第140話 犯人

2022年 9月15日 日本標準時

午前10時00分

東京都 江東区 辰巳の森緑道公園

____________________

「墨東病院の病床数では抑えきれません!」


「品川総合病院への移送は!?」


「事故のせいで品川区に続く首都高速が膠着状態、しばらくは機能停止とのこと!」


「一酸化炭素中毒者、熱傷がひどい人を最優先に!」


……目の前の救急隊員は大声でそう叫んでいた。


この公園は現在、負傷した人達で溢れかえっている。高速道路は黒煙と火災で埋もれてしまっているからだ。


「……ガラス取ってくれてありがとな」


隣に座るヒカルは俺にそう感謝の念を伝える。先程魔法の力で取ったのだ。


「俺もこの世界の人間じゃないからな。と言っても傷は完全に治せるわけじゃないけど」


「肉は抉れたまんまだし。まぁ痛みが多少ないだけまし」


ヒカルはそう言うと笑って見せる。ガラスが手の甲に突き刺さって笑えるのは如何なものかとは思うが。


さて、目の前には大量の消防士と救急隊員、そして警察官がすぐ傍の高速道路を見上げていた。


「ここにいたらまずいよな?」


俺はヒカルにそう聞くとヒカルは少し間をおいて


「…一応離れるか」


そう言うと立ち上がる。俺も合わせて立ち上がるとその公園を後にする。


野次馬でごった返す交差点を抜けようとしてふとヒカルが足を止め、後ろを振り向く。


「…どうやったらこんなに爆発が大きくなるんだ?」


「?」


「おかしくないか?これだけの爆発。タンクローリーのガソリンが原因としてもこんなに大きくない」


「そんなの知らない。俺ガソリンの爆発力なんか知らない」


「……とにかくおかしいってこと…っ…!いっ…!」


ヒカルは顎に手を当てたかと思うと突然目を瞑る。


「どうしたの?」


「……?いやなんか…目が急に…パチッて…あっちの方角から…何があるか見えるか?」


「どれどれ…?」


俺は[感覚機敏]と言う一時的な魔法を使う。これは最近キルアから教えてもらった下位魔法だ。どうやら視力と聴力が30秒よくなるらしい。 


「んーとね…」


見えるのは一人の人間、どうやら双眼鏡を手にしているようだ。


「双眼鏡…だっけ?それで覗いている人がいる」


「あぁ、双眼鏡か。それだったら光の焦点に…いや待てなんで双眼鏡ここで使うんだ?そいつどこにいる?」


「あの変な階段状の建物の上」


目の前にある階段状の建物の上…最上段部分にそいつはいた。


「ちょっとなんか怪しくないか?双眼鏡、しかも、きかんしの上にいるとか」


「そうか?」


正直この世界の正常者と異常者の違いがよく分からないがそういうものなのだろうか。


「ちょーっと話聞いてきていいか?」


「マジか?やめとけよ俺達のほうがおかしいって思われる」


「えぇ、せっかくあの…燃えてる高速道路の手がかりになるかもしれないのに?手の甲の傷の借りも返さないといけないし」


「はあ」


俺は曖昧に返事をする。知らない人に話しかけるのはあまり得意じゃないのだが。


「行こ」


ヒカルは強引にそう言うと俺を連れて行く。

____________________

「予定通り。C4爆弾を起動。高速道路は使い物にならなくしました」


『よくやった』


「光栄でございます。我がリーダー」


『そうか、しかし日本人のわりには随分と英語が上手なものだ。イギリス英語をしっかりと話せている』


「この国は仕事を失ったら終わりです。仕事を見つけるためにこの英語を手に入れた。しかし今や使い道はないのです」


『俺はアジア人が嫌いだが。不条理に埋もれたやつは好きだ。君は特別だよ』


「えぇ、ありがとうございます」


ピロロン。


電話を切り、暖かい風に目を若干瞑りながらも双眼鏡を覗く。


目の前に広がる高速道路を見てほくそ笑む。ざまあみろと。


「…全てはお前らが悪い。奪っていったお前らが悪い」


日本を終わらせる。そう提案したのは自分だという事を思い浮かべながら階段状になったこの建物を降りる。


「次だ。まだ終わらない」


そう言うとあらかじめ設置していた梯子で降りていく。


地面に着き、そうそうに立ち去ろうとする。目の前には少年が二人いた。


(邪魔だ。邪魔だ。餓鬼のくせに)


心でそう毒づきながらその少年達とすれ違う。


しかし次の瞬間、私の体は地面へと崩れていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る