第118話 香港襲撃事件(5)
「何…ここ?」
俺は今、瓦礫の上を立っている状態だ。車は瓦礫に押し潰され、近隣のビルは窓ガラスがあちこち割れている。
先程まで確かにここには人通りと走行している車があったはずだ。
-中華人民共和国 香港 油麻地-
「私が…彼を止めます…」
彼というのは瓦礫の奥にいる男のことだろう。まだ名前を知らないが。
「…よし、ガイム。俺達は影に隠れて掩護だ」
「何を?どうやるんだよ?」
ヒカルの提案に俺は疑問を抱く。
「簡単だ。こちらには銃がある。アサルトライフルやらを…」
「それら預けてんのアナリスじゃん」
「あっ……」
ヒカルもどうやら気づいたようだ。武器セットは空港の検閲に引っ掛かるため、非常時以外はアナリスの魔法で預けさせている。
「…捜そう。俺だって魔力くらいは感じ取れる。同じ世界の住人だったわけだし」
「…そうだな」
ヒカルは納得してなさそうに頷くと、カノンと俺、ヒカルの二手に分かれる。
ドカーン!
定期的な爆発があちこちで起きている。気が抜けない。
「ねぇヒカル、あの男が魔王軍の幹部らしいけどさ」
「ああ」
「あいつここに何しに来たの?」
「…さぁ、分かんない。けどろくなことじゃない」
それは俺も思う。魔王の最終目的はいずれも人類の虐殺及び文明の破壊と言われている。これもその一環なのだろうか。
「この世界で言うRPGだっけ?ゲームの中にも魔王はいるって聞いたけど」
「そう考えると複雑なんだよな。フィクションの世界だけであってほしかった」
なんというか魔王が来たのは俺達の世界からだから…申し訳なくなる。
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カノンは再び足を早め、ストレイターの前へと来ていた。
「…生きていたとは。手加減したつもりはなかったがな」
「ア、アナリスさんは!?」
「あの魔法使いなら今頃生き埋めだ。残念だったな」
私はその言葉に目まいを覚える。あぁ、そんな…
「な、なんで…」
「無駄な話だ。次は体を切り刻む。確実に…殺す」
ストレイターは声を一層低くしてそう言った。
私も剣を構え、防御あるいは攻撃にいつでも転じれるようにする。
ストレイターの大剣は濃ゆい黒、一方で私が持つ剣は太陽で光輝いて白銀へとなっている。光と闇の戦い、そう例えるのが妥当だろう。
「……ッ!」
最初に動き出したのはストレイター。彼は真っ直ぐに大剣を突き立てながら私へと向かってくる。
私は剣を持つ両手に力を込め、その攻撃を真っ向からではなく、受け流す容量で弾こうとする。
カキーン!
剣と剣がぶつかり合う音、私は攻撃に転じるべく、すぐさま背後を取る。
だが、ストレイターは振り向きざまに大剣で一閃を放つ。私は宙高く飛んでそれを避ける。
魔法込みではあるが、基礎の身体能力はこの世界の人間よりは高い。3mをゆうに越し、急いでストレイターの姿を捉えようとするが
「…消えた…?」
その瞬間、逆に背後を取られていることを察する。私は剣を後ろへと一閃するが、それと同時にストレイターは大剣を再び一閃する。
「っ!」
「攻撃力倍増の[魔剣切り]。防げるはずがない!」
ストレイターの言う通りに、剣がキリキリと音をたてるが、私の体は大剣の衝撃によって吹き飛ばされる。
どうにか空中で体制を整え、飛ばされながらも地面に着地する。靴底が摩擦で擦れていく。体に傷はない。しかし心の傷は開いていくばかりだ。
「…誰か…来て。勝てるか分かんないよ…」
気づけば弱音を吐いていた。ストレイター、魔王軍の幹部。武神と言われた男、伝説。
ヴェルムート王国の元騎士団長。
私は多分怯えていた。圧倒的な力量というのは存在する。例え私が剣聖と言われていたとしても
剣聖と讃えられてきた日々は一瞬だった。けれど嬉しかった。その日々を作ってくれたのは…
思考がどんどん混ざり、黒ずんで行く。
ドォーン!
考えにふけっている私の耳に轟音が鳴り響く。
コンクリートはひび割れ、そこからモクモクと煙が上がっている。
「…まだ生きていたか。さすがは私の教え子なだけはある。あの国の一族共はしつこいのも一因か?」
「なんで…こんなことできるんですか?」
「それはお前達にも言える。よくもまああんなことができるわけだ」
「私は違います!私は…あなたを…」
「ふん!本気で言っているのか?いつまで姫様を演じるつもりだ!」
「もう姫なんかじゃありません!私が今考えていることも分からないくせに!」
「知ったことか!お前のことなど!話の無駄だ!」
ストレイターの一閃。衝撃波だ。だが思考がまだまとまらない。どうすればいいのか…
「ねぇ、あの人達は何してるの?」
幼い声が私の脳内を活性化させる。私は横目で後ろを見る。
どうやらここは高速道路のようだ。後ろには私が来たことによるものか、たくさんの車が列を作っている。
その車道の真ん中、幼い子供、男の子だろうか女の子だろうか、純粋な黒い瞳で私を見ている。
その瞬間、迷いは消える。モヤは完全になくなる。
そうだ、彼はキルアとアナリスを…
この国の人達を…
許さない。
私は決心したつもりでいた。彼が魔王の手先になり、私のもとに現れたらその時は私が終わらせると。それが救いと信じていたから。
でも完全に決心できなかった。彼の思い出が忘れられない。忘れたくない。私はまだ…
「おいなんだ!?」
「早くこっちに来なさい!」
後から声が聞こえる。瓦礫が散乱した対向車線からも車が止まり、人が降りてくる。
衝撃波はすぐ迫ってきていた。私はただ顔を俯ける。
衝撃波は私の前にきた瞬間、消える。パッと、まるで夢のように。
「なっ!?何を…?」
ストレイターは驚きの声を上げる。私の頬から涙がツーと流れる。
「早く逃げてください」
私は全員に聞こえるようにそう言う。直後に全員が剣を持っていることにやっと気づいたのか悲鳴を上げて逃げ出していく。
「私は…」
声が詰まる。ストレイターは最後まで言わせる気はないのか、距離を詰め、連撃を浴びせようとするが全てそれらの攻撃は最初から行っていないかのように全て私の剣により受け流される。
「あなたを…倒す!」
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