第131話 謎と真実
「…………」
キルアは何も言わなかった。さっきまでと変わらず、ひょこんとした表情なのが一層奇怪に思えた。
「…え?」
そう言ったのはカノンだった。彼女は不思議そうにこちらを見てくる。
「それは…どういうことですか?」
「そのなんて言えば良いんだろう…俺達ってキルアを見た時、大盗賊だって思ったじゃん」
「は、はぁ」
「たださぁ、彼女みたいな大盗賊って…いた?俺の記憶では世界を騒がせた盗賊ってことになってるけど」
「え?何を言ってるのか分からないんですが…」
カノンは困惑な表情を浮かべる。そこにキルアが話し込む。
「何の話?あたしは普通に盗賊やってただけだが?」
キルアはそう言ってこちらを見てくる。するとアナリスが口を開く。
「単刀直入に言うけどさ、私は確かに君を見た時盗賊だって思った。けど盗賊の顔を知ってること自体おかしい。盗賊って顔隠してやるものでしょ?なのに私は君を見て盗賊だって思った」
「あたしは大盗賊だからな!ちょっとは有名だぞ!」
「そうなんだへぇ〜。じゃあ一言説明してやってよヒカル」
アナリスに言われヒカルは決定的な事を言う。
「違和感に気づいたのはガイムのおかげだ。てかよくよく考えればわかったな」
「…何が言いたいんだよ?あたしに分かるように言ってくれ」
「そうかい。ならドイツの病院にどうやって入院した?」
途端に静寂と共に不気味な風が吹く。今日は晴れているのだが。
「…それがどうしたんだ?」
「噂じゃ急に倒れてそのまま病院に運ばれた。けど病院側も身元を特定しようとするはずだ。得体の知れない患者を入院とか普通にさせないしな」
「でもあたしはその入院?できたぞ」
「そうだろうな。何故ならお前、病院側の人に俺達と同じことしただろ?あの時、俺もお前は盗賊だって直感的に思った。中世的な世界で飛び交うお前の姿が何故か浮かんだ。その答えは一つ…」
ヒカルは俺に目を合わせる。俺が言えということだろう。
「…記憶改竄。俺達に虚偽の記憶を植え付けた…はずだ」
「はあ!?なんで!?あたしそんなのできないぞ!」
「ちょっと、落ち着いてください!どうしてそういう結論になったんですか!?」
カノンも反論を述べる。だがこちらには決定的な根拠があった。
「さっきどうにか壊れてない衛星通信の携帯電話を借りた。それですぐに電話した。ドイツのあの病院に。そしたら…」
俺は入院していた彼女の経緯を聞いた。当然病院側は個人情報の保護という名目があったのだが、こちらは引き取りに来た親族と説明し、虚偽の名前と病院に行った時の特徴を言うと、意外とあっさり答えを言った。長い待ち時間を得て…
『えっーと、確か身元不明者として救急車で運ばれて…入院となった経緯は…はっきり言ってよく分かっていません。すみませんね、お礼の電話だと言うのに』
「……あぁごめんごめん。なるほどね」
キルアはいつの間にか優しい口調になっていた。その瞬間…
ブワッという風と共に辺りの雰囲気が変わる。状況を理解しようと目を凝らし、そして驚愕する。
「キ、キルアさん…何を…?」
「ごめんね。こんなつもりじゃなかったけど仕方ないんだ」
キルアは片目を瞑りながら…笑う。カノンの首元にナイフを付けて…
「それが本性か!?さっき私達を助けた時とは違うね!」
「あたしを舐めてもらったら困るね!君達は全てあたしが作ったあたしを見てたんだよ!」
アナリスは両手に魔法の光を込めるが、何もしない。キルアも手で固定したままだ。
「とりあえずカノンを離してあげてよ。可哀想じゃん」
「やだよ。絶対あたしになんかする。とりあえずあたしを殺すってのは諦めて。多分アナリスの魔法が発動するよりあたしがカノンを殺す方が早いからさ」
「分かった分かった。ならせめてどうしてこんなことするか教えてくれても良いと思うだけどな」
アナリスは両手を下げる。するとキルアは自信満々に話し始める。
「確かにあたしは記憶改竄したよ。あの時、あたしは枕を投げたでしょ?そこに魔法を仕込ませといた。大盗賊という一文を、人間の記憶というのは意外と脆いからその一文だけであらゆる記憶が自分自身で作られる。勝手に大盗賊だと思ってただけなんだよ」
キルアはなおも饒舌に話す。
「あたしの正体は…魔法省暗殺部隊の一人。目的は理論上存在するとされる異世界に行くこと。そしてそこを新たな住処とし、人間の居住空間拡大を目的とした極秘の計画、あたしはその第一の実行者ってわけ」
「私の嫌いな魔法省の人間なわけね。確かに禁忌魔法は魔法省の人間しか使えないし納得、最初から分かってたことだけど」
「なら君達がどうしてここにいるのかも分かる?分からないよね教えてあげるよ。凄まじい力が一点に集中し、体の構成度が0.001%にまでなった時、異世界に行けるとされた。昔の魔法学者が実際に試して、遺体すら残ってなかったから一応の筋は通ってるとされた」
「それは私とヒカルでそうかな程度には考えていた事だよ」
「あっそ。それじゃあさぁ、君達ってここにいる理由は知ってる?君達は選ばれたんだよ。魔法省から相応しい人間として」
「相応しい人間…?」
俺は思わず疑問を投げつける。キルアはこちらを見つめると
「そう、相応しい人間。どんな環境にも対応できそうな強大な力を持つ人間。賢者と呼ばれた少女と剣聖と呼ばれた少女、この二人が適合された。あとはその監視役として私」
「…あれは偶然じゃないのか?」
「空から落ちてきた彗星が偶然アナリスとカノンに当たったとでも思うの?違うね。魔法で未来を当てることはできないけど推測はできる。気づかないように記憶を改竄して、誘導した。彗星が落ちるとされた場所に。何重もの魔法による呪縛でね。でも誤算はガイムが来たことと魔王一行がこっちの世界に来たこと、これは偶然…ではないかな。一応魔力の高い者に彗星は向かうはずだけど…まぁいいや」
「それで…俺達をどうするつもりなのさ?」
俺はそう聞くと、キルアの表情がふと緩む。
「そうだね…バレた時の判断はあたしに任されてるし。でもまぁ殺せって感じだったかな…ただ…」
キルアは笑いながら言う。その顔はサイコじみていた。
「あたしはもう馬鹿な少女じゃないよ。これからは一人の暗殺者としてよろしくね」
「…マジ?この状況でよろしくねって…」
「うん。カノンも離してあげるよ!」
キルアはそう言うと突きつけていたナイフをしまう。
「とりあえずは仲間だよ。あたしも魔王は嫌いだしさ。魔王が地上でおとなしかったのは魔法省ばっかり的にしてたからね。最近は人間全体の攻撃に代わったけど。でもこの世界に来た今はチャンスだよ」
「何が?」
「強い軍隊がいる。考えたこともないような。それに既に来てるし」
「は?」
来てる?どういうことだ?
「あたしは索敵魔法を常に発動してるから分かるけどさ、後ろの海から何か来てる」
その瞬間、ヘリコプターが4機こちらへと飛んできた。
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『ヘリ部隊ラペリング降下開始』
『ドローンの巡回準備完了』
『高速巡視艇、香港国際空港に到着』
「周囲を完全に囲め。奴らを逃すんじゃないぞ」
-中華人民共和国 北京 国防省 中央軍事委員会 作戦本部-
「中華人民解放軍、駐香港部隊の力を見せつけてやれ。アメリカに先を越されるなやれ!」
司令官はそう激励すると、ドローンと衛星から映される映像をじっと眺めた。
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