第112話 危機

「どういうこと?」


隣でシャーロットが私の考えに納得が言っていないのか困惑じみた表情で私に問いかける。


V-22 オスプレイ。可能な限りの人員を輸送するために8機もの可変翼機が目的地へと向かって空の闇を飛んでいる。私とシャーロットは先頭のリーダー格のオスプレイへと乗っているのだが


「目的地はローリー·ダグラス空港じゃないの?どうしてマイネーム?」


シャーロットが冗談を含めてそう言ってくるが私は表情を変えることなく返す。


「ダグラスには国際線は6つしかない。それに対し、シャーロットの国際線は30以上、そこには日本行きのだって含まれているはずだ」


これまで私は様々な国に行った。なので世界の国際空港については大体のことは分かっている。そして周囲の交通網もだ。


「だからシャーロット国際空港だと?でもここからは100マイル以上も…」


「それは彼らも同じだ。オスプレイの平均速度は450km超ある。彼らは陸路でしかない。バスや電車、そのどちらでも一直線に行くヘリコプターには敵わないはずだ」


「そうね。でも私達かなり出遅れてるわよ」


私はそれに対して何も言わない。そうなのだ。上層部に許可を取り、そして米軍に許可を取り、そして国防総省に許可を取り、そしてホワイトハウスに許可を取り…決まったわけでもない行き先に辿り着くという計画には様々な難癖があったものだ。時刻は既に10時を超えている。


こちらに人を寄越しすぎた。これがミスだったのだ。万が一の事態に備える予備軍までも使って彼らを捕らえるのに自棄になっていた。


「ブラックホーク及びチヌークは予定通り後方にて進行中」


「到着予定時刻は残り30分。天気及び視界は良好」


「よし、ノースカロライナ中の通報を残らず傍受しろ。必要ならば現地のFBIを動かせ」


同じこの機体に乗った白髭はテキパキと指示を出している。


それからも静寂というものは現れなかった。無線の音がジジッと鳴ったあとに人の声、そして機器の様々な音、ましてやヘリコプターの羽音、それが繰り返されるだけ。それら全てが心の安らぎを保つことはない。緊張という糸をいつまでも張り続けさせる。夏の暑さを忘れさせるほどに。


そして時は動き出した。おそらく目的地まですぐそこと行った時だ。


「マシューズ付近からの通報、高速で暴走する若者の姿が目撃されてます」


「高速?乗り物は?」


「不明です」


「不明だと?その若者の髪色の特定はできるか?911の指揮センターに伝令急げ」


「了解」


程なくしてのことだ。


「特定完了との報告。曖昧ですが…」


「なんだ…?」


「青か黒のような髪…もう一人は薄く…もう一人は…」


「もう一人は…?もう一人はなんだ!?」


白髭は待ち切れないとばかりに怒鳴る。


「赤…炎のような色だったと…それと黒と茶」


「…っ!最大速度で空港へ向かえ!ペンタゴンを通して滑走路を開けるように伝えろ!飛行機を絶対に飛ばすな!」


オスプレイは羽音がより一層激しくなった。

____________________

「見えたぞ!シャーロット国際空港!」


身体強化の魔法で無理やりドーピングした俺達は勢いに任せて近くの街から思いっきり走ってきたのだ。ドーム状の屋根が既に目に入っている。


「信号無視、速度制限も無視、標識も無視か…禁錮10年は硬いかもな、今までを合わせると」


「捕まらないよ大丈夫。私のおかげでね」


「…なんかチートだよな、お前らのそういうところは」


ヒカルは呟く。そもそもアナリスは魔力切れで魔法は使えない…だが


魔力というものは回復する。それは当たり前のことだ。体力と同じように体を休めれば自然と元通り。それは個人差によるのだが。


体力を回復する方法は寝ることが一番。つまり魔力も寝れば回復するものなのだ。ここら辺はずっと昔から判明している。


「…は!来るぞ!空から!」


「え?」


キルアが何やら嫌なことを言う。そんなはずはない。


しかし俺のその願いは奇しくも打ち砕かれた。ヘリコプターが8機、頭上を通り過ぎようとしていたのだ。


「ダッシュダッシュ!早く行くぞ!」


「一度引き返したほうがいいのでは…」


「いや無理無理無理無理カノン。次はないと思え、何でもいいから国外に行くぞ。まだ俺達は見つかってないはず」


「ここら辺に人がいるから…今のうちに行こうってわけだな?」


俺がそう言うと


「そのとおり!急げえ!」


ヒカルの声が響いた。



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