1965年(13)
-ソビエト社会主義共和国連邦 チェボリサク-
「…ここからどう出るつもりだ?それで?」
ジョーヒンはそう言うとこちらを不必要に睨んでくる。
「ここに連絡手段はないのか?」
「ホワイトハウスとのダイレクトラインはモスクワだ。ここから直接連絡はできないし、KGBに聞かれるぞ」
「ホワイトハウスの必要はない。ペンタゴンやラングレーでも」
「ソ連にいる限り無理だな……何故俺がこんなことをと今思ってる。祖国に忠を尽くしたと思ってたが…まさかアメリカの味方とは…」
「それは私も同じだ。ソ連と手を組むなど…前の私ならありえなかった」
「その話が本当かどうかも分からんのにな…とにかく、チェボリサクから南に500km地点が国境だ。そこに着けば構成国の一つ、グルジアに着ける」
「グルジア…ジョージアか、そこを西に行けばトルコに…」
「そうだ。その後にトルコに…。いや俺も付いていくことにする。CIAを一人にする間抜けなことはしない」
「どの道交通手段がない。その方が助かる」
「だろうな」
「何かあるのか?」
「ハインドの航続距離は430km。それに試作機だからもう少し短い。辿り着けないな。アーン・ドゥビなら行ける」
「AN-12か。だがここの滑走路は行けるのか?」
「もともとここらの物資は空輸で輸送しているから当然だろう」
ジョーヒンは訝しげにそう言うと視線を向けてくる。
「では、そこに行けばいいわけだ」
「…あぁ、そうだ。準備をしてやる」
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1965年 3月9日 現地標準時
午後2時
ジョージア沿岸まで20km地点 黒海上空
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「見えたぞ。グルジアだ」
「…着いたか。それにしても何故だ?」
「…あいつらのことか?今さらだな」
私が言う何故というのは、私と一緒に連れられてきた博士やら研究員のことだ。何故だか一緒にAN-12に乗っている状態なわけだが。
薄暗く、明かりが少ない機体で珍しい晴れの太陽をバックにジョーヒンは言い出す。
「お前一人をグルジアに連れて行く理由がないだろう?」
「そうだが、それが少し増えても同じことではないか?軍用輸送機まで使って」
「あの場所にいると精神が病んでしまうってことでジョージアの方の軍事基地に輸送する手はずだ」
「…要は治療と隔離、情報遮断のためか?」
「そう捉えてもらって構わない。現に奴らは俺達が前で秘密の話をしている間、あいつらは後ろで化け物だのなんだのパニクってやがる。精神安定剤を注射させるべきだと進言したんだがな」
後ろの方では今は大分落ち着き、緊張したような顔向きで座席に座っている。座席は左右端っこに用意されているもので、必然的に2つのグループに分かれてしまっているわけだが。
「…あのナーガというのは一体なんなんだ?」
私はジョーヒンにそう聞く。結局のところあのナーガという化け物についてはまだ聞きたいことが山程あるのだ。
「…お前らが思うアムチトカ島のドラゴンのようにだな。俺達もあの正体がさっぱりだ」
「…そうなのか」
「がっかりしたか?あれが宇宙人とでも思ったか?俺は…分からんな。昔この地球にも恐竜がいたそうじゃないか?なあ?」
「…そうだが」
「恐竜がいたなら巨大な蛇が生きてても問題ないだろう」
「今の地球の酸素濃度的に無理だ。あの大きさならすぐに窒息してしまう…はずだ。奴は生きていたが。大体あのデカさの化け物の…」
「化け物の…なんだ?」
「奴は確か1855年に見つかってここにいるんだよな?」
「あぁ。お前もあの日記のような記録を見たんだろ?」
「だったら…奴は100年間眠っていたということになる…その間の栄養はどうしてたんだ?」
「……なるほどな。確かに俺達もそれは気になっていた。だがな、俺達もそれを調べない程マヌケじゃない。100年という長い時間があったんだ」
「それは分かったのか?」
「さっぱりだ。奴が食べる物、奴が住んでる場所、そもそも見つかるまでどこにいたのかもさっぱり。宇宙人が持ってきたペットって奴もいる」
「あながち間違いではない可能性も…」
『現在グルジア上空。降下予定地まで5分。衝撃緩和のためシートベルトの着用を…』
「続きは…後だ」
-ジョージア スフミ郊外のソ連軍 軍事基地-
「全員こっちに来るんだ」
「いや、こいつは私が。いろいろと聞きたいことがあるんでね」
ジョーヒンは駆けつけた兵士にそう言うとスタスタと歩き出す。
「付いて来い」
一言そう言うと、彼は前を向く。他の研究員や博士は兵士達に案内され、施設内へと連れて行かれている。
「トルコの近くにこんな基地があるとは…」
「山と森で偽装してあるからな。敵を欺くためにはまず懐に忍びこめばいい」
「だがいいのか?私にこんな場所を見せて?」
「今更だ。あんたもKGBの俺と…この話はもうやめだ。さっきしただろう」
「そうだな。ひとまずは協力だ」
「利害の一致における協力、利害が一致しているかは分からんが。ここはスペツナズお気に入りの基地でもある。あんたが変な真似しようもんなら一瞬で蜂の巣だろうな」
「…そんなことは分かる。しないさ」
そこから話は特になく、ただ歩く。どうやら車庫らしき場所に向かっているようだ。軍用車両がたくさんある。
「…話は通してあるはずだ。車を1台頼む」
「ん?あぁ、ちょっと待ってくれ」
車を整備していた兵士はそう言うと、車の下から出てきて、その隣に止めてある車へと向かう。
「これか?助かる」
「同志の頼みだ。礼には及ばない。それよりあんたキーロフの基地の者だろ?」
「そうだが?」
「いずれあんたんとこにも届くだろうが…トルコとグルジアの国境が封鎖された」
「…なんだと?どういうことだ?」
その言葉を聞いて思わず口に出してしまう。兵士は私の方を一瞥したあと
「アメリカときたら、モントルー条約を違反してやがるとかで…なんでも軍艦の量が多すぎるって…それで急に問題になりやがってな。3時間前には軍が国境を封鎖しだしやがった」
「…どういうことだ?戦争でも始めるつもりか?」
「それは知らないな。少なくともまだ始まってない。ただ西ドイツの方にも軍が集まり出してるみたいだしな。何でも」
その後彼は言う。
「ベーリング海の方で何かあったらしい。詳しいことは知らないがな」
ベーリング海。この海は…アムチトカ島に隣接している海だ。つまり…
あのドラゴンが関係している。
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