1965年(9)
「中の様子は!?」
「分からん!」
年配の兵士は憮然とした表情でそう言うとどこかへ走り去って行く。行くあてを失い、私は他の研究員や博士のもとへと行こうとするが見当たらない。ドームからはもはや10mも離れていない。
とりあえずはドームから離れようと歩み出す。目の前からは戦車隊、攻撃ヘリコプターがこちらへと向かって来ている。事態は思ったより深刻らしい。
私は入れる建物、格納庫だろうか、その中に入ってひとまずはやり過ごすことにする。
この混乱に乗じて情報をアメリカに渡せる。私のCIA諜報員としての義務がそう言っているのか、この隙を逃したくはなかった。
戦車隊は目の前を過ぎて行く。向かう先は決まっている。
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「こっちだ!急げ!」
ガラガラガラとキャタピラはコンクリートを走る。
T-72戦車。最新鋭のこの戦車は1965年のこの戦場、いや基地で極秘の初試行となるのだ。
相手はナーガ、ベータテストとしては問題しかないが実力を測る、もとい125mm砲の威力を測るには丁度いいだろう。
また上空を飛ぶMI-24 ハインドも戦闘は初試行だ。対戦車ミサイルのファランガも使用予定、ナーガを討伐する万全の準備は整えられていた。
T-72の戦車隊はドームを囲うようにして包囲する。既にドームの天井は閉まりつつあった。
「先遣隊からの連絡は?」
「切れてます。8人全員応答はありません」
「すぐにドームを閉じろ。既に活性化している可能性が高い」
「ですが…」
「先遣隊の命より奴が逃げ出したほうがリスクが高い…分かったなら閉じろ」
中にいる8人を見捨てる判断とはなったが、やむなしにドームの天井を閉めにかかる。ドームは手動ではなく、機械で開閉をしているがその速度は鈍足と言っても過言ではない。もしここで閉めなかった場合、奴が外に出てしまう可能性だってあるのだ。
ガンガンガン!
どこか…いや地下の方で音がする。ドームが完全に閉まった直後のことだ。しかし彼らはその音に気づかないでいた。
「大扉は閉まっているのか?」
「先遣隊突入時に開放のままです」
「クソッ!」
その時、ドームを内側から叩く音が響く。
「誰か!開けてくれ!」
それはか細いが人の声だと間違いなく分かる。戦車とドームとの距離は5m程度離れているのにだ。
「先遣隊だ!」
「ドームの開放を!」
「駄目だ!」
「待て!内部の様子が分からん!」
「一人なのか!」
「ナーガは!?ナーガはどうなってる!?」
その疑問に答えるかの如く、ドームは開放、というよりはぶち破られた。
雑に開放されたドームからは鎌首が、やがてその全体がスルリと姿を現す。先程までとは違い、その巨体は日光を浴びている。
全長10mの蛇、ナーガはその鎌首を持ち上げ、睨むような目付きで戦車隊を一瞥していた。
ナーガは口の中をモゴモゴとさせ、ペッ!と何かを吐き出す。
AK-47。唾液と傷だらけの3つのライフル。先遣隊が敗北したことをその場の兵士達全員に報せるかのように投げ捨てたのだ。
「……っ!」
「なっ!?」
声にならない悲鳴じみた叫びを上げる兵士達。しかし冷静なその場の指揮官は次の指示を出す。
「…撃て!今だ!」
一時の間、司令官はそう言うと手を振り下ろす。砲塔は蛇の頭へと向けらている。そして…
パン!パン!
連続した砲撃音、一斉に放たれる砲弾、それは一直線にナーガの頭を狙う。
ドン!ドン!ダン!ダン!
着弾の音、顔を包む爆炎、それら全てがナーガにダメージを与える。
上空には3機のMI-24 ハインドがその重武装をナーガへと向ける。
ピューン!ファランガは3機ほぼ同時に放たれる。その威力は凄まじく、ナーガ全体を包み込む。
黒煙が立ち込め、撃つのを中断する。ハインドは三角形に囲うようにして飛来する。
兵士達はAK-47を構え、戦車の影から様子を伺う。
その直後、血だらけの鎌首が突然、2台並列に並んだ戦車隊の真ん中へと突進する。その勢いで戦車は下から持ち上げられるようにして横転しだす。
「っ!砲塔転換急げっ!」
キュイーンという音ともに砲塔が高速で動いたナーガへと向けられる。
しかしナーガはそれを意に気してないのか上空を見上げるかのように鎌首を持ち上げている。
シャー!
蛇特有の威嚇音、そして…
戦車をバネにし、スルリと滑空するように飛び立つ。その先にはハインド。最も近い場所を飛来していたハインドを飲み込もうとする。
ナーガの体はその巨大ゆえに完全に宙に浮くことはなかった。だが地面に着いてる部分は尻尾の先端しかない。それ程の高さまで飛ぶことにソ連兵達は驚きを隠せないでいた。
ハインドのパイロットはナーガを避けようとするが、それより早くナーガが噛みつく。ハインドの大きさゆえに飲み込まれることはなさそうだが、ナーガは頭を思いっきり地面へと振る。
これによりハインドは地面に叩きつけられる形でコンクリート造りの豆腐型の建物に墜落する。
爆発、炎上、黒煙の全てが建物全体へと広がろうとする。
ナーガはそのまま地面に不器用に着地する。そしてゆっくりと鎌首を持ち上げるがそこには2台のT-72戦車。
ドン!ドン!ダダダダ!
同時に発射される砲弾、続いて7.62mm機関銃による銃撃。
ナーガはキシャー!という悲鳴じみた声を上げながら今度は体の中心部に撃たれる砲撃を耐えるが、ナーガの背後に回った2機のハインドがトドメとばかりにファランガを発射し、12.7mm機銃で銃撃。
その後も攻撃が止むことはなくナーガの鎌首は遂に地面へと堕ちた。
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