第119話 香港襲撃事件(6)

2022年8月12分 現地標準時

午前10時30分

中華人民共和国 香港 油麻地 衛理道

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「身に纏う雰囲気が変わった…さしずめ、覚悟はできたと言ったところか…」


ストレイターは独り言のようにそう言うと大剣を構えなおす。


「来るがいい」


「……」


私はストレイターの言葉に頷く。直後、私は一気にストレイターに距離を詰める。


「はああっ!」


渾身を込めた叫びと共に、ストレイターに斬りかかろうとする。ありとあらゆる剣技を使わねば彼には勝てない。


しかし、ストレイターは私の攻撃を防ごうとはせず、代わりにひび割れたコンクリートの地面に大剣を突き立てる。


その瞬間、周囲の地面は割れだしたかと思うと、一斉に土色の、本来あるべき地面が隆起する。


それにより、私の攻撃の勢いは一気に減速する。次なる攻撃の手としてストレイターは大剣を十字に切ったかと思うと、それが光となって私に迫る。


私はその攻撃を剣を前に突き出し、剣技で防ぐ。


「聖なる守り…聖騎士となったか!」


ストレイターは剣を連続で振るうと、それが渦となって不規則に私へと近づいてくる。


「剣の…舞!」


私はそう叫ぶと、技を繰り出す。渦の勢いさえも利用し、剣と己の身体能力のみで渦を華麗に避けながらストレイターへと近づく。


私は剣を薙ぎ払う。ストレイターは大剣で防ぐ。私はそれを見越して、素早く立ち回ろうとする。


(正面、側面、背面…とにかく隙を作らないと…!)


剣は私の魔法によって色合いが変化しだす。


赤い炎、氷の青、雷の黄、効果的なダメージをどうにか与えようと最大限、教えられてきた剣技を打ち込む。


ストレイターは大剣を振り回しながら私の攻撃を防ごうとするが、その一部は鎧へと辿り着いている。このまま攻撃を続けようとするが。


おもむろにストレイターは近くの放置された乗用車のパンパー部分を凄まじい握力で掴んだかと思うと、それを持ち上げる。


その光景に一瞬の戦慄を覚えた瞬間、乗用車をこちらへと思いっ切り投げつけられる。


咄嗟に剣を振るい、その車を正面で真っ二つにする。2つに分かれた車はそのまま地面を擦りながら高速道路の壁へとぶつかる。


「ぬわあっっ!!」


ストレイターは続けて車を投げる。今度はその状況をしっかりと理解できているため、車を避け、天高く飛ぶ。


私は勢いのまま、空中を突き進みながらストレイターへと向かう。


大剣では防げない。私はそう確信しながら、ストレイターの背後を取り、一閃。


そのまま、次なる剣技。なめらかな剣捌きで相手に多大なる衝撃と裂傷を与える、

[波浪斬り]。剣がぐにゃりとならなければできない挙動。連撃に力を込め、ストレイターを倒そうとする。


大剣のリーチは既に見切っており、ストレイターは強大な青い炎を纏わせた大剣を私の動きに合わせて振るうが、一段早くそれら全てを避けていく。


(このまま…押し切らないと…!)


ストレイターの表情は変わらない。笑いもしなければ憤ったり、悲しむわけでもない。ただ虚構、空っぽの器に魂が入っているだけかのようだ。


ストレイターは大剣を振るうのをやめる。直後、大剣は黒い瘴気を纏いながら、やがて塊へと変化したかと思うと、一瞬で両刃斧へと変化する。


私は両刃斧と大剣とのリーチの違いに対応できず、あえなく真っ二つになりそうになる。


かろうじて身を躱したが、両刃斧の姿ではなく、今度は長槍となって私へと襲いかかる。


「ふふふっ!どうだ!この魔導具の力!変化する武器に付いてこれるか!?」


「……っ!」


これがストレイターの本気かと内心思いながらも今度は防御に徹するしかない。その間にも武器の形状は変化する。今度は長槍ではなく、こん棒。鬼が持つような刺々しく、金属でできた巨大なそれが剣で防ぎきれるか確証がない。


こちらの剣が折れた瞬間、勝負はついてしまう。私はその攻撃を剣を使わず、ただ避けることしかできないということになる。


私は片膝を付きながら、車の天井へとのる。ストレイターはこん棒を車のバンパー部分に思いっ切り叩きつけるように振ると、車は衝撃のあまり後方部分が浮き上がる。


浮き上がる反動によってバネのように跳ねた私の体をストレイターの武器が襲う。こん棒から長槍へと変化したかと思うと、その矛先を宙に浮いた私へとマークしている。


「あの世へ行くがよい…!」


ストレイターの叫びが聞こえた時、私の視界は真っ暗になった。

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-中華人民共和国 香港 油麻地 ビル倒壊地-


「アナリスとキルアってこの変だよな!?」


「GPSが何一つとして機能してないが…多分ここら辺に吹き飛んでたはず!」


俺は瓦礫だらけの惨状を見渡しながら、先を行く。右側にどうやら大きく開けている場所があるらしいが、あいにく瓦礫で見れない。


身を乗り出そうとしたが、僅かに左を行った場所には瓦礫がなかったため、そこから何か見えるかもしれない。


俺はそこへと走って向かう。ヒカルもどうやら何も見つけられなかったらしく、俺に付いて来る。


「……っ!!!」


そこにいたのは人間だ。この惨状でよく生きれたものだと思ったが、その服装はまるっきり軍人を思わせる迷彩服を着ている。


「なっ!?SDU!?」


俺は声に出さなかったが、ヒカルがその部隊の呼称らしきものを発したことで、こちらに視線が集まる。


「おい!見つかったぞ!」


「あっ……すまん」


「おいお前達何者だ!?」


特殊部隊は俺達に銃を構えた。



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