その日世界は変わった in 異世界(2)
「ま、まじかよ。4匹…」
ダートは驚きを通り越した様子で見下ろしてくるオオムカデを見上げながらにそう言った。
「ひえっ…」
俺は情けない声を上げる。オオムカデは歯をカチカチとさせゆっくりとその顔の部分を近づけてくる。そして…
ブオーーー
長く、低い音が響く。金管楽器の音だ。オオムカデがいち早く音の方向に振り向く。
そこにいたのは男。ガチムチとした体型が鋼色に光る鎧越しでも伝わる大男。男は手にした楽器を腰にさげてある袋に入れると素早く剣を取り出す。
「1,2,3,4。なるほど」
男ははっきりと聞こえる声でそう言うと剣を前に突きだす。
俺の目の前にいたオオムカデは男に向かってガサガサと向かう。その動きは速く、すぐに男の目の前に辿り着く。
男は一閃するような構えをしてそれを待つ。オオムカデは勢いを殺さずにそのまま自身の体を正面から当てようとする。
直後男は一閃する。横にはらった剣はオオムカデの顔面をぶった斬る。オオムカデは勢いのままその体を倒す。男は擦られていくオオムカデの上へと飛び乗る。
「ふぅむ」
男は何かを確認するような仕草と声を上げたあとすぐに顔を正面に向ける。俺とダートが見ていることに気づいたのかこちらを一瞥したあとすぐに正面に向ける。
「あいつ…何者だよ?」
ダートがそう言った時、ガサガサと動く音が俺の耳に嫌とばかりに聞こえさせる。
オオムカデが3匹、その長い胴体の先にある顔面を上げ、男の方を見ていた。お互いに見つめ合うのか威嚇し合うのかは分からないが少し間ができる。そして…
ガアアア!!!
オオムカデは表現しがたい叫びを上げ、3匹ほぼ同時に男の方へと向かう。ウネウネと着実に。
男はオオムカデの死骸を踏み台にして空を舞う。オオムカデがまず一匹、男の目の前に出てくる。
直後自分の体を中心として剣を回す。オオムカデはまたもや顔面を斬られ、最初に死んだオオムカデに覆いかぶさるように倒れる。
男はスタっと着地する。そこにオオムカデがまた毒牙で襲いかかろうとする。しかしそれを読んでいたかのように男は顔面目掛けて剣を突き刺す。
オオムカデは顔面が貫通せんとばかりの風穴を空けたあとその場に崩れる。
「……」
緊張が溶けたからか視界がボヤけ始める。これで終わった…いや…
「もう一匹は?」
俺がそう尋ねるとダートが答える前にオオムカデが男が立っている地面の下から現れ、そのまま飲み込もうとする。
「…気づかないとでも思っていたのかね?」
男はオオムカデにそう言っているのか、しかし男の姿はオオムカデの体の中に飲み込まれる。
程なくしてオオムカデの体が半分に分かれる。俺はそれを見るだけで何が起きたかを理解した。
あの男は体内からオオムカデを斬ったのだ。そして男は俺に近づき出す。
「いやはや災難だったな。怪我はないか?」
「あ、あぁ、どこも怪我はしてないは…」
俺が言い終わる前に男が
「腕、腕から血が出ているぞ。それは違うのか?」
男は冷静にそう言うと俺の腕に指差す。俺は腕を顔の前に持っていく。確かにそこにはドクドクと血が溢れる自分の右腕の姿が…
とここで俺は気を失った。
____________________
目が覚めると白いベッドの上にいた。俺は状況を確かめようと体を起こそうとする。
「ああ待った。動かないで」
若い女の声に阻まれて俺は動きを止める。
「魔法陣で今オオムカデの毒を取り出しています。だから動かないで」
女はそう言うと杖を地面に立て、地面に描いてある青い紋章をさらに青くさせる。
「…………ふぅ、これで大丈夫ですよ」
「あの…俺は一体…てかここは?」
「ここはヴェルムート王国の魔法省魔力治療院です。結界内なので魔物の心配はありませんよ」
女は事務仕事をするかのようにそう言った。
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