第163話 もう一つの事件(11)
それは静かであり、一瞬にして消滅させ、一瞬で終わる。
真似事。自分が体に僅かでも受けた魔法を自分が使う魔法へと完璧に模倣し、借りる禁忌に近い魔法。
私が作った最高傑作。少なくともこれと同等それ以上の魔法は見た事なかった。
この魔法は至って単純。自分の体に少しでも魔法が触れればその魔法自体が使えるようになる。そのストックは無限に近い。
だが真に恐ろしいのはこの魔法はいわゆる魔法を借りて真似ているという解釈であるため、今までストックとしていた魔法を解放し、エネルギーないし魔力の塊として相手にぶつけることができる。
結論から言えば禁忌に近い、というより禁忌魔法だろう。魔法省に登録されていない禁忌魔法。何もかもデタラメな力というわけだ。
その結果、彼の体は消えてゆく。あっさりと呆気なく
「…駄目だね、これはやられた。消えるまでには…最高の苦しみもついているわけだ。」
「報いって言葉が似合うよ。今のお前にはね」
「…この世界に来て知った事があるんだ。悪は必ず善に倒される。勧善懲悪というべきかな、それで悪が善にやられるその時、悪は何かを語って終わりを告げる」
「…………」
「今すごく痛い。あの子達もこんな気持ちだったのかって思うほど。でも君と話すのは楽しくって仕方ない。こういう形であっさりと終わるのも悪くない」
「…………」
「地獄で同じ事ができるのかな?魔王には悪いけど先に逝かせてもらわなきゃなぁ。あっ、心に思ってる事が次から次に」
「もういいよ」
「最後の断末魔くらいいいじゃないか。それに僕は仕事を終わらせた。ザッヴァーもストレイターも僕も……そろそろ消えるね。僕を殺したくて仕方なかった君はその運命を果たす事ができたんだから」
「聞きたくない」
「最後まで聞いてよ。君はあの時どう思ったんだ?大切な人が死んだ時、それを受け入れられずに壊れた時」
「なんで…」
「君は弱くないよ。頑張ってね」
最後は顔だけとなったファランクスは直後に消えた。
「…スッッッ……ハァァァ……!」
大きな深呼吸と共に周りの地形を斬撃で傷つけていく。
土が舞い上がり、雑草がひらひらと落ちていく。
「…泣きそう…」
意外にもあっさりと終わった。拍子抜けするほどあっさりと。
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「海上保安庁に至急連絡!急げ!フェリーが沈没しかけている!」
「金谷港からおよそ約1km地点。千葉県寄りです!」
「ヘリコプターを向かわせろ!民間人の救助にあたれ!」
-東京湾 海上フェリー-
「クソっ!忌々しい…!何なのだ貴様は!」
「んなこと言われてもなあ…」
エルターゼはそう言うとフェリーの車庫内を素早く飛び回る。
キルアはなんともすばしっこく動きながら、翻弄していた。
「…お前人間の血以外にも混じっているな…?」
「なんで分かるんだよ」
エルターゼはフェリーの上甲板を突き破りながら急降下を繰り返してくる。水はもう既に船倉の半分程度までに浸水してきていた。なんとかトラックの上でやり過ごしてはいるが。
エルターゼは上から下へと身体ごとの突進を避ける。しかし今度はフェリーの下甲板からバッ!と飛び出してくる。
それを宙返りで避け、通り抜けていく際にザッとナイフでガガガと表面に傷を入れていく。
「…!ッやりやがったな!」
エルターゼは船倉で急旋回をした時だ。
ドカーン!
エルターゼの体は爆発に巻き込まれる。いやエルターゼ自身が爆弾となったと言うべきか。
何度もかすり傷をお互いに背負いながら戦っていた。しかし自分の攻撃は魔力を押し付け、そしてそれを弾き飛ばす魔法を常に使いながらやっていた。
「あたしは暗殺者だからね。手際良いでしょ」
姿が煙で消えたエルターゼに向かってそう言うが返事がない。やがてしばらくして…
「…!?どういうことだファランクス!何故…お前が…!」
「は?」
「……やむを得ん、ひとまず勝ちはお前に譲る!」
エルターゼはその瞬間、船倉からフェリーの後ろ、車両が陸地と出入りする場所から出ていった。
「ま、待てよ!こういう勝負ってお互い命がけで…ってあたしどう帰ればいいんだよ!」
フェリーから救命ボートで逃げ出した人々の声、水が浸水する音、ガタガタと揺れる船の音、そしてヘリコプターがやってくる音しか後には残らなかった。
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