第87話 追跡
「馬鹿!ちゃんと前見ろって!」
「うるさい!俺だってやったことないんだよ!大体お前何もしてないくせに!」
「私だって魔法で車にブーストかけてるっつーの!」
「お前のせいか!道理で超運転しにくいと思ったら!」
「いい加減黙ってくれ!」
俺は思わず叫んでしまった。運転してるヒカルと助手席のアナリスが言い争いをしている。その後ろには右からカノン、キルア、俺が座っているという状況だ。
そして今俺達は車、正確には黄色いタクシーに乗っていた。中はきれいに整備されていて独特の匂いがする。そして冷房もガンガンにつけている。今は常夏、入れないと死ぬからだ。
さてまあ暴走する車&騒がしいというこの状況でははっきり言ってすごく不愉快になる。
「お願いですから静かに!」
カノンが耳を左手で塞ぎながら右手で体に着けているシートベルトを握りしめている。
「よし、静かにしよ…って前見ろ!」
「おわああ!」
目の前には横転した車が、普通なら見えないはずの下の部分が丸見えになっている。ヒカルは思いっきりハンドルを回して避ける。
「危ねえー」
「ちゃんと前見てよ。車の運転くらいしっかりして!」
「俺無免許だし、大体タクシー盗んでるし、てか運転一回もしたことのない俺にそんなこと言うな!」
タクシーを盗んだことにより窃盗罪が増えてしまったのだが仕方ないと自分に言い聞かせる。
「盗み…うん…」
あんまりそういうのが許せないと言いそうな雰囲気のカノンがしっくり来ないようだが仕方がない。
「盗むなら私に言えばあ!」
キルアは相変わらず話が噛み合わずに座席から腰を浮かす。ガタンと揺れる衝撃で体が浮いているようだが、体がそれほど軽いのだろう。
「あ、見えた!」
「え!?」
俺が窓ガラスに顔を張り付けるようにして外を見ると車をぶっ飛ばしながら先に進むベヒーモスの姿が見えた。
「よし!スピードとばすぞ!」
「え?何?何だって?おい?」
ヒカルが聞き返すがアナリスは何も言わずに拳を作り、その手の中からオレンジ色の光が溢れ出す。
と同時に車はグンとスピードを上げ、俺は座席に叩かれるようにガクンと後ろに行く。
「だからあああ!!!」
ヒカルが叫びながら車を進める中、ついにその姿がはっきりと見えるまで追いつく。ベヒーモスは今左側、つまり対向車線を走っていた。
とそこでベヒーモスの正面からサイレンを鳴らしながらパトカーが2台やってくるのが見える。
ベヒーモスはそれに対してスピードを緩めることはない。パトカーのサイレンは段々と大きくなっていく。
もう少しで接敵…となったところでパトカーから警察官が二人運転席と助手席から降りてくる。
警察官は真っ直ぐ向かってくるベヒーモスに拳銃を構えるが、そんな余裕をベヒーモスは与えることはなく、そのままパトカーに接触し、弾き飛ばす。
かろうじてそれぞれダイブするような形で避けることができたがパトカーはと言うとパンパーで立てられている状態であり、ベヒーモスの進行を妨害していた。
それを手で払う。そして突き進み2台目のパトカーへと向かって行く。そのパトカーからは既に警察官は降りていて拳銃を撃って…
「おい、目の前!」
俺は思わずそう叫ぶ。ベヒーモスの手で弾かれたパトカーが地面に転がるようにしてその場にあった。パトカーは完全に地面を塞いでおり、そしてもう少しで俺達と
「…っ…!」
アナリスが短くそう叫ぶとパトカーは横に弾かれ、対向車線にベイブレードのように回る。
俺達はそのおかげで何事もなく進めたが、ふと窓を見てみたが、警察官が建物にもたれかかりこちらを見ていた。
彼は一生物のトラウマを埋めつけられたであろう。
「…あれがダイヤモンドの正体?とんだ化け物だな」
「そういうタイプの魔導具なんだよ。あのタイプは結構やばめのが多いしね。私の予想だけどあれだけの魔導具は相当強い魔法使いが作ったはず」
「ふざけとるわあ」
ヒカルは不機嫌そうに顔をしかめてそう言う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます