第129話 見出した答え

私は彼女、カノンの顔を見ていた。死はもうすぐでやってくることも分かっていた。


「あぁ…そうか、そうなのか」


私はやっと答えを見つけ出せた。何故あそこまで死を拒んだのか。魔王の配下となり、人間を殺してまで生き長らえようとしたのか。


私は彼女に見送って欲しかったのだ。ただそれだけ。私が死ぬ時、彼女が側にいることを望んだから。


あの日、私は突如としてこの世界にやって来た。眩い閃光と共に、懐かしい気配を感じ、気づいたら砂漠にいた。


砂の大地を掛け歩いた。全ては彼女を見つけるため。途中で街を見掛けた。人間だけしかいない世界を私は知った。


私は何もしなかった。殺しもせずに歩いた。そして魔王の元に。


私は命を受け、この街を、住民を殺しにきた。そして偶然彼女と出会うことができた。


「…お願いがあります。王女様。どうか、私の手を…握ってはいただけませんか?」


私はゆっくりとそう言う。彼女は迷うことなく私の手を握り


「もちろん」


彼女は力強く私の手を握った。彼女は既に泣きそうだった。


「王女様、泣いてはいけません。あなたは…強くなった。彼らの屈辱に耐え、いまやあなたは剣聖と呼ばれる程までに強くなった…真の英雄はあなたなのだから」


「違いますよ。あなたの教え通りにやったまでです。私はあなたが死んだと聞いた。けど私は信じなかった。そしてあなたが魔王に寝返ったと聞いた時も…なにかの間違いだと…だから私は…堂々と剣を鍛えた…」


「…そうか。良かった。それじゃあ…私は…逝くとしよう」


私は目を瞑った。

____________________

カノンは既に亡骸となったバルトシュタインをしばらく見て、やがて立ち上がった。


悲しんでいる暇はない。ヘリコプターの数機がこちらへと来ている。


私は彼らに近づき、無表情に努めて言う。


「早く行きましょう」


無言で彼らは頷くと、私は彼の亡骸に背を向けた。

____________________

Z-9 ハイトゥン汎用ヘリコプターは上空を旋回していた。


「EMPの影響が香港地区全てに見られる模様。ビルの倒壊も複数確認」


「海底ケーブルの切断により外部との連絡手段を衛生に切り替える」


無線を切り終え、香港市街の様子を見る。あちこちで火事が起き、煙が上がっている。


「誰かこんなことをしたんでしょうね…」


「さあな。だがやったのはおそらく人間じゃない何かだ。例えどんな理由があろうと…許されることはない。まったく本当に愚かだ」


兵士達は降下していくZ-9の中で話していた。


数機のSu-27と共にZ-9は香港市街を飛び回っていた。

____________________

「香港でテロが発生し、多数の死傷者が…」


田村雅俊はテレビの電源をそこで切ると、立ち上がり黒のコートを羽織った。


そしてすぐに自身のスマホで電話を掛ける。電話の相手はすぐに出た。


「中谷か?今テレビつけれるか?」


『分かってるよ。香港のやつだろ?言いたいことは俺達が逃した奴らが香港で暴れたかもしれないってことだろ?』


「…まぁ…だが奴らは確かアメリカにいたはずだ」


『そいつはそうだろうな。ニュースではワシントンDCの報道で持ち切りだった。かと思ったら今は香港だ』


「…中谷…一つ仮説があるんだ。聞いてほしい」


『なんだよ?TSAに関することか?』


「俺達はこの前、東京で奴らを確かに捕えた。だがレインボーブリッジで逃した。その時俺は橋から落ちそうになってた」


『あぁ、お前もよく脱出…』


「あれは自力で脱出したわけじゃない。俺は確かに車と共に水面に落ちてった」


『…どういうことだ?』


「俺は多分彼らに助けられた。体が落ちていく車に反して浮いた。そして橋の上にそのまま…あの後俺は考えた。おかしい点を。ニューヨークの事件で見つけた」


『おかしい点?それに助けられたって…?』


「もしや彼らは…人型の若者はこちらの味方かもしれない」


『…?何言ってんだよ?根拠はあるのか?』


「あるさ。それがおかしい点で説明できる」


『だからそれが何だって聞いてんだよ』


「冷静に考えてみろ。あの事件が起きたのは昼間のウォール街だぞ。多くのニューヨーク市民が働いていたはずだ。なのに死者は約2000人だ」


『そりゃあ確かにその値は少なすぎるが…』


「そう少なすぎる。9.11同時多発テロの死者とほぼ同じだ。あちらはビル二つの倒壊でこの人数に対し、こっちはウォール街全域」


『だがなぁ、そういう記録がないんだよ。ニューヨークにあった監視カメラのほとんどがぶっ壊れたせいで』


「それは…そうだが」


『まぁ何が言いたいかは分かった。つまり彼らは香港でまた人助けしてるかもってことだろ?』


「まぁな」


『それと俺からも気になる点がある』


「なんだ?」


『11。同時多発テロは9月11日。ニューヨークの化け物事件は7月11日。なんの因果なんだろうな』


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る