第115話 香港襲撃事件(2)
「その…デモって何ですか?」
カノンはポカンとした顔でそう聞く。
「簡単に言うと、政府…あんた達で言う王国への抗議だよ」
「そんなことしたらクビが飛んでたけどな」
俺の記憶では確かそうだ。多くが民主主義であることを感謝している。
「香港では選挙に関してで政府に対するデモが起きてる。2020年あたりから香港に人が多くなって活発化してる。おかげで人口密度はNO.1。経済発展も合わせて、首都の北京、上海に並ぶほどのサイバー都市」
「なるほど、デモをする理由は自分達の境遇を良くするための意思表示だと」
「そうだよ」
ヒカルの言葉は煙の昇る場所へと向かって行くパトカーの音で消された。
「…あくまで犯罪はしないはずだ。抗議だけなんだ。あの爆発は警察官が言ってたように多分デモじゃない気がする」
「あたしが見る限り、あのでっかい建物は何ともなってないぞ」
「それは良かった」
俺は心からそう言った。なんというか命が多く失われすぎてる感じがする。
しかし、上空で昨日聞いた音にあまりにも似すぎた音を聞いて、俺の心に考える余裕はなくなる。
ギュオーーーン!
「なっ…Su-27…」
「また戦闘機かよ!私にどれだけ苦労させる気だ」
2機の戦闘機が煙の昇る場所へと向かって行ったのだ。
ヒカルが言うにはSU-27という戦闘機らしい。よく見ればアメリカで襲ってきた戦闘機とは違う。
「……なぁ、久しぶりの登場かも」
唐突にアナリスはそう言った。その顔には笑みが浮かんでいる。カノンも気づいたようで
「…この感じ…まさか…あの…」
「魔力探知が反応した」
「それって…つまり?」
俺はその先の言葉を言えなかった。まためんどう事だ。
魔力、すなわち俺達の世界の者、魔導具あるいは…
魔王、魔王の幹部。
「行く…か?」
俺はそっと4人の顔を見ながら言う。いい加減めんどう事も慣れてくる頃だろう。どちらでもいい。おそらくだが答えは…
「…行くか」
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高層ビルが立ち並ぶ街の中心部、俺達はそこに歩いたわけだが。
「どうも、海の方での爆発っぽいね。私の見る限り」
溢れるばかりの人達が何事かと騒いでいること以外は特にない。だがその人混みはかなり窮屈だ。
「うげぇ…あたし人多いの嫌いなんだよ…」
キルアはその身長ゆえにどこかに消えてしまっている。
俺が人混みを避けようと後退ろうとした瞬間。
ピジュン!
辺りに響き渡る甲高い音。その音が聞こえた方向に顔を向け、いや上げる。ほぼ真上を向いた場所には高層ビル。
高層ビルは破片をパラパラと落としながら、あろうことか、こちら側へと崩れてきたのだ。
「きゃー!」
「おい!逃げろ!」
一気に現場は大混乱。後退ろうとした俺に人の体が次々とぶつかる。
「キルアとカノンは!?どこ行ったの!?」
ほぼ隣にいたアナリスがそう言う。ヒカルの姿は遠くに見えるが二人がいなくなっている。
そうこうしているうちにビルの傾きは大きくなる。多くの車やトラックがぎゅうぎゅう詰めとなったビル前の交差点に人が殺到する。その中には警察官の姿やパトカーも見える。
俺は人混みの雪崩に巻き込まれる形でその場をあとにする。そして…
ズドーン!
濁った茶色の煙と共にビルは崩れ落ちる。
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カノンは人混みを避けようとするが、それが無理だということに気づいた。
左斜のビルが突然、崩れ落ちたことのパニックで多くの人が我先にと殺到しているからだ。
私は誰かの足に引っ掛かってしまい、そのまま転んでしまう。幸い誰かに踏まれることはなかったが、勢いで立ち上がることはできない。
そして、ビルが完全に地面に付いた時には、周りに人はおらず、代わりに私を茶色の煙が覆っていた。
私はやっとのことで立ち上がる。先程から体全体に嫌な予感が巡り回っている。何者かが私達を狙っているかのような。だがこの感じは…
「ま、魔力…」
私は一人出にそう発していた。魔力の流れ、その危機察知能力が私の全身を駆り立てていた。とんでもなく自身の魔力を隠すのが上手い。アナリスやキルアではない。
私は崩れたビルの方を見ていた。すぐになって破片郡が風に煽られ、私の全身に当たってくる。
私は目を覆いながらもその光景、いや何者かを見ようとする。
「……!」
私はおそらくこの世界に来た時以上の驚きを覚えたに違いない。
何者、いや彼。白銀の鎧と灰色のボサボサの髪、その渋い顔には引っ掻かれた、斬られた傷があちこちにある。
「……久しいな。会うのは何年ぶりだ?」
彼は重曹な老騎士の姿で私に話しかけてきた。私とほぼ同じ色の白銀の鎧。鎧は今はなく、完全に私服なのだが忘れるはずがなかった。
「剣は…ないのか?」
彼の問いかけに答えるまえにキキッー!という音と車のドアが勢いよく開かれる音。
「おい!お前達何をしている!?」
ヒカルがさっき言っていた警察、香港警察が道路からジワジワとやって来ていた。飛び散ったビルの破片で車ではこちらへと来れないらしい。6人程の警察官が拳銃を構えている。
彼はその様子を横目で一瞬確認したかと思うと、鞘から取り出した大剣を地面へと突き立てる。
警察官達はその大剣を見るやいなや、顔に恐怖が現れたが、問題はそこではない。
「…!何を…するつもりですの?」
「邪魔者を消すだけです」
それを聞いた私は咄嗟に声を警察官達に向けて
「早く!逃げて!」
警察官達は私の声が聞こえたはずだが、動くことはなかった。そして…
地面に勢いよく亀裂が入り、その亀裂は四方八方へと伸びる。
その亀裂は警察官達の足元にまで到達した瞬間、その亀裂から土色の地面そのものが隆起するようにして警察官を吹き飛ばす。
警察官は悲鳴を上げることもなく隆起した地面の奥に引き込まれる。隆起した地面は近くのビルや車の一部をも吹き飛ばしていた。
「な、なんで、あの人達を…」
殺したのか?そう言おうとしたが、言葉の意味通りに捉えたくない気持ちがあってか、その先が出ない。だが彼はその問いが分かったのか
「なんで、か。それは簡単だ。私も魔王様の幹部だからだ」
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