その日世界は変わった in 異世界
ガコッガコッガコッ。
馬がかける音が辺りに響く。今日は雨だ。暑い季節の雨は湿気が多くてすごく嫌いだ。
「いないぞ!そっちは!?」
「反応なし!」
俺はそう答える。並走して馬をかけている隣の人も見つけられなかったようだ。
「よし!次の箇所に移るぞ!」
その人は潔い良くそう言った。
-ヴェルムート王国 肥沃な丘-
肥沃な丘という名がついた理由は単純に作物が育つからという理由ではない。生半可な冒険者が挑んだら一瞬で殺されるような魔物が大量に出現することからそう呼ばれている。だが見晴らしと傾斜のない斜面は馬を走らせるのには丁度良い。
「この辺はもう捜したな…よし、休憩だ!」
先頭の馬に乗る隊長格の男がそう言った。全員がそうだが怪しげな黒マントを羽織っているため顔がよく見えない。
「…冒険者ってこんな仕事じゃないだろ。なぁエイト?」
隣の人…ダートは俺に向かってそう言った。彼もまたこの仕事にうんざりとしているようだ。なにせ3日間馬をかけている。
「そりゃあまぁよ」
ダートは続けて
「魔法で疲れはなんとかなる。馬だってぶっ続けで走らせることができる。けど精神的にきついっつーの」
「仕方ないだろ。王の命令で全ての区域の冒険者と騎士団が同じことをしてるんだから」
俺は分かってるだろそんなことと心の中で思いながらそう言った。
ヴェルムート王国。その王であるロッソ ヴェルムートの評判は中の下だった。そんな王が今度は全区域に直々の命令だと出されては誰もがうんざりするだろう。
…世界は変わったらしい。ロッソの命令はずばり第4王女 カノン ヴェルムートの捜索。どうやら王城から抜け出したキリ行方不明らしい。
そもそも第4王女がいたことを知らなかった俺達にとってははっきり言ってなんでこんなことをするんだという気持ちでしかない。あと王はやたらと急かしてくる。
「この辺の魔物…」
ダートが何かを思い出すかのように話し始める。
「何だ?」
「減ったよな、随分と。昔はその辺にオオムカデやらがいたしな。あと犬とか」
「犬か…確かに最近はあの大きな赤い目を見ないな。あれ噛まれたことあるんだろ?」
「痛いのなんのって…見ただけでぞっとしないか?あの鉤爪やら出っ歯やら…」
「良かったじゃないか…いや良かったのか?」
「分からん。普通じゃなくなってきてるかもなこの世界は」
何を冗談をと言おうとしたが声にならなかった。そう世界は変わった。
魔王と魔王の幹部が消えたのだ。ある日忽然と。魔王城があった場所には巨大な穴ができていたらしい。
これで魔物達の侵略は免れたから世界は平和だ…という訳にはいかなかった。世界は目的を失ったからだ。魔王討伐という共通の目的を…
現にロッソは隣国クリステル王国に第4王女が消えたことに対する理不尽なイチャモンをつけているらしい。
「いつになったら帰れるんだろうなぁ」
俺がそう呟くと突然地面がボコッとなって浮き上がる。
「エイト!避けろ!」
ダートがそれに声を上げるが地面から何かが出てきた拍子で俺は飛ばされ尻もちをつく。
「どうし…」
他の冒険者が気づいたようだ。しかし何かに呆気をとられている。
「う…上…上!」
ダートが言う方向に顔を上げると
そこには二つの目をギラギラと光らせた紫色の巨大なムカデがいた。
「オオムカデだ!」
隊長格の男がそう言うと同時に俺の体はオオムカデのその長い体で吹き飛ばされていた。
「おわ!?」
俺は前のめりに地面に倒れる。オオムカデ。全長10mを越す巨体と鉄剣を安々と通らせない外骨格を持つ魔物。だが見た目の割にそのスピードは早い。
「ひっ…は、早い!」
「落ち着け!弱点は教わったはずだ!」
身震いする冒険者を隊長格の男が励ます。が…
ドゴーン!
再び土が舞い上がりそこに穴ができる。それも2箇所で。その2つ共に頭をにょきっと出したオオムカデがいた。
「さ、3匹だ!」
「逃げろ!やばいぞ!」
「お、おい待て!そっちは!」
隊長格の男がどうにか制しようとするが混乱に陥って誰も従わない。
「おい!立てるか?」
ダートが俺に声をかける。俺は体を起こしてダートに返事する。
「なんとかな…噛まれてないな。全身が痛い。オオムカデは?」
「3匹ともあっち側だ。逃げてる冒険者共に夢中だ」
見るとオオムカデは全員分散して逃げ惑う冒険者達を追いかけている。
「こりゃあ駄目だ。ダート、馬の方まで走るぞ!」
馬は俺達が休憩している場所とは少し離れた場所に繋いである。この平原で徒歩でオオムカデから逃げることは無理に等しい。
俺達が動こうとした時、目の前で土が弾けた。
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