第78話 アフリカ動乱(7)

「一体なんなんだ!」


マキシモフが珍しく怒りを表す。


「なんで…家が…」


ハミルトンは逆に憔悴したのかか細い声でそう言う。


「こちら部隊ストライカー01!F-35Bが全機墜落!敵が謎の超能力を…」


ロイドは本部とのやりとりでセカセカと口を動かしている。


クリスはただ壁にもたれかかるように立っており何も喋らない。


「あれが…ミサイルが効かなかったってことですよね?」


ハミルトンが確認するかのように言う。それに答えのはクリスだ。


「分からん。そもそも奴の位置を正確に把握してなかったからな…」


そう…1999年のコソボ紛争の時、アライド・フォース作戦においてJDAMの威力は証明された。当時はまだ兵士ではなかったもののJDAMの威力は凄まじいものであることは分かっている。


その時だ。発砲音が響く。それは全員の耳に届いたようで一斉に体制を整えだす。


「隊長、こっちからだ」


「様子を見に行くぞ」


マキシモフが言うこっちの方向に俺達はゆっくりと歩きだす。銃声は段々と大きくなっていく。


路地を横に曲がったその先、そこにいたのは米空軍の正服を着た人間。男だろうかガッチリとしている。F-35Bから脱出したのかもしれない。俺は声をかけようと歩みを進めようとした時


その男は男が拳銃を向ける横道から現れた岩の塊によって空高く吹き飛ばされた。


「なっ…」


ロイドが声を上げる。そこにいたのは岩で形成された5m超の人間型の塊。そしてその姿は俺の脳裏に浮かぶある化け物と酷似していた。


「ゴーレム…」


クリスが俺が思ったことそのままに口にしていた。その化け物には顔はなかった。壺を逆さまにしたような頭があるだけである。


ユダヤ教に伝承された泥人形。ヘブライ語で胎児の意味を表すその化け物は顔のない頭を俺達に向けていた。


クリスがC8カービンをまず構える。それに合わせて俺達も一斉に銃を向ける。ゴーレムはゆっくりとズシンズシンと歩みを進める。


その時ゴーレムの頭の部分が突如爆発する。何かに撃たれた…としか考えられなかったが頭上を見てみる。


AH-6 リトルバード2機が武装をゴーレムに向けて飛んでいた。リトルバードは再びヘルファイアミサイルを撃ちだす。


ゴーレムは砕けるようにして地面に倒れる。


「援軍だ…よっし!」


俺は思わず声を上げる。ブラックホークが俺達の背後に周り少し広めの道の真ん中に着陸する。


「生き残りはこれだけか?全員乗り込めるぞ」


ブラックホークのガンナーが俺達全員を乗せる。


『周りに異常なし。敵も見当たらない』


ブラックホークに内装されている無線から声が聞こえる。ブラックホークは高度を上げて飛び立つのだった。


だがこれで終わりではない。先程ヘルファイアミサイルを撃たれたゴーレムは周りの地面から砂や土、家の残骸などで再びその頭を形成されていく。


『おいなんだあいつ、復活したぞ!』


ゴーレムは完全復活を成し遂げたあと俺達が乗っているブラックホークを正面から捉えるようにしている。


こういう時、ああ言う化け物がしそうなことは…


「まずいぞ、回避行動!」


「なにぃ?」


パイロットが振り返ってそう言う。


「奴がこっちを見捉えてる!おそらくだが岩を投げつけるつもりだ!」


「ほんとうか!?」


それを聞いた理解の早いパイロットはすぐにブラックホークを急旋回させる。


ゴーレムは…俺が思っていたこととはちょっと違ったが手を構成している岩を投げつけてくる。すんでのところでブラックホークは回避する。


「うお…!」


突然ゆれた機体に俺達全員が声を上げる。そしてゴーレムは周りを見回す素振りを行う。リトルバードが全機、ゴーレムに機首を向けていた。そして時は既に遅く


ゴーレムは一斉に放たれたヘルファイアミサイルで粉々に分解された。リトルバードはしばらくその場を旋回したが奴が復活する素振りはなかった。


そして編隊を組んだヘリ部隊はギニア湾に向かって飛び出した。


「ひでえな、戦闘機が全部落ちてやがる」


ガンナーがそう言うとそこには戦闘機の燃料ないし弾薬によって燃えた機体が4つ落ちていた。そして無数の浮遊物による落下によってあちこちから火の手が上がっていた。


家は崩れ、車はひっくりかえる。その風景はまさに戦争を思わせた。


『全機帰還せよ。敵の捜索はこの際行わなくてよい。敵の勢力が思った以上に強い今撤退を優先しろ。体制を整える』


ブラックホークの無線からそう聞こえる。奴は…死んでいないのかもしれない。不安が襲いかかる。


今も墜落させられるかもしれない。俺にできることをしようと俺はひたすらに地上の様子を伺った。

____________________

ファランクスは頭上を通り過ぎるヘリコプターの1団を建物の中から透視しながら見ていた。あの爆発…あれを喰らったら五体満足ではいられなかった。あの暴風をブラフにしたのは正解だったと感じていた。


「…………」


ファランクスは何も言わない。おそらく自分が出ても負ける可能性が高いだろう。奴らが撃ってくる[何か]を吸収できるのも限界がある。


ゴーレムを作ったのも自分だ。彼らがどんなことをするのか知りたかった。そして分かった。この世界はすごいなあと。あれ程洗練された道具を見たことがなかった。


「魔王様になんて言うかなあ」


そろそろ帰り時だ。1ヶ月遊んだぶん真面目に働かないと。ファランクスは迎えが来ることを感じながらそう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る