第141話 銃刀法違反

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「え、何やってんの?」


「え?」


「いや『え?』じゃなくて…」


俺は驚きやらそういうのを通り越したドン引きする。遡ること10秒前のことである。


ヒカルは階段状の建物の最下段の方まで連れてきた。そこには最下段に昇るための梯子があった。


そこから降りて来た人影はこちらへと向かって来ていた。青のジーンズと黒のパーカー、フードを深く被り、マスクをした人物だった。


そしてすれ違いざまのことである。何故かヒカルはいきなりその人物の顎に向けて自分よ肘を思いっきり叩きつけた。


その人物は苦しみの声を上げることなく、地面に倒れ、ヒカルはその人物の腕や体を馬乗りに近い形で抑え付けた。


…そして今に至る。その人物は上にいるヒカルを退けようと暴れている。


「…えっと…そのごめんなさい!こいつが勝手なことを…!おい!お前いきなり殴るって…どうかしてんのか!?」


「どうも何も、こんな見るからに怪しい奴、どう考えてもやばいでしょ、だから先手必勝で」


今この場で一番やばいのはお前だ。


「クッ…退け!警察を呼ぶぞ!」


その人物はマスク越しに低い声を発する。男や女かは分からないが。


「呼んでいいよ。でもそれで危ないのは君だろ?」


「はあ!?何言ってやがる!?」


「ポケットにナイフくらい入ってるだろ…あれ?入ってないな…」


「だから退けっつってんだろ!」


「まあまあ落ち着いてってば…うん?これは?」


「あ、それは…」


「【苦しみからのサーファー】?何この紋章?」


「おい…それって…」


「何?」


俺にはその名前に思い当たる節があった。


「テレビで見た。それアメリカでテロやった奴らの…名前」


「……マジ?」


「クソッ!」


突然、その人物は甲高く声を上げるとフードの中から何かを取り出す。


「…へぇ。なるほど、警察があっちにいるよ。それでも撃つの?」


「日本の警察は弱いからな」


その人物は男性だった。20代半ばくらいの男性。黒い短髪のそいつは手に持つ物を俺達へと向けた。


「スチェッキン…ソビエト製の銃。オートマチック。よくこの国に持ってこられたね」


「御託はそこまでだ死ね」


「待った」


そう言うとヒカルは素早く動く。自身のパーカーのポケットから手を入れ、ある物を出す。


「な…」


「これ本物。ベレッタM9。試しに撃ってあげようか?足でも」


拳銃を取り出す。この国は治安は良いと聞いたが目の前の光景を見る限りそうは思えない。


「撃、撃ったらそれこそ警察官に気づかれるぞ」


「そう?でも今の君は銃を持ってる。硝煙反応やらなんやらで分かるかもだけど…俺まだ16歳だから疑いはそこまでいかないと思うけど?それに撃った俺の後のことじゃなくて撃たれる自分について考えたら?」


「16歳…だと?だ、だが俺が銃を捨てたらお前は終わりだ」


「そうだなぁ、お互い銃下ろしません?」


「何?」


「それが一番良いと思うんすよ。せーので投げましょう」


「は?」


「せーの!」


そう言うとヒカルは拳銃を真上に投げる。1m近くその黒い鉄の塊は上げられ、やがて重力によって引かれ落ちていく。


その瞬間、男との距離を縮めるべくヒカルは腰を低くし、詰め寄る。5m近くあった距離はすぐに詰められ、男は後退る姿勢を見せながらも拳銃を下げ、ヒカルを狙う。


しかし拳銃を持った右手をヒカルは左手で抑えるようにして静止させると右足の爪先を男の膝に直撃させる。


「ッグ…!」


男は声に出せない悲鳴を上げ、その体を地面に落とす。その瞬間、男の手首から拳銃を握る手が緩み、ヒカルは素早く右手でそれを奪う。


「へぇ、これがスチェッキン…グロッグ17のほうが扱いたかったけど…まあいいや」


「お、俺の…」


「…まあ話してよ。何してたのか」


ヒカルはそう言うと男から奪ったスチェッキンという拳銃を男に向ける。


「お、お前らみたいな餓鬼に分かるかよ!俺達の苦悩がよ!」


「分かんないけど?別に苦悩を教えてって言ってるわけじゃない」


「…お前らに話す事なんか何もねぇって言ってんだよ!」


「……そう。でどうしようかガイム?」


「え?」


それまでに空気になっていた俺は突然振り向いたヒカルを見て慄く。ヒカルの目は爛々としていた。まるでこの時を楽しんでいるかのように。


「何をどうする…?」


「…あ、そうか。ごめん俺がやるよ」


「だから何…」


俺が最後まで言い終える前にヒカルは男の右手首を両手で距離を開け、握ると捻るようにして上下に腕をふるう。


男の手首は不自然に地面についた。だが男の肘から上の部分はしっかりと形を保っていた。


バキッ!


鈍い音と共に男が苦痛の悲鳴を上げる。しかしその悲鳴は大きくなることはない。周りの状況の騒がしさとどこから取り出したか分からないヒカルのハンカチによって口を塞がれ、喉の奥にしか声は響かないからだ。


「…話す気になる?」


「いっ痛い…!お、お前…」


「もう一本折るよ?」


「ひっ…わ分かった。こ、このサイトだ、だ、ダークウェブ上にあるこのサイトで…俺は…入って…ここで見張りを…道路が爆発してるかの…」


「ほうほう。どうやってそのサイトに入るの?」


「…こ、個人情報の全て。あ、あと自分の犯罪の証拠をそこに挙げたら、覚悟ができてるから…って武器とかそういうのを俺に…」


「あぁ、なんとなく分かった。じゃあそのサイト名は?」


「え、The end of the world by Armageddon…」


「あっさりと話すじゃん。じゃ、ありがとね」


そう言うとヒカルは男の顔の横を薙ぎ払った。


呆然としている俺、男は意識を失いバタリと倒れる、ヒカルはこちらへとゆっくり近づく。


「…気持ち悪かったか?ごめんね」


その謝罪の一言は俺の恐怖心をさらに煽った。



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