第153話 もう一つの事件

自衛隊からの人員が来たのはもうしばらく経ってからだった。


田村雅俊は彼らの帰りを待ちながら、ただじっと移り変わる様子を工事現場から見ていた。


CH-47Jが6機、警察官が場所を開けた広い交差点に着地し、中から隊員達が出てきていた。重くて白い防護服を来ており、中から膨大な量の積荷を出しているのが確認できた。


「自衛隊だ。だが来たからと言ってすぐに救出ってわけにはいかんだろうな」


隣の中谷はそう言うと目を細くする。


「サンプルの採集から入って、そこから解毒剤。サリン、ボツリヌス、VX…いろいろあるからな。緑色だからこれと特定できるわけじゃない」


「即効性はあるが、致死性は低いと見たほうがいい。ガスの広まりも悪いことから複数にガスの元が設置されてるはずだ…彼らが無事に済ませてくれればいいが…」


「…もし彼らが行かないって言ったらお前はどうするつもりだった?」


中谷はそう言うと横目でこちらを見つめてくる。この男は普段から鋭い意見や考察を出してくるが、それは同僚にも同じことらしい。


「組織に通報…でなければ射殺していた」


腰に隠してあるホルスターの銃を触る。ゴツくて少し熱を持っていた。


「仕事人間が評価されてこの組織に来たんだろ?彼らを死地に追いやったのは」


「私情と仕事を半分混ぜた結果だ。彼らがこれを聞いたら怒るだろうな」


「組織からしても東京駅構内に謎の遺体…人間じゃないのがあったら大迷惑なことくらい知ってるはずだぞ」


「そんなことはないさ。何故なら彼らは…」


その時、ザッという足音が後ろから聞こえる。思ったより早いな。


「…始めまして、エイリアン」


中谷は振り向きながらそう言いながら笑うと握手を求める。


「…疲れた」


黒髪の少年は持っているバッグをドサッとその場に置くと座り込む。茶髪の少年も同じように壁にもたれかかる。


「全部で5つ。多すぎ」


「…助かってよ。心から感謝する」


私は手短にお礼を伝えると、彼はニヤッと笑いながら


「いいよいいよ、それよりそっちの番だよ。今度はね」


あぁ、そうだったな。情報を渡すのか。


心の中でそう呟くと私は静かに目を閉じ、見てきた聞いてきたものを思い出した。

____________________

アメリカ合衆国 ニューヨーク州 国際連合本部


「…えぇ、続いてのことなんですが、世界各地で確認されている謎の飛行物体について…」


目の前のスクリーンに艦上から撮られたものと思われる写真が映し出される。中央上は色が緑色でボヤケており、地平線まで広がる海と金属で構成されて艦の一部が写っている。


「この写真は2022年8月28日にニュージランド沖でオーストラリア海軍が撮影した画像です。そしてこちらは…」


スクリーンに映し出される写真が変わる。戦闘機のコックピットと左上にボヤケた緑色の物が写っている。高度は824フィートとなっていることも確認される。


「こちらは中華人民解放軍の空軍機、Su-27のパイロットカメラです。同じようなものが写っているのが分かります。この直後、香港にて事件が発生。現在の死者数は1742名。緑色の飛行実体は直後、消息不明。レーダーから観測されない海上ギリギリの飛行を実行したかと…」


プレゼンじみた長い発言が終わり、静粛が辺りを包む。


「…これを私に見せて何になる?奴がどこにいるのかも分からんと言うのにか?その情報ではなく他のがもっとあるはずだが」


ジョン ヴォイドことアメリカ大統領はそう嘲け笑いながらそう言いのける。


「まったくだ。私はまーさか、国際連合事務総長ともあろうお方が変な組織の一員だなんて…まったく信じられぬものですなあ」


中華人民共和国首席、劉偉迅(リュウウェイ チャン)は皮肉っぽくニヤける。


「米、露、中の3ヶ国しかいない状況…冷戦時代にそのような組織ができたとは…同志に裏切られた気分ですぞ…!」


ロシア連邦大統領、スヴャトスラフ・ヤゴエノフは静かな怒りを見せていた。


国際連合事務総長のジェームズ フランクはこの様子をただじっと見つめていた。


そしてこの時間は突如として終わりを迎える。国際連合事務総長の隣に黒スーツの中年男がやって来て耳元で囁く。


「たった今目撃情報が…」


「何だと?詳しく…」


ジェームズは冷静さを保ち、中年に詳しく聞く。


「フィリピン海、海上でレーダー反応あり。北北東に向かっているとのことです」


「…何?その先にあるのは何だ…?」


その頃、アメリカ合衆国大統領の元にもシークレットサービスが囁きに来ていた。


「同時多発テロです。既に6つの州で被害が…」


「…何だと?」


「うち5つの州は収束。もう一つは犯人が立て籠もり…身代金の要求が確認されてます」


「しばらくここを離れそうにない。副大統領に判断を委ねると伝えてくれ」


ジョン ヴォイドはそう言うと、一区切りの間を置いて力強く言った。


「いいか、アメリカは決してテロには屈しない」








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