第132話 新たな危機
「さて、どうするの?あたしは逃げれるよ。でも君達は逃げれるのかな?」
「まさかお前が軍を呼んだのか?中国軍を」
ヒカルがそう問いかけるとキルアは首を横に振る。
「違うよ。ただあたし達の顔は既にバレてること忘れてない?あれだけ街で騒ぎを起こしたら必ずなんか言われるでしょ」
キルアはそう言うとカノンから離れる。
現在、既に大多数のメディアが俺達の事をバラしている。顔を一部荒くしたものが出回っているらしいが、それでも近くで見ればはっきり分かる程度の物だ。未成年者という判断のもとで行っているとのことだが。
そしてあのヘリコプターに乗っていた兵士達はおそらく着実にこちらへと近づいているだろう。
「アナリス相手できそう?」
「まあ…多分」
米軍に続き中国軍と来たわけだ。かなりの連戦となるが…とその時、謎の飛行物体がこちらへと飛んできた。
「おいドローン!無人偵察機だ!」
ヒカルはがそう言うと、飛行物体はグングンと迫ってくる。近くにいたカノンが先程の衝撃から抜けきれてはいないが、なんとか切り刻んでいく。
「不味いな…」
俺はそう一人でに呟くと、状況を悲観した。
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「無人偵察機全て迎撃」
「想定範囲内だ。第二陣と共に部隊を向かわせろ。海上からも挟め」
「はい中将」
中将と言われた司令官は薄暗い部屋の中でクククと笑う。コンピューターに映されているのはどれも若年の男女。
気が引けるとは言え、その利益を考えた場合のことですっかりどうでもよくなる。
米軍が捕らえることのできなかった奴ら、アメリカに潜んだ工作員から伝わってきたこの情報が確かなら我々は更に優位に立つことができる。
そうなれば…私の地位もやがては…そう考えていた時だった。
「中将、将軍からの連絡です」
「将軍?」
司令官は顔を歪めつつも電話を受け取る。固定電話だが音質は良く、どうやら相手先は人が少ないところにいるのが分かった。
「電話を変わりました」
『君が本作戦の指示に当たっている者か?』
「いかにも」
将軍、大将とも言われるその男との電話はお互い名を名乗らずに話が進められた。
『状況はどうなっている?』
「現在作戦を実行中。ドローンでの撹乱を開始、およそ80m圏内まで部隊を接近、レーザー銃で一時的な視力を奪った後に拘束する予定です」
『中止だ』
「は?」
中将は素っ頓狂な声を出す。中将は内心では讃えられることを期待していた。だが予期せぬ答えに思わず正気かすら疑ってしまう。
『もう一度言おう。本作戦は中止、展開した軍は香港に…』
「お、お待ちを…どうしてか説明していただけない限りは…」
『聞けないと言うのか?これは首席と国防大臣からの命令だ。本作戦はただちに中止とのな。香港市内の救助活動が優先されている』
「なっ…」
『それでは頼んだぞ』
電話は一方的にプツリと切られる。中将はその場に立ち尽くした後、やりばのない怒りがフツフツと湧いてくるのを感じていた。
「クソッ!」
中将は電話を思いっきり置いてあるテーブルへと叩きつける。隣で電話を保たせた兵士が恐怖の表情を浮かべる。
「…すぐに撤退させろ」
「はい?」
「撤退だと言ってるんだ!展開した部隊を香港市内に回せ!早くしろ!」
「えっ…あ…」
「は、はい。こちら中華人民解放軍、国防省より…」
「撤退命令がだされた。すぐに引き上げさせろ!」
ヘッドマイクを着けた兵士達があわててやり取りをするのを横目に中将は黙ってその場を去ろうとする。
「指揮権はそちらに委ねる。救助活動をよろしく頼んだぞ」
中将は無責任にもそう言うと司令部のドアをバンッ!と開け、出て行こうとする。
「クソッ!クソッ!何故だ…!何故作戦をやめたんだ!」
一人誰もいない薄暗い廊下で怒りをぶつけていた。壁に拳を当て、観葉植物に目を付けた時、この怒りを発散する方法があるのではないかと思いつく。
「そうだ…私にはあるではないか…まったく、悩む必要もない」
中将はそう言うと国防省を去るべく、その場を後にした。
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何が起きているのか理解するのに時間がかかった。こちらに向かってきていたはずのドローンが一斉に来た道を戻っていったのだ。
「はあ…何なんだ一体…?」
もう正直何がなんだか分からないので助かった。気づけば周りに兵士達の痕跡は完全になくなっていた。
「…全員いなくなってんなぁ」
キルアは呆けた声でそう言うが、アナリスは訝しげな表情で
「それ嘘じゃないよね?」
「嘘ついてどうすんだよ。あたしだって捕まりたくないし」
「何はともあれ終わったから良しだろ。良し」
俺は喧嘩両成敗ということで二人にそう言うと、二人共俺に目を合わせながら
「「そういうことじゃない!」」
と俺に言ってくる。ヒカルもどうやらキルアについては気になるようで
「その…魔法省について説明してくれ誰か…」
というより話について行けてないようだ。ただ一人カノンだけが静かに地面へと俯いていた。
「…どうしたの?」
俺は極力優しく声をかける。大事な人を亡くした時の気持ちは当人にしか分からないらしいが。
「…いえ、ちょっと…」
「…ほんとにどうしたの?」
カノンは何か悩んでいるようだったが、やがて顔を上げると
「あの…皆さん!その…お願いがあるんですが…!」
と声を張った。
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