第161話 もう一つの事件(9)

「降りろ降りろ!展開!」


「急げ!向かえ!」


UH-1汎用ヘリコプターから特殊部隊用の黒い防弾チョッキとヘルメットにマスクを付けた隊員が次々と降りてくる。


「人間以外の生物を見かけたら撃て!」 


「房総丘陵の麓に到着!接敵と思われる地点までの距離およそ50m」


「ヘリコプターからの機銃掃射を行う!全隊進軍開始!」


特殊部隊は山の木々をスルリと避け、傾斜を気にすることなく先へと進んでいく。


ダダァン ドン ガガガ ガァッ


様々な音の鳴る方向へと特殊部隊は向かう。その上を田村と中谷、そしてヒカルとガイムが乗っているヘリコプターが過ぎる。


ヘリコプターの中ではその騒然とする様子に呆気にとはれるしかない面々がいた。


「何だ…これ…?」


中谷はポツリと呟く。田村は多少の焦りこそ見せながらも的確に指示を出していく。


「君達二人はここで降りて君達の仲間の安全を確保してくれ。我々が気を引き付ける」


「はい!……って、えっ?マジですか?」


ノリで、はいと答えてしまったが、すぐにやばいなと思った。


「我々では彼らを警戒させてしまうかもしれない。見知った君等なら大丈夫だろ?」


田村は理由をすぐに言うとヘリコプターの高度を少しずつ降ろしていく。


「この高度なら大丈夫だ。うまく着地をすれば、すぐに降りれる」


「俺は降りれるよ。でも旧式のM60C機銃でどうにかなるわけ?」


ヒカルはそう言うと田村の真っ直ぐと見据える。


「…問題ない。彼らが超能力を使うなら我々は技術を使う。この世界2000年の歴史を彼らにぶつけるつもりだ」


「……分かった頑張れ」


ヒカルはそう言うとヘリコプターから降りる。周りに木々がなく、多少は高いが降りれないわけではない。


「おーい、早くしろー!」


ヒカルが下から叫ぶ声がする。俺はヘリコプターのスライドするドア部分を掴みながら


「分かってるー!」


そう言って下へと降りる。程なくして足が地面特有のザラザラ感を感知する。


「よし、行くぞ!」


「おし!…でどこへ?」


「馬鹿か!」


ヒカルが突っ込んでいるうちにヘリコプターは去っていく。程なくして銃声があちこちから飛び交う。


「始まった。ガイム!あいつらの魔力とかそういう類のは感じ取れないの?」


「無茶言うな!俺はそんな高度な魔法は…一応あっちあたりかな」


「できんじゃん」


「いや、だって…あそこ絶対やばいだろ…」


「…分かる。でもいるとしたらあそこだよな」


そのやばい方向は山、この房総丘陵の中腹あたりに存在していた。その場所は白い何かに覆われ、爆発を繰り返しながら光を放っていた。


「ヘリコプターもあっちへ向かってる。3機…なんとかなってはほしいが……」


チュドーン!


その時だ。いきなり正面に何かが吹っ飛ぶようにして目の前に降り立った。


「……カノン!」


その姿は紛れもない銀髪の剣士だった。手には剣を携え、構えている。


「…どうし…」


「危ない!」


完全に聞く前にカノンが叫ぶ。次の瞬間には目の前から彼女の姿が消え、いつの間にか俺の頭上に影ができていた。


シュッ!という短い音が響く。それと同時に何か黒い物が地面にバタリと落ちてくる。今気づいたがその頭上の影は大きすぎた。


おそらくそのバタリと倒れたのは魔物の一種なのだろう。巨大な狼の口のみが存在する魔物のようだ。


「うわ…気持ち悪…」


「大丈夫ですか!?というかどうやってここに!?」


「それは…」


カノンが急ぎ足で問いかけた質問に答えようとしたがそれどころではなかった。


その狼の口は何体も空中に存在していた。その全てが闇に覆われ、こちらに向かって口腔を晒している。


「…言うの後ででいい?」


「…もちろん」


お互いの謎の理念は一致し、ひとまずはあの魔物を倒すことになった。


「あれはリヴリーの配下です」


「リヴリー…?」


「魔王軍の幹部の一人です!おそらくこの近くにいるんでしょうけど気配が…」


「気配が…何?」


「…しなかったんですけど今感じました。下から…」


その時、地面がボコッと揺れ、巨大な触手群が俺達を囲んだ。


その中でも一本極めて太い触手の中からまるで孵化したかのように中から女が出てきた。


「…あれです!皆さん伏せて!」


カノンが簡潔にそう言った時、触手は一斉にこちらへとその先端を突き刺そうとしてくる。そして気づけば口の魔物も次から次へと突っ込んできている。


「ガイム!上の奴らは俺らが倒すぞ!あれを使え!」


「任せろ!少しは練習したからな!」


練習。そう言うと俺は渡された例のモノを手に取る。


魔法が少ししか使えない俺。それはこの世界の人間とほとんど同じ事を意味していた。なら、この世界の人達はどのようにして生態系の頂点に立ったのか。道具と知恵の二つだ。


M9ベレッタを口の魔物へと向けて放つ。発射残渣による硝煙が銃口から出ながらも弾倉の数ある限り撃ち続ける。


口の魔物は撃たれた部位から弾け飛びながら落ちていく。


一方のヒカルはスチェッキンを使って撃ち続けているが、如何せん精度が悪いのか、あまり当たっていない。


「やばいぞ!結構数が!」


「スチェッキンは近距離弾丸バラマキ用の拳銃なんだよ!倒せないのはソ連に言え!」


「ソ連ってどこだよ!」


言い合いながらも銃を撃ち続ける。その間背後で剣で弾きながら切り裂く音がする。


互いが一旦の戦闘を終わったあと、三人背後に立つことになった。


「…そのリヴリーはどうなった?」


「私が地面に叩きつけたんですけど…」


そう言われ地面に穴があるところを見れば、そこには触手に支配されているかのような一人の人間がいた。


「何回やっても…死なないんです。再生が早くて…」


そう言った瞬間、リヴリーは地面から飛び上がり、触手の欠片は飛ばしてくる。


「げっ…!」


ヒカルは苦難の声を上げ、避けようとするがその破片は一つ残らずカノンが剣も動かさずに消し去る。


「…ずっと…殺したいと思ってたの…。危険で全ての源に近い…赤くて丸い…いつも光る」


「何言ってんだ…?」


リヴリーはヒソヒソと呟いている。目の前に降り立ち、近づいてくる。そして次の瞬間、地面を蹴り付ける。


その衝撃で地面はヒビが入り、こちらへと地割れが続いてやってくる。


「お前だ!あの時の傷…忘れないあの痛み…この恨みはここで!」


こうして魔王軍幹部対カノン、ヒカル、俺の戦いが始まろうとしていた時であった。


ダダダダダダダダダダ!!!!!


突如として響き渡るどこかで聞いたような音。それと同時にリヴリーの体は穴だらけとなる。


「こちらイプシロン。人型に近い地球外生命体の制圧を完了。目の前に報告にあった実体および例の観察者二名を確認。指示を……了解」


「え……な、何ですか?あなた達…!」


カノンは突然の出来事に警戒しながらジワジワと後退る。目の前には複数の黒い防護服を着た特殊部隊がいた。


「我々はあなた方に危害を加えるつもりはない。この実体は我々が対処する。そちらは引き続きお仲間方の安全確保を」


特殊部隊は動かなくなったリヴリーの触手の上に立ちながらそう言った。







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