第98話 米軍VS異世界人(6)

2022年 8月10日 アメリカ標準時

午後7時52分

アメリカ合衆国 バージニア州

州間高速道路95号線 リッチモンド中心部から10km地点

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「見えた!街だ!」


俺はそう言って勢いよく立ち上がる。


「リッチモンドか。このトラックはまだ高速道路を降りないっぽいから…あの街で米軍を撒く、それでどうにかなるかは分からないけど」


ヒカルは不安そうな表情でそう言う。そして辺りを見渡し


「米軍がいるな。多分この街で捕まえる気なんだろうけど…俺達をどうやってこのトラックから降ろす気なんだろうね。後ろからは…」


ヒカルはその後を続けずにただ後ろを見続ける。それをカノンが引き継ぎ


「6台でしょうか。すぐそこに、目立ちますね」


「何かするわけにもいかないけど…機銃席にもちゃんと人が乗ってるときたか。ブラックホークもずっと並走して追いかけて来てるし、なんなら衛星だって…」


左右に2機ずつブラックホークが夜の闇に紛れて飛行していた。


そしてトラックは高速道路を走り続ける。木々を抜け、そして…


トラックが路肩で止まろうとしだす。


「は?え?なっ!?止まっ!?」


アナリスが急に止まったせいでバランスを崩しながら動揺する。


完全に止まったトラックの運転席から太った男が出てくる。何か慌てた様子で。


すぐ様そこに米軍車両が止まりだし、高速道路の後方を封鎖しだす。


ブラックホークもいつの間にかすぐ近くを飛んでいる。


俺達が狼狽えている間に車両からたくさんの兵士、銃が向けられる。トラックの運転手は兵士達に誘導され立ち去って行く。


そして何も言う間もなく銃を撃たれる。トラックの荷台を貫通し、パスッという音が連続して聞こえると同時に銃声が響き渡る。


「ぬああああ!!!」


俺は死んだかと思い、間抜けな声を出すがなんとか助かったようだ。生きている。


伏せていた顔を上げると兵士達は皆驚愕の表情を浮かべてある一点を見つめていた。


上…俺の頭上だ。そこには魔法によって浮いたアナリスがいた。手には紫色の光が溢れだし、その姿は恐ろしい魔法使いを想像させた。


銃口は一斉にアナリスに向けられる。ブラックホークのミニガンが、ハンヴィーとJLTVの機銃が。


しかしそれは全て完全に突き進むことはなく宙に浮いて静止する。


「はぁ…」


アナリスは多少の憤りを混ぜた溜息を吐く。

そして…


黒い影がどことなく現れる。砂嵐のようにその黒い影は兵士達を飲み込んで行く。兵士達は慌ててそれに銃を撃つが、影はお構いなしと飲み込んで行く。


上空を飛んでいるブラックホークも同じで幽霊のように飛んでいる影に翻弄されるがままの状態となっている。


「ヒカル、運転、あとは任せる」


「え?俺大型車は…」


「いいから」


有無を言わせぬ口調でヒカルは何も言えずにスタっと降りて運転しだす。


車両がない高速道路を走り出す。後ろではブラックホークがおかしな方向に飛び交い、軍用車両があちこちで横転するという光景が繰り広げられていた。


「…なんでそれを最初にしなかったのさ?」


俺は疑問に思ったことをそのままぶつける。


「[陽炎]のこと?魔法陣のタイプなんだよあれ。魔法陣は時間がかかること知らないの?」


「いや…知ってるけど…」


「魔法陣と言えば地面に紋章があるはずですけど、その魔法はないのですね」


カノンもアナリスに質問すると


「まあ、すぐにやったからね。手順は一通りトラックの上で済ませてたから」


「魔法陣…あれがそうなのか?あたし知らないんだがあの魔法ってどんな効果があるんだ?」


キルアも興味を持ったのか無垢な瞳でそう問いかける。


「あちこちが痛くなるって考えればいいよ。大丈夫死なないから、あと疲れた、銃弾撃ちすぎでしょ。全部回収にどれだけ魔力を消費すればいいんだか…」


とここでトラックが急に止まる。


「うおっ!?なんだ?」


俺がヒカルに何があったのか聞こうとした時、ヒカルもまたトラックから出てきた。


「いやねー。銃弾が効いたのか調子が悪いな。車奪います?」


「俺は公正したいんで反対かな。手遅れかもだけど」


そのことに反対する人はいなかった。トラックはガクンと揺れだすと進み出す。


俺は考える。この世界は便利だ。ただし異世界人にとってはものすごく不便だ。なんだよこの世界、と。














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