1965年(11)

最近では声が残せる物が研究されているようたまが、今はその面影はない。なので文面に記すことにした。


私はフェリック ステパーシン。ウラジオストク生まれのロシア人。1908年にこの世に生を受けた。だが私の命は1960年の頃には潰えているだろう。


組織誕生のことを簡潔に書き記せと言われているが、今回は自己紹介、話し言葉風に行こうと思う。その方が読みやすいし、面白いはずだ。


まず、この組織、ソビエト連邦軍機密捜査部門は機密…いわゆる重要な情報を扱う機関ではない、正確には異常生物捜査部門だ。だが他にこんなのは見つかってないので実質ナーガの調査機関だ。


成り立ちは1855年、ナーガの化石と言われるニシキヘビ科に近いとされる大蛇が凍結状態で発見されたのが始まりだ。


これは私の祖父にあたる人が発見している。祖父は軍の高官だったようで、その跡を私が引き継いだ、と言った形だ。


1920年代になってロシアがソ連へと変わっても私は父の跡を受け継ぎ、軍の高官でいることができた。と言っても私の上はさらにたくさんいるものだ。だから戦線逃亡するソ連兵を撃つソ連兵という督戦隊という部隊が誕生していたことには心底驚いて、がっかりした。だがそんな感情があるうちは私が真の軍人であることはできないのかもしれない。私は祖国を愛しているからこそ、祖国を守るために戦っている。


そして1941年。当時第二次世界大戦中の間に私はナーガの管理を任された。その時まではKGBが管理していたらしいが、ドイツ軍の侵攻、独ソ戦でナーガの存在が露見することになったら大事になるらしい。高官はナチスの糞共が来る前にこいつは処理しろ、と言っていた。


ここで生まれたのが機密捜査部門だ。異常生物捜査部門なんてのがあったらどう揶揄されるか分かったもんじゃないってことでこういう名前になったらしい。


KGBはナーガには凄まじい再生力や反射神経があることも研究で把握できたようで兵器化も懸念しているようだった。その機密性と相まってそうなったかもしれない。


私は何故ここに送られたか考えた。もしかしたら自覚できる程のバカ正直さがあるからここの管理を任されたのかもしれない。それか単に私が無能だからかもしれないが。そうだと笑えるね。


ひとまずは人材と研究所、設備などを整えさせた。そこからは何もない、ただナーガを眺めるだけだ。兵器化事態も断念されたようだからな。


というより生物兵器どころじゃなくなったというのが正しい。世界は今、人類初の月への到達という点に湧いていた。よって焦点は生物ではなくロケットに当てられることになった。


とにかくナーガは兵器目的の運用もなくなった。じゃあ我々は何の為に管理するのか?となるだろう。


答えは世界を平和にする為、いわゆる化け物が街を襲うなどしないように、かと言って殺したら駄目だ。このナーガのおかげで新たな世界が開かれる可能性だってある。それが人々をより幸せにするためならば我々はナーガを管理しなければならない。現に技術の発展も望まれている代物だからな。だが高官はそうは思っていないらしい。事あるごとに、これは西側をぶっ飛ばせそうだと言っている。


けど私は平和を守ること、これを行うことが本当の軍隊の意義だと私は思っている。

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この資料を読む限り、兵器転用が目的ではないらしい。そしてナーガ以外の異常生物は見つかっていない。ならばアムチトカ島のドラゴンとは…


チャキッ!


私はその音に我に帰る。この音は何回も聞いている。嫌と言う程に…


「待ってくれ。話を…」


「あんた今日来た科学者の一人だろ?なんでここにいるんだ?」


「ドアが開いていた…安全な場所へと…」


私は振り向いて驚く。銃を向けている男はかつて会った男だからだ。


「な、何故あんたがここに…」


「…ほう、ナワリヌフ、覚えているぞ。あんたの顔と名前を。キーロフの研究所にいた奴じゃないか」


目の前にはジョーヒン、KGBの男がいた。その男は冷静に拳銃を向けている。


「…なるほどな。あんたもスパイ、ラングレーだろう?」


「…何故だ?何故そう思う?」


「否定しないのか?何故そう思うか…俺はあんたに話しかけた理由を俺の目の前を通ったからは半分、もう半分は俺と同じ匂いがしたからだ」


「匂い?」


「そうだ。自分を偽っている匂いだ。俺はKGBの本当の人間じゃない。言えば軍人だ。KGBにいる理由は情報を手っ取り早く入手するためだ。俺は自分のことを国内スパイと思ってるが。それに言ったはずだ、KGBと国防省は仲がそこまで良好ではないと」


「あんたもKGBであることは偽り…」


「あぁ、だからあんたを見た時直感的に話しかけた。何かボロを出さないかとな。最もお前がスパイかどうかは知らなかったが、俺は軍の人間でありKGBでもある。そのまま様子を見ようってなったわけだ。あんたもカシヤノフも同じだ」


「カシヤノフ?何故彼の名前が?」


「カシヤノフをラングレーの疑いがあると報告したのは俺だ。元より何の証拠もなかったが、キーロフには滞在することになったからそのついでに独断調査と言うわけだ」


そうか、だから奴は一人、キーロフの研究所にいたのか。


「…あんたが軍人でここにいるということは…生物学者を見つけるためにあの研究所に行ったのか?」


「…まあそうだ。最初は生物学者を見つけるために行ったが所長は不在、挙げ句の果てに何百人の研究員の中から一人ずつ話しかけるなんて不可能だ。だから所長が帰って来るのを待っていた。そしたらカシヤノフが…話は終わりだ」


ジョーヒンはそう言い終えると私の頭に突きつけんとばかりに拳銃を向ける。


「その呼ばれた生物学者があんたなのは誤算だ。ラングレーであったこともな。それで、ナーガのことを知らせるつもりか?」


「……私は何も……」


「カシヤノフに触れ続けていたというのに違うと言いたいのか?」


ここまで来たら逃げることはできない。考えとしては…銃を奪おうとするか舌を噛み切るか…抵抗か自決か。


だが私は自分でも驚く行動に出ていた。


「待ってくれ。大事な話があるんだ。聞いてくれ」


「…大事な話か?ラングレーは仲間を売らないで有名だってのに…。それとも別か?言い逃れか?」


「それどころではない!大変な事態が起きようとしてる」


私は白衣の中のポケット、そこにしまっている最初の手紙。それをジョーヒンに渡す。


いくぶん訝しげな表情で見つめるジョーヒンはは拳銃を持っていない左手でゆっくりと受け取ると中身を読む。段々と表情が変わっていくのが目に見えて分かる。


中身は英語ではなくロシア語で記されているためジョーヒンにも分かるのだ。


「ドラゴン?…デフコン4?どういうことだ?攻撃など行っていないぞ」


「既にデフコン3に上がっている。ソ連は攻撃を行っていないことは確かだ。ソ連がそう主張していることも。だがアメリカは完全に信じきれない。我々CIAがこのソ連の地で伝えるにしても手段が限られ、何より信用を勝ち取れない」


「…アメリカはその不信感から先制攻撃するとでも?冗談じゃない。キューバ危機から3年しか経ってないぞ」


「そうだ。再びこの冷戦が激しい戦争に変わる可能性がでてきたということだ」


私は心の不安を混じらせながらそう言った。




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