第71話 仕方のないこと
「えーっともしもし?」
『ん?誰?』
「端的に説明するとね…」
『いや待てお前は誰だ』
まずそこから話さないといけないようだと当然のことをヒカルは忘れていた。アナリスは困惑して俺にスマホを渡す。
「えっっっとな。俺の秘密に関わってる人物。お前俺が何をしてんのか知りたいなら聞け。とりあえず聞け」
『おい答えになってな…』
ユウタが何か言う前にアナリスにスマホを渡す。
「あ、電話変わったけど。という訳で本題に入っていい?」
『…納得いかないがどーぞ』
ユウタは興味なさそうに言うのが聞こえた。スピーカーではないものの周りが静かなのでよく聞こえる。
「端的に言うとね。私は異世界人なの」
『ほ、ほう?????』
「それで魔法が使えて…」
『待て。最初から訳が分からんぞ。異世界人?何を言って?』
「じゃあニューヨークの事件覚えてる?」
『あれか?変な化け物が…え?つまりどういうことだ?』
「あれは魔王の幹部のザッヴァーってやつで」
『魔王だと?そんな(某RPGゲーム)みたいなことがあるか!』
「でも実際そうなんだからなぁ…電話越しってのがきつい」
『…でもまぁニューヨークの件があるからな。いいよ話を続けて』
「私達に協力してくれない?なんか…」
「変な組織に追われてるでいい」
「変なのに追われてる」
『変なの?さっきのヘリコプターってその変なのって言いたいのか?大体俺は話がまだ飲み込めて…』
「まぁその変なののだよ。私の言うこと信じてる?」
『……イギリスとドイツの奴はなんだ?あれは説明できるのか』
「イギリスは知らないけどドイツのはダンジョンだね」
『ダンジョン?だから(某RPGゲーム)かよ!』
「そもそも(某RPGゲーム)がなんなのか知らないんだけど!とりあえず信じて!」
今更ながらアナリスに電話を変わったことを後悔した。あのあと押し問答を繰り返してなんとかユウタは信じてくれた。
『じゃあなんだ…地球はアメコミの世界にでもなったのか?』
「アメコミが何かは知らないけどまぁそんなとこ」
『なるほどな…でも話してることは合点行く。それで俺に話した理由ってなんだ?そのことを』
「え?なんでだろ…」
「単純にお前の力が必要だからだ。協力してくれ」
『今の声ヒカルだな?大体協力って…スケールが…』
「まぁまぁそこは置いといて」
『…………国家機密どころの騒ぎどころじゃないことだな。いいよ協力してやるよ』
そう言ったユウタの声は乗り気なのかが分からなかった。
「あ、協力はしてくれるのか。お前も変わったな。アオイちゃんのおかげか?」
『…………』
電話は切れていた。
その後は早く電車やバスを乗り継ぎして千葉県の房総半島内にあるのどかな家へと付いていた。
「ひとまずはこれで休めるんだな」
ガイムは感動したかのようにそう言っていた。涙でも溢れそうだ。
「でも気は抜けないぞ。それに必要な家具も揃えないとな」
そう気を抜けない。奴らは知っている。顔を。俺の顔は知らないだろうがガイム達の顔を知っている。そのことを俺とアナリスだけが知っている。これはアナリスの安らかな生活を送って欲しいという気遣いなのかもしれないということを俺は感じていた。
そして魔王と魔王の幹部、もしくは魔物と言われる化け物が今もどこかで暗躍しているかもしれない。それを俺達だけが知っている。もしこのことを知らせれば多くの人が助かる可能性も…いや誰も信じないかもしれない。もしかしから俺達がニューヨークの惨劇を起こしたと思われるかもしれない。全てが突拍子もなかった。俺達はこれからどうすればいいのかがまったく分からない。
俺はその先を考えないようにしてマイホームとなる家の玄関の鍵を開けた。
____________________
同時刻
TSAエージェント 田村雅俊視点
____________________
俺は助かった。体が宙に浮いたことを鮮明に覚えている。俺は今もヘリコプターに乗っていて宙に浮いていると言えば浮いている。
額の傷口をタオルで抑える。あの時俺は気を失っていた。あの時あのまま車と共に落下したら助からなかったはずだ。
では誰が俺を救ったのだろうか。必死に俺を呼びかけていた中谷だろうか。そう思い隣に座る中谷の姿を見る。
いや違う。彼は間に合わなかった。俺はあの時確かに落下するということを意識がない状態で感じていた。
そして…辿り着く答えは…俺を救ったのは…彼らだ。[人間]。
「きっと疲れが溜まっていたんだ」
中谷は呟くようにそう言った。
「思えば最近多忙だった」
俺もどこを見るわけでもなくそう言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます