の男の言う事を再び無視し、私に向かって歩いてくる。


「あなた大丈夫?」


「……はぁ、まぁ」


「まだ何もされてないみたいね。よかった」


「もういいから、私の事はどうでも…」


その時、後ろからリーダー格の男がナイフを持ったまま突進を繰り広げる。


「恨むんならこうさせた神様を恨みnaa………ッッ!!!」


言い終える前に奴の体は路地を出て、そのまま大通りへと飛び出す。どうやら魔法で大通りまで吹き飛ばしたようだ。


「…ねぇ、あなた。自分の事どうでもいいって…」


「…言った。それが?」


目の前の少女、薄い黄色のボブカット、白い半袖のストライプ、そのストライプとドレスのように一体化しているスカートを身に着けた少女。


目の色は美しい青色だった。その目は輝きに満ちている。それが私にとって不快な物だった。だからぶっきらぼうに返事をした…わけだが。


このまま立ち去ってほしいものだ。体こそ動けないものの居心地が悪い。


「どうしてどうでもいいなんか言うの?」


「…何?それを聞いて…」


「いいから!」


少女は渾身の迫力のつもりなのかそう叫ぶ。


「人生は一回しかないんだよ?なのにどうでもいいの?」


あぁ、多分だけどこの少女


めんどくさい。













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