1965年(12)

「そうだ。私は戦争など望んではいない。ここに書いてあったとおりのことを伝える。アムチトカ島のドラゴンはソ連の手先ではないと」


「俺だって戦争は望んじゃない。だがあんたをどう信用すればいい?確かにこの手紙にはCIA専用の内容だと伺えたが、俺の目の前にいる男はCIAの諜報員、であんたの目の前の男はソ連兵でありKGBでもある男、あんただって俺を信用できるのか?」


「私はするさ。あんたはどうなんだ?」


「今、いやさっきからしている行動で察してほしいな」


そう言うと左手を拳銃の方へと近づける。その銃口はまっすぐ私に突きつけられている。


「分かっているさ。私だってあんたを完全に信用してはいない。だが世界平和を望んでいることは本当だ」


「その世界平和はアメリカかソ連のどちらかが無くなった時に訪れることくらい分かるだろ?冷戦は今も続き、その手紙通りならば再び緊張が走ってることになる。そのうちキューバの時くらいの緊張にも等しくなるだろうな」


「そうだ。だから手を貸してほしい」


「俺に資本主義の味方になれと言うのか?」


「違う。利害は一致しているはずだ。この資料の内容をアメリカに伝えれば…」


「それでアメリカはあっさり信じるのか?いや違うな。様々なことを考えるはずだ。例えばあんたはアメリカを裏切り、こちらに付いたとか。ソ連はアメリカの動向を察知し、その妨害として偽の情報を掴まされた…などとな。大体ここにある資料は全て機密情報だ。軍の根幹にだって関わってくる資料をアメリカに渡すなどはできんな。あいつらのことだ、渡せばもっと寄越せと言ってくる。それとも他に何かあるのか?」


「…そうだ。あんたが正しい。このまま何もしなくても勝手に交渉は進み、デフコンを下がるかもしれない。だが私はそうは思えない」


「何故だ?」


「ロシア人は冷酷だがアメリカ人は傲慢だからだ」


「はっ!アメリカ人のお前がそう言うのか。それは一理言えてるな。お前らは傲慢であり、堕落しているとな」


「それに私はあんたに機密情報を渡したはずだ。デフコンは3であると。今アラスカ州の方で既に戦略空軍が準備を進めている」


「戦略空軍?SACか?そこまで進んでいるのか?何故だ…?」


「あんたはKGBと国防省の仲はまあまあだと言ったな。こちらもCIAと国防総省の仲も良くはないからだ。それどころかホワイトハウスとCIAの関係もキューバ危機以降冷えてきている」


「…情報の連携がとれないからと?」


「あぁ、だがこれはあくまで私の考えだ。あんたはソ連軍の兵士だがKGBだ。KGBにこの事を伝えればソ連軍の先制攻撃だって可能になるはずだ」


「…戦争は望まないんじゃないのか?私にそんな情報を与えるより黙っていたほうが全面核戦争の可能性は低かったはずだ」


「そうだ。私はこの国を守らせる、いやアメリカを攻撃するにふさわしい情報をやった。それをどうするかはあんた次第だ。ならば私の話を少しでも聞くのはありじゃないのか?」


「…アメリカ人は傲慢だ。私は自分勝手だが」


____________________

「どうなっている!?」


「現在、未確認の飛行物体を補足!」


「衛星及び警戒システムに異常なし!」


-アメリカ合衆国 アラスカ州 エルメンドルフ空軍基地-


「推定サイズ10m超の未確認物体がアラスカ州に接近、ESP衛星感知なし。弾頭ミサイルの可能性不明瞭」


「方位北東に向けて進行中、速度マッハ0.6を維持。高度1000mで検知」


「確認地点より逆探知、出現地点ベーリング海近辺と推定」


「アンドレアノフ諸島上空を通過。到達目標地点は…アンカレッジ」


「F-5フリーダム、スクランブル!国防総省に至急伝えろ!」

____________________

「NORAD(北アメリカ航空宇宙防衛司令部)より連絡、未確認の飛行物体を補足。ジャイアンマウンテンからの情報」


「スクランブルでの迎撃体制、整ってます」


「統合参謀本部議長ならび国防長官、ペンタゴンに到着」


-アメリカ合衆国 バージニア州 国防総省 国家軍事指揮センター-


「大統領から現場の指揮権は受けています。議長」


「我々だけでの判断か…国防長官殿はどうみますかな?」


「ソ連からの攻撃…そう考えるのが妥当でしょう。幸い核の可能性は低いとのことで…」


「デフコン2に引き上げることも懸念するべきだ…最悪は…」


「ソ連への報復…SAC、アラスカ及びグリーンランドでの発進は可能、ソ連東西で挟み撃ちできます。第3艦隊もオレゴン州沖に」


「アムチトカ島へ向けての討伐隊…か。奴は一体なんなのかも…」


「超常的な兵器としか言いようがない。あれは…禁忌だ。ソ連があのような技術を手に入れているなど」


「もしや…同じ個体の可能性が…」


「…あとは現場次第でしょう。あの情報は軍以外にもCIA上層部と現場諜報員が知っていますから」


「戦争になった時のことを考えて諜報員を逃すため…か。ハイリスクだとは思うが」


「ベトナム戦争でのメディアの影響がこういう結果を生んだんですよ」


「とにかく…未確認の飛行物体の調査及び…」


「撃墜…ですかな?議長」


「…やむをえん。先に仕掛けたのは奴らなのだ」


「雪解けにはまだ早い季節だ。冷戦のという名の氷の」


1965年3月9日 統合参謀本部議長ならび国防長官の判断のもと、ソ連に対しての警戒体制ならび攻撃体制が敷かれる。


それに対抗するべくソ連は大西洋ならび太平洋での艦隊活動を活発化させる。国境周辺ならび東ドイツの軍備強化。


冷戦は溶けかけていた。



















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る