1965年(10)

施設の警報が鳴り響く中、私は格納庫の中を通り、白い廊下が続く謎の施設を走り回っていた。道中に何人ものソ連兵とすれ違ったが、彼らも同様焦っているのか右往左往したり、外に出てナーガがいた場所へと向かったりとしていた。かなりの混乱だが指揮系統は存命であり、戦車やヘリコプターなども確認できるため、ナーガはすぐに処分されるだろう。


最もあれが普通の生物と同じ死の概念を持っていればの話だが。アムチトカ島のドラゴン、これが今どうなっているのかは手紙には記されていなかった。ドラゴンそっちのけで外交を行っているのだとすれば問題はあるが。


直後に奥の方の施設に攻撃ヘリコプターが墜落し、炎上しているのが見える。


(とにかくここから…あの化け物から逃げなければ)


私の頭の中にはそれしかなかった、ガラス越しに見える戦車の砲撃を見るに激しい戦闘を行っているようだ。


戦争、この言葉に足を止める、そうだ私はCIA諜報員だ、ここの情報を持ち帰りアメリカに渡す。そしたら…


戦争が始まる。私は絶句した。


私は戦争が嫌いだ。戦争には敵など存在しない。お互いの思想のぶつかり合い、それが過激となり暴力的になったものなのだ。


人間は争うからこそここまで発展してきた。競争心があるから向上する、相手ができるなら自分達もできるとそれを真似する。それが良き社会か悪い社会、文化や技術の発展へと繋がる。カシヤノフは冷静にそう言っていた。


そうだカシヤノフ、かつて死んだ同僚は戦争など望んでいるはずがなかった。だが彼ら、ソ連兵が行っていたのはナーガなるものの管理、生物兵器。


やられたのはこちらだ。彼らが先に仕掛けたのだ。そうださっきの格納庫にヘリコプターがあった。混乱の隙にどうにかパイロットを脅して…それで…


…………


(理不尽だ……)


言えば戦争、言わなくても戦争。いやもしかしたら戦争にならないのかもしれない、だが…厳しい。


何故この時になって考えてしまう。この状況で…自分一人で考えてしまうのが嫌になってしまう。しかし何も答えを見つけだせずにいた。いや答えがそもそも…


私はしばらく立ち尽くしていた足をとりあえず動かすことにする。外ではどうやら収拾はついたらしく、砲撃音はなくなっていた。


カンカンと私の足音が響く。もう誰ともすれ違わなくなった。


やがてT字路となった廊下へと差し掛かる。出口は左のようだ、ならば右は…


情報保管庫。


私は廊下を走る。もちろん右に曲がる。


薄い金属製のドア、鍵は数字をパッドに打つことで解除するタイプ、いわば詰みであるが。


(…?開いた?)


何故だか、そのドアの鍵は閉まっていなかった。もしや墜落したヘリコプターやらがセキュリティを強引に解除させたのかもしれない。


中は紙の資料が入っているであろう包装紙とそれを載せている4段の棚。天井スレスレ…私より1mは高いのだが、棚の最上段の包装紙は天井とほぼ接していた。これでは梯子がない限り届きそうにはない。


だが室内は思ったよりも狭く、資料だらけだからと言って暑苦しくもない。そして梯子も2つ奥の方に締まってあるため、いざとなった時は使おう。


(…資料…何の資料を見ればいい?)


私は自分に問いかけた。ここに来たばかりの科学者が明らかに機密である部屋にいることがバレるのはまずく、ゆえに長時間はいられない。


今はナーガの混乱でどうにかなるだろうが。豪快な音が止んだ以上、ナーガはおそらく死んでいるだろう。


資料のどれを伝えるべきかも重要だ。アメリカは危険性を考慮し、報復に移すことだって考えられる。そうなれば全面核戦争となる。


(戦争は…起きてはならない)


私はそう思いながら最下段、私の腰に近い場所に置いてある資料に手を伸ばす。


---T-72戦車及びMI-24の極秘運用計画にて---


(T-72…例の戦車か。MI-24は…あのヘリコプターか?)


私は本のようにまとめられた資料を手に取り、そのページをめくる。


---補足。MI-24 コードネーム:ハインドは攻撃ヘリコプター兼輸送ヘリコプターであることを既知するように---


(ハインド?現地語で雌アカシアという意味だが…攻撃ヘリコプター?)


攻撃ヘリコプターというジャンルと言うべきか、私はそれを知らなかった。ヘリコプターと言えばUH-1などの汎用ヘリコプターしか思い浮かばない。アメリカはこの事を知っているのだろうか。


---T-72は1972年、MI-24は1970年に一般的な軍事基地への配備及びその存在を公表する事とするように---


極秘の計画らしい。まだまだ続きはありそうだ、だが私は先程このずっと奥にあり、少し手前にはみ出ている最上段の包装紙が気になって仕方なかった。


私はこの資料を読むのを中断し、元あった場所へと戻す。そして梯子を持ってこようと思った時だ。


バサン!


その資料は落ちてきた。無造作にも私の目の前に。中身は包装紙によってバラまかれてはいない。


私は多少何だ?と思いながらもその資料を手にする。


---組織誕生の歴史---


私はそのページを勢いよくめくる。








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