1965年(14)

「…迎撃機撃墜の可能性あり!レーダーに反応なし!」


「目標高度変更及び速度変更を確認!」


「今までにない反応だ。ペンタゴンに至急伝えろ!」


-アメリカ合衆国 コロラド州 ジャイアンマウンテン空軍基地-


「エルメンドルフ空軍基地より連絡。F-5の通信途絶」


「目標依然として変わらず進行中。アラスカ上空到着予定まで残り15分」


「デフコン2だ!デフコンを2に引き上げろ!」


「緊急で爆撃機の用意、B-52を常時発進可能な状態に」


「大統領及び副大統領との連絡とれません!」


「GRUに情報が漏れているぞ。どうなっている!?」


「電磁パルスの放出確認できません!」


「パイロットの生死不明!」


「原子力潜水艦を動かせ!早くしろ!」

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「どうすればいいんだ!?国境が封鎖だと!?」


私は憤ってそう言う。突然の出来事に動揺は隠せないでいた。


「分からんが…ここで聞けて幸いだった。輸送機でトルコ上空に侵入したら即撃墜だからな」


「そうか?おそらく世間はまだ戦争状態に突入しかけていることを知らないだろう。その状態で輸送機を撃墜か?」


「お前は急に冷戦から熱戦に変わった時の混乱の事を分かってないな。少なくとも俺の予想ではあんたは米軍は即撃墜だろうな」


「どうにか…アメリカに行く方法は…ないのか!クソっ!」


もはやどうしようもない。私が知らない間に勝手に進められた戦争の歯車、私がもしやと危惧していた事態が今起きつつあったのだ。


「ベーリング海での件がこの基地に届いたのが5時間前…」


「既に爆撃機が飛び立っている可能性だってあるな。俺の予想だが戦争は常に先を読むものだ」


そう。私は最悪の事態…核攻撃を恐れていた。そうなれば世紀末になることなど容易いだろう。


「…おそらくどの国でも東側から西側にはもう渡れなくだろうな。世界はすぐに大混乱だ」


「私も…同感だ…正直手立てが思い当たらない。知らないところで知らないことをされてると言うのだろうか…こういうことを。だから何もと言う感じだ」


「随分と悲観的だが…いやナワリヌフ、俺に考えがある」


「考えだと?」


ジョーヒンの顔に僅かな希望…もともと絶望していたという顔ではなかったが


「モスクワに飛ぶぞ」


「…?モスクワ?」


「そうだ。まだ希望はある」


「ダイレクトラインを使う気か?だがそれでは…」


「分かっているさ。だからこそこの現状…ソ連が攻撃していないことを証言してくれる人物に会いに行く」


「協力者…か。だがそんな都合の良い…我々に協力するロシア人などいるのか?」


「俺もそうだがな。…そいつはお前も知ってるさ。ソビエト連邦軍機密捜査部門設立者、フェリック ステパーシンに会いに行くぞ」


「待ってくれ。確かあの記録を見た限りでは死んでいるんじゃないのか?」


「末期の急性白血病で余命がいつ切れるかも分からない状態だが生きてる。医者の言う余命通りに行っていればいなかったが…彼も平和を願う者だ。戦争など望まない軍の幹部ならダイレクトラインでも…今はモスクワの総合病院にいる」


「そういうことか…彼に会いに行くと…」


「すぐにモスクワに…行くぞ。時間がない」


「ああ」


もはや一刻の猶予もない状態の中、私達は再びAN-12へと乗り込んだ。

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「緊急でモスクワに向かってくれ」


「モスクワ?モスクワに対してのこの輸送機の航空許可は出ていませんが」


「世界の命運がかかってる。それと上からの命令で既に許可は出ている。早くモスクワに頼む」


「……了解です。モスクワ基地との連絡を取ります。燃料補給までに10分かかります」


「それくらい構わん」


ジョーヒンはそう言うと座席へと戻る。さっき、この基地に来る前とほとんど同じ座席に座っているが。


私は少し彼との座席の間を開けた場所に座っている。


やがてAN-12はパイロットの言う時間通りに再びプロペラを動かせた。機体…私とジョーヒン以外が乗っていない機体の中は静寂に包まれていた。




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