第116話 香港襲撃事件(3)

2022年8月12日 現地標準時

午前10時12分

中華人民共和国 香港 油麻地

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「あなたなら知っているはずだ」


「えぇ、でも本当にそうなったとは…」


「思わなかった、か?あなたはまだ私のことを知らないようだ。バルトシュタイン ヘルグレンという名前も既にない。今の私はストレイター、あなた達を殺す者だ」


そう言った瞬間、彼の鎧は白銀からドス黒く、鮮やかだった黄色の紋様は底知れぬ闇を感じさせる紫色の紋様へと変化する。剣も暗黒色の金属へと化し、暗黒色の瘴気をまとい、地獄の使者をイメージするような形状へと化している。


「私は既に人間をやめている。この鎧と剣で…私は魔物へと生まれ変わったのだ」


彼はそう言うと、威勢の良い低く、その老体に合った大声で叫ぶ。


「例え剣がないあなたであろうと、私は容赦しない!!!」


そう言った瞬間、斬りかかろうと距離を詰めてくる。


「覚悟!!!」


ストレイターは勢いよくそう言うとまだ体制の整っていない私に大剣を振るおうと…


ガン!


私は咄嗟に目を細めたが、目の先に彼、ストレイターはいなかった。


続いて地面に何かが激突する音、私はその音のする方向を向くと、中型トラックが一台、普通ならありえない形で斜めに突き刺さっていた。荷台はその衝撃でか開いたままだ。


「ふぅー、危なかったね。ほら剣だよ」


隣にはいつの間にかアナリスがいた。彼女の魔法で預けていた剣も持っている。


「それで、彼何者?えらくゴツいし、私の魔力探知でも分からなかった。カノンはよく気づけたね」


「彼は…」


説明しようとした瞬間、何かが私の頭上を掠めた。その数秒後、左側にあった二つの高層ビル、距離はそこまで近くはないが、それらがガラガラと音を立てて崩れ始めたのだ。おそらく上層階を平面で斬られるようにして…


先程の衝撃波、その発生元は…


突き刺さっていたトラックはいつの間にか真っ二つになっており、崩れた瓦礫の上にストレイターは先程と同じように立っていた。


「いきなりの不意打ちとは…。ハッ、だがあの程度の攻撃では私は死なん」


「マジか…。あんた普通の人間じゃないね」


「彼は魔王の幹部です…」


「なるほど道理で…」


その時、背後から何かがストレイターに飛びかかる。


「…ッ!おいキルア!待てやめとけ!」


アナリスがそう言うが、キルアは既に臨戦状態のようだ。手にはナイフを持っている。


「てめぇ、よくもあたしを殺そうとしたな!さっきのあの…なんだ?でもまあ、あれ!あれ危なかったじゃねぇか!」


「新手か、素早さも攻撃力も中々だな。だが…!」


キルアはその身軽さで人体の急所となる部分を攻撃していたが、鎧に弾かれて通じていない。ストレイターはキルアの素早さをいとも簡単に破り、その足を掴む。キルアは宙吊りになった状態だ。


「クソッ!離せ!」


キルアは掴まれてない足でストレイターの顔を蹴ろうとするが届かない。まずいと思い私は剣を構え、駆け寄ろうとするが


「なるほど、お前はナイフを使うのか。変わった奴だが、お前ではどう頑張ろうとナイフを完全には使いこなすことはできん」


「なっ!舐めんなぁぁぁぁぁ!!!」


キルアは最後まで食ってかかっていたが、その途中、キルアが叫んだまま、思いっ切り投げ飛ばされ、ビル群の奥へと消えた。


「…!キルアさんが!」


「あれは…やば…!伏せて!」


次の瞬間、アナリスの言葉で咄嗟にしゃがむ。先程と同じような攻撃が再び頭上を掠める。背後では車やトラックが上と下に分かれている。車の防犯ブザーが次々と鳴り出す。


「うわっ!何あいつ?絶対剣届かない位置のはざなのになんで?」


「衝撃波です。剣で出しているんでしょうけど、あれ程の…」


「なるほどね。近距離でも遠距離でも行けるクチか」


そう言うとアナリスは氷を両手で浮かすように表現させる。私も剣を真正面に構える。


「他の人達は?キルアさんは大丈夫でしょうか?早く助けに行かないと」


「キルアなら多分大丈夫だよ。ああ見えて意外と死なないさ。それより…私達がこのまだと死ぬ、だから…行くよ」


そう言うとアナリスは氷と冷気をストレイターへとぶつけようとする。


ストレイターは真っ直ぐに伸びてくる氷を


パリンパリンパリン


そのまま割るようにしてこちらへと突き進んでくる。続いて冷気はストレイターにまったく効かないのか進むスピードは変わらない。


「常人なら氷漬けで串刺しなんだけど、ね」


「私が止めます!アナリスさんは魔法の準備を…」


声に発した瞬間、私は今自分がやろうとしていることに気づく。彼、ストレイターを殺すのだ。


私は迷いを打ち消したつもりで真っ直ぐストレイターと正面からぶつかり合う。


「ッ!」


「私の剣はその程度で止められはしない」


ストレイターはそう言うと大剣を一度、私の剣から放し、再度剣に振り落とす。振り落とされた時の力の差によって姿勢が崩される。


「カノン!退いて!」


空中に浮かびながらこちらへとやって来たアナリスがいくつもの破片を弾丸のようにしてストレイターにぶつける。


「甘いな」


ストレイターはそう言うと素早く剣で十字架を切ると、それが光線となって突き進む。破片は光線に飲まれ、そのままアナリスへと向かう。


「アナリスさん!」


アナリスはどうにか避けるが、それで空中浮遊ができなくなり、地面に着く。それを逃すまいとストレイターは右に一閃、衝撃波と共に瓦礫が吹き飛ぶ。


「よそ見をしている場合ではない」


ストレイターはそう言うと、剣を薙ぎ払い、私を斬りかかろうとする。私は咄嗟に剣で防御するが


「先程と同じではないぞ」


その瞬間、私の下腹部に激烈な痛みが走る。吹き飛ばされながら私はストレイターの左足に蹴られたことに気づいた。




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