第162話 もう一つの事件(10)
ヒカルはスット息を吸うと
「状況を簡単に説明しよう。俺達の命を狙ってきた組織とは和解した」
「略しすぎです。分かりましたけど…」
目の前に特殊部隊と触手の魔王軍幹部がいる状況でヒカルは本当に簡単に説明する。
「君が例の子供だな。田村さんからは聞いている。ひとまずは君達の安全を最優先に行いたい。残る二人の安全確保は君達の方がやりやすいだろう。米軍との戦闘に勝利したという折り紙つきでもあるしな」
「今まで敵だったのにどういう風の吹き回しですか?正直今まで感じたことのない恐怖でしたよ。あれは…やめていただきたいものです」
カノンは丁重ながらもそう言うとムッとした顔で睨みつける。
「…我々にも非はあると言える。だが我々にとって君達が何かは分からないし、何より仲間が怪我を負っているんだ。だが悔しさの矛先を正しい方向へと向けた。これでお互い様だろう」
その時、今話をしていた隊員の乗っていた触手が動き出し、隊員を僅かに吹き飛ばした。
「グッ……どういうことだ!?何故動く?」
隊員は投げ出されながらも触手の方へと視線を向ける。
触手はウネウネと動きながらやがてリヴリーの傷口を埋めるように体内へと入って行く。
「…!全員離れろ!物陰に潜め!」
「一斉掃射!撃て!」
隊員達は素早く木の裏や雑草群に隠れたかと思うと、銃撃を再び開始する。
ダダダダダダダダッッ!!!!!
しかしリヴリーはゆっくりと立ち上がる。銃痕はできていなかった。
「一時退避!君達も早く行け!」
隊員の誰かがそう叫んだ瞬間、触手の破片が辺り一面の飛び散る。
シュバッ!ザクッ!
破片が突き刺さる音が生々しく聞こえながらリヴリーは喋りだす。
「死なないわよ。そう安々とはね!」
リヴリーは顔以外の全身を触手の薄い膜で包み前進を続けた。
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田村はヘリコプターから見る状況に戦慄していた。
UH-1のドアガンナーとして搭載されているM60C機銃。それが火を吹きながら銃弾を大地にいる例の生命体に向けて放っている。
「何だあいつ…銃弾が全て空中で静止しています…!」
その機銃を撃っているドアガンナーはそう言うと、中谷はその様子を見て「クソッ!」と悪態をつく。
「…彼女は?どうして両方ともこちらを無視する!?」
中谷はそう叫びながらガンナーに機銃を撃つのをやめさせる。
ヘリコプターは紫髪の少女の上空を旋回していた。しかしその少女は一瞥をくれるだけであった。
青い髪の青年…だが異様な雰囲気で人間の倍以上ある長さの耳と細くてかろやかな指…よく見ればその本数は6本の人に近いであろう青年はこちらを見る事なく、ただ少女を見据えている。
「例の少女…賢者…あの子が…異世界で最強に近い超能力者」
田村は再び少女を見るとそう短く呟いた。
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「うるさくなったね」
ファランクスは機銃から放たれる銃弾を止めながらそう言う。
「僕はほとんどの魔法を詠唱して言った。けど君は防戦一方。君じゃあ僕に勝てないよ」
「私じゃなくても上でブンブン飛ぶ奴らが殺してくれるよ。だから安心しろ」
私はニコリと笑いながら首を斜めにする。
「じゃあその様子は君が天国で見ることになるのかな?」
「フフフ…ありがと。ここまで付き合ってくれて」
私はファランクスと同様に笑う。心底お互い狂いながら。視力はだいぶ回復し、憎たらしい顔がはっきりと見える。
「付き合う?何の事かな?」
「それはね…」
私が最強と言われる所以。しかしそれは魔法使いにおいてだ。魔物などではプロの剣士など、カノンとかには劣る。
だが魔法を使う者の頂点はおそらく私なのだろう。私が生み出した今までにない魔法のおかげ。
「[真似事]」
低く短く呟く。それだけで時が止まったかのようだった。
「発動」
今まで防戦一方。というよりは魔法の一部を受けてきた。完全に避ける事はなかった。
そのツケを奴にぶつける。
「……そういうことか。君はあの時また壊れたと思ってた…でも君は最初から壊れたままだったんだ」
「地獄に行って」
受けてきた上位魔法、中位魔法は数合わせて46。それら一部はしばらくの間私の中に留まり、その時を待つ。
単純なエネルギーの塊をファランクスの体に向かって放った。
そして時が止まるかのような感覚がこの辺りを包んだ。
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