第156話 もう一つの事件(4)
2022年9月15日 現地標準時
午後2時9分
日本 千葉県 南房総市と館山市
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「全PC(警察車両)は房総丘陵方面へ急行」
「南部で異常事態発生の旨を知らせる通報あり」
「繰り返す。全PCは館山市南部、房総丘陵へ急行」
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「第2ラウンド開始」
ファランクスは感情の抑揚を感じさせない声でそう言った次の瞬間、白い手と黒い手が同時にこっちへとやってくる。
「さながらマスターハンドとクレイジーハンドと言ったところか?」
白い手は高速でこちらへやって来て、手の平で押し潰そうとしてくる。
私はそれを後ろに躱すが、今度は上から黒い手が薙ぎ倒すべくこちらへと近づいてくる。
「絡めつけ!」
私はそう言うと無数の影を呼び、黒い手を引きずり降ろそうとする。
「[邪鎌]」
黒い手の動きは封じ、次にドス黒い鎌状の棘を地面から触手のように出すと、ファランクスへと向かわせる。
しかしファランクスは自身を霞のように薄く消えると、次の瞬間には3人に増えていた。攻撃を避けられた挙げ句、ついでのように3人に増えたのか。
ファランクスはそれまで手を操っていたであろう右手をおもむろに握り潰す。次の瞬間、2つの巨大は手はそれぞれ爆発し、中から大量の黒い液体が溢れ出てくる。
黒い手は真上にある。つまり私の頭上は黒い液体で尽くされている。おそらくだがおまけとして当たったら終わりつきでもあるはずだ。
私は頭上に左手をかざす。すると液体は宙で止まる。
「返すよ」
私はこの液体をファランクスへ送り返そうとした。しかし…
「ボン」
ファランクスは短くそう言う。次の瞬間全てを吹き飛ばすべくした衝撃と爆発が奴の中心で起こりうる。
「やばいこの威力」
この威力、私だけで済まない。見れば後ろにはカノン、キルア二人がいる。そしてその相手は後方にいなかった。
「そーゆー計算だったわけね。最初から」
ドン
ガン
ガガガガ
あぁ、やばいな。ダメージは三人分防げた。彼らは地上にいるけど私だけ空中だわ。
どのくらい浮いたのか分からない。煙で何も見えない。
フッとそのまま体が落ちていく。寸前で歯止めを効かせ、落下を防ぐ。
どうやら結構遠くまで飛ばされたらしい。海が遠目に見える道路にいるようだ。
ファンファンと言う音が後ろから聞こえるのは気がかりだが。振り向くと白いバンパーと黒いカラーリング、赤色灯が見える。
その車の中には青い服を着た…
「な、君一体どこから…」
「警察だ。ちょっと話を…」
「そんな暇ない。悪いけ…」
一刀両断と行きたいところだ。こちとら街へ進軍する魔物も止めなければ…魔物?
そうだファランクスは
「やあ、こんにちは、第3ラウンドね」
その時、再びの爆発。しかも目の前で起きた。何台もの車が遠目に巻き添えをくらい、こちらへと飛んできている。
目を細くしなければおそらく視力に影響が出る。だが視力依然の問題に目の前の光景、さっきまでそこにいた警察官とパトカーは跡形もなく消えていた。
「あ…」
愕然とした。そして私は一時的にだが目が使えなくなった。目の前がずっとチカチカしている。
「…単純な魔法だけで人間じゃあエルフに勝てない。上位魔法だって君の何倍も使えるし、3つ同時に使える」
チカチカした世界から声が聞こえる。
「目の前で人が死ぬ気持ちはどうだい?可哀想に家族がいたんだろうにね。あの時から僕を殺せない気持ちはどう?今日は屈辱に塗れた女の子が知りたいんだ。目を失うのも良いよね…!」
おそらく目の前にいるのだろう。シルエットが見えてきた。
「今どんな気持ちだい?満足してる今なら饒舌だし殺されてもいい。常にその覚悟があるからさ。でも殺せない、何故なら僕はその度に生きようとするから。やったね僕の勝ちだ」
早口でそう述べる。言っている事が意味分からない。下手な煽りだと思った。矛盾してる。あいつはどうしようもないクズだ。興奮してるのかあいつの息遣いが荒い。
「あの子みたいだ…。自分で死んだあの子みたいに…フフフフッ…!」
あの子…彼女か。なんでそんな事言うんだろう?頭はずっとモヤモヤしてる。あぁ、でもやっと晴れる。この感じ…爽快感が埋め尽くしていく。
「…種明かし」
「ん?」
「教えてやるよ。なんで私が闇魔法を使えるようになったか」
次の瞬間、目の前で閃光を走らせた。
「うわっ!びっくり…って」
ファランクスの慄く声がする前に私は素早く出現させた白い手で推し潰す。
「…死んだ?それともまだ?」
「生きてるさ」
「あっそ、じゃあ死ね」
白い手を跳ね除け、美麗に立つファランクスを後ろから出現させた黒い手と白い手で潰し合わせる。それまで押し留めていた言葉が次々と溢れ出てくる。
「ねぇ!どう死にたい?手足もがれて死にたい?それとも目と耳なくして死にたい?その耳長くてイライラするの、それとも全部の体液抜かれて死にたい?ねぇどうなの?ねぇ!」
いつの間にか私も早口になってる。気持ち悪いんだろうな。けどやっとこいつを殺せるのだ。やっと…
私は盛大に笑った。なくなった人の命の前で笑った。おそらく目の前でそうなった事が私の何かを切れさせたのだろう。でもそんな事どうでもいい。
「…女の子はね。丁寧な口調じゃないと駄目だよ。それをねじ伏せて悲鳴を上げさせるのが一番良いのにさ。さっきのは狂ってるよ」
ファランクスは2つの具現化した手を粉々に砕きながら出てくる。
「…あは!目がイッてるよ君。壊れたみたいだ…でも楽しめそうだ。お互いやり合おう。あの時みたいにさ!」
「殺してあげる!ハハ!」
さあ、やろう。
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