1965年(18)
これを最後の緊急会議にするつもりですか?
攻撃を仕掛けてきたのはそちら…何の反応も示さないということは我が国への宣戦布告以外の何でもない
それは間違いです。我々は攻撃を一切行っていない。ずっとそう言っているはずです
ではその証拠でもあるのですか?無実を証明する証拠が?
何が言いたいんです?大統領閣下
それ相応の報い、あるいは態度を示してもらいたいものだ。書記長殿
その返事を待つ前に警戒体制を敷くのですか?
遅れをとるつもりはありません
世間はどう見るんでしょうなぁ。おそらくアメリカが先に攻撃したと見るでしょう。ベトナム戦争でメディアの影響を再三思わされたはずでしょう?
他国に我が国の内部事情についてどうこう言う権利はないはずですが
そうですか。…話を戻しましょう。我々がここに来た理由、今日は交渉のために来たのです
そうでしょうな。部分的核実験禁止条約を締結してから2年、キューバの出来事は我々とて繰り返したくはない。そちらの権威はまだ失墜してこそいないが…どうするつもりですかな?
報道しないのはあなた方の恩義…という訳ではないはずだ
と、言いますと?
ジラント…ロシア語でドラゴンを意味する言葉…あなた方のメディアへの抑制があり、世論を傾ける口実を作る際にもドラゴンの事はさすがに発表できないのでしょうね
…………それを知っているのであれば明確だ。あれはあなた方の攻撃だ。
いいえ、それは違う…こちら側の宣戦布告だという証明がありません。そもそもあんな大層な物、どうやって作り、どうやって運んだとお思いで?
いくらでも手段はある。実際キューバに核を運んでいたことをあなた方は最後まで気づかなかった。
それとはスケールが違う…私達は無実だ。
それはずっと前から聞いております。ならば無実だと証明できるのですか?
やっていない事を証明…ですか。私達にとってはそれを指示した人間などいませんからな。…最も平和に済ませるならば核事態の撤廃による和平
そうなりますな。ですがあなた達がそれをしないことくらい分かる。自ら我々に成り下がる様なものですからな。
…ふっ、そうお思いですか。いえ大丈夫です書記長殿。私達には無実となる証明、もっと言えば証拠はない。
でしょうな…………ここで私から一つ提案があるのです。今からとある機密情報をあなたに開示します。
内容によりますが…今すぐ確認しても?
紙媒体に記しています。読了後は廃棄してください。
コピーを取らせるつもりは?
それがどうしても必要とあらば
…そうですか
ーアメリカ合衆国大統領が茶色で加工された特殊な手紙を読み終えるー
…知っていたのですか?冷戦が始まる以前より前に
大蛇は知っていました。しかしドラゴンについてはまったく、空想上のものだけだと
どこでドラゴンの情報を?
KGB局長が国内での会議で教えてくれました。あなた方CIA長官がCIA諜報員に渡した手紙に。少し杜撰ではと思いながらも
情報の保管にデジタルではなく、アナログかつ紙で保管しているのはあなた方も同様でしょう
でしょうなぁ…それでどうするのですか?私達の手札は切れた。それでもメディアに公開して、ドラゴンを世界中の人々に知らせるのですか?
…………何故、あなた方は機密情報を我々に渡してまで戦争を止めようとするのです?
それが聞きたいのですか。何故…そうですね、歴史に汚名を残したくはないからです。
汚名?
核を撃った国は米国だけで結構、ただそれだけです
……そうですか、もう少しまともな理由かと思いましたがね
平和は世論が望むことですから、どうするのですか?
西ドイツ及びトルコに駐在する米軍は撤退させます。だがあなた方も…
えぇ、我々もおとなしく引きこもらせますよ
…これでこの会議は終わりではないです。書記長殿
えぇ、私達だけ損をするつもりは毛頭ありません。大統領
ースイス ジュネーブにて行われた東西国家主席機密会談終了ー
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1周間が経っただろうか。日光の来ない牢獄で私の精神は確実に蝕まれていた。
おそらく私の死は確定しているだろう。KGB本部に乗り込んだ哀れなCIA諜報員など死刑以外にありえないことくらい分かる。
だが…運命を変えたいと思った。無論それで変わるかどうかは分からないが、とにかくこの戦火のない世の中が良いと私は思っていた。
今が朝か昼か夜か、さっき寝たから何時だろうと思っている時、兵士達が牢獄の前にやって来た。
「出ろ」
兵士達は感情なくそう言うと私からの質問には一切答えないぞという雰囲気を漂わせる。
私は無言で開かれた牢獄を抜け出す。
「付いて来い」
一言一言を落ち着いたのかも分からない声で兵士達は私を連れて行く。
階段を登り、長い廊下を渡った先、応接室とも言うべきか、薄い白色の廊下に際立つチョコレート色の扉。
「入れ」
兵士達はそう言うと扉の横に直陸した体制となる。扉を守る門番あるいは番犬のような感じだ。
私は言われたとおり、ゆっくりとだが扉を開け、慎重に中へと足を踏み入れる。
「…!シェレーピン議長」
応接室と言うのはあっていたようで、長椅子が左右対称、その間に長机。奥には一つ際立って置かれた椅子、社長席と言うべき場所にシェレーピンは座っていた。周りにはトロフィーなどと言ったありがちな物はなく、シンプルだ。
「…座り給え」
シェレーピンは静かながら威厳を感じさせる声でそう言う。私は長椅子の端に座る。
「…こうやって君と会うのは8日ぶりと言ったところか。随分と姿が変わっているな…」
「そうかもしれませんね…私の処罰が決まったのですか?」
「それ含めて今から話すところだ」
シェレーピンは静かにそう言うと、私に緊張感を持たせる。
「…貴様の処罰については後だ。最初に話すこと…お前が一番聞きたいことに違いない」
「何ですか?」
「元通りになったと言うべきか。キューバの二の舞いになることはなかった」
……それは……つまり
全面核戦争となることはなかったのだ。
「それともう一つ」
今ひとつ感情の整理をしている私にシェレーピンは冷酷に告げる。
「ステパーシンは死んだ」
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