第154話 もう一つの事件(2)
「あたしは魔法省の暗殺者兼諜報員って立ち位置なんだよね〜」
「へぇ、そうなんですか?」
「王家の人間にとっちゃあ嫌な奴って感じるでしょ。実際何人か殺ってるし」
「…殺すのは良くないと思います。でも安易にそう思うのはどうかなぁと…う〜ん」
「カノン変わった?もうちょい固かった気がする」
「そちらもなんだかしっかりとしてきた気がしますよ」
カノンとキルアは談笑しながら雑談をしていた。
「…魔法省は知ってたんですよね?彗星の事ととかこの世界の事とか」
「彗星が落ちてくるのは大体ね。軌道の予想は付いてたし。魔力の高い人間を目指しやすいのも分かったし」
「おかげで殺されそうになった挙げ句、許可とらずに勝手にこの世界に放り込まれたんだけどね」
アナリスは皮肉そうに笑い、キルアの反応を伺う。
「それは…悪かったよ。記憶を弄ったことも含めて…それに…」
キルアは一息付くと
「魔法省が何をしようとしてたのか分かんないんだよね」
「それなのに私達をこんな目に合わせたの?」
「魔法省の孤児院に拾われた時から魔法省の言う通りにしてきたからね。特に疑問に思うことなく」
「そーですか。もういいや。その話前にも聞いたし。中国からの帰りで何か聞いても有力な情報は聞けなかったし」
「本当に分かんないんだよね。偵察目的とかじゃないの?……あれ?帰ってきたんじゃない?」
キルアはそこで話を区切ると、ソファに寝転んでいた姿勢を変え、立ち上がる。
「帰ってきたの?」
私がキルアに聞いたが、その返答は別の奴が見当違いの事を答えた。
「すごい事が起きてるってニュースでやってますよ」
カノンはマイペースにそう言うとソファに座った姿勢のままテレビを凝視している。
『現在JR及び東京メトロの運行は停止し、警察官や消防士、救急隊員などが辺りを取り囲む異様な状況が見て取れます!』
現地のキャスターだろうか。Liveと上に書かれた隣で興奮気味に発言している。
「東京って確か…あいつらが行った場所じゃないか?」
「じゃあ早く帰ってきてもおかしくな…」
その時だった。魔力探知が反応したのは。早いな帰ってくるのがと思ったが何かおかしいと瞬時に感じる。
早すぎる。こちらへ近づくのが。もうすぐ…20m程度しかないはずだ。私が探知できる限界の100mから一瞬で近づいたことになる。
「飛行機でしょうか?あれ?帰ってきまし…」
ゴゥンゴゥンという音がこちらへと近づいてきていた。
「あっ…」
私は何か言おうとした。でも言えなかった。
次の瞬間、家の壁はドゴン!という音を建てながら割れ、目の前を覆った何かが入って来た。
「こんにちは」
その優しくて人を惹き付けるような声はすぐ耳に届いた。ここにいた3人の誰かの声じゃなかった。
耳元に届いている青い髪、その青い髪が隠せない長い耳、気づきにくいが目の色が薄い緑色のそれは白の長いローブを着ていた。
「ふふふふ」
その声、男だろうか。優しく微笑んだような形でそう言うと
家の壁、家の床、家の天井、家具に至るまでの全てに風の切るような音と共に、引っ掻き傷に近いものをつけた。
「…は」
「え…」
「ゑ?」
3人とも何もできなかった。あまりにも唐突すぎた。家はミシミシと言いながら、ヒビが入り始めている。
そして目の前にいる奴、男だ。その特徴で一瞬理解できなかった脳が全てを思い出させる。
長い耳、あの優しそうで鬱陶しい声。エルフが闇に墜ちた存在。ダークエルフ。
「…すごいね。皆まとめて全身切り刻むつもりだったのに。君の加護なのかな?」
そいつは笑顔でカノンに視線を向ける。カノンはまだ状況が読み込めてないようだ。
「…!なっ!?お前!?」
「それじゃあ、ね」
キルアが驚きながらも臨戦態勢に入った瞬間、ダークエルフはニコリと微笑んだと同時に崩れた家のパーツ全てが鋭い破片となってこちらへと降り注ぐ。
ザクッ!ザクッ!ザクッ
かろうじて3人に当たらないようにはしたものの、破片は地面に音をたてながら突き刺さっていく。
「…お前…」
「…ん?君は…紫の子か。黄色の子はどうしたんだい?」
黄色の子。その質問に答えることなく、ダークエルフを衝撃波で吹き飛ばそうとする。
ビジュン!
切り裂くような音と共に、家全体が最初からなかったように辺り一面に吹き飛ぶ。この辺りに人が住んでるような民家はなく、離れた位置に面しているため、家の残骸は全て道路や廃墟、雑木林に吹き飛んでいく。
見渡しがよくなった我が家には4人の生物しかいない。
「相殺か。勝てると思ったんだけどね」
ダークエルフは笑みを崩すことなく、そう語りかける。全身全霊込めたつもりで放った魔法は目の前で相殺という形に終わったのだ。
「…あなた一体…」
状況を飲み込んだカノンはダークエルフに問いかける。ダークエルフとの距離は初対面の時と比べ、少し離れていた。
「僕はファランクス。魔王軍幹部のエルフさ。君達を殺しに来た」
ファランクスはそう言った次の瞬間、地面に右手を当てる。
直後、氷が右手から地面を這うようにしてこちらへと向かってくる。
「…ふう…」
冷静に保つようにしてそう息をすると、頭上に巨大な火の玉を具現化させる。
私は無言で向かってくる氷ごとファランクスを炎で飲み込もうとする。
「いいね。上位魔法」
ファランクスは短くそう言うと、地面に置いてあった右手を私に向ける。その直後、氷は這うような動きから爆発したかのように、辺りに水蒸気を散らしながら、炎を包み込む。
炎はそのまま見えなくなる。だが様変わりした氷は波のようにこちらへと近づいてくる。
「ほ…い…!」
その氷を左手を向け、砕くようにして左手を握る。直後氷は跡形もなく砕け散る。しかし…
「最初からそうすれば良かったのに。僕をそんなに殺したかった?」
背筋がゾッとする。その声は後ろから響いていた。
「[酸]…」
ファランクスは短くそう呟いた。しかしその言葉の意味は私が思っていた通りのものだ。
奴の頭上には白いような透明のような訳の分からない液体ができていた。
「前の子は水で窒息させたんだけど…君は一体どうな…」
言い終える前にカノンが剣で奴の体を斬り捨てる。胴体が上と下の2つに分かれるような斬り方だ。頭上の液体の塊は即座に消滅している。
「例えエルフでも魔王の幹部には容赦しません…!」
カノンは自分への言いつけとしてなのか、そう独り言を呟くとファランクスの亡骸を見ようとするが
「ところが残念。僕は生きてる。君達は多分とても強いけど僕もとても強いから」
その声は頭上からした。丁度私の真上にいたのだ。
「分身だって気づかなかった?それじゃあ、バイバイ」
ファランクスはそう言うと太陽を思わせる私より大きい火の玉を地面にぶつけてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます