第70話 成功

2022年7月16日 日本標準時

午前11時11分

東京都港区 台場公園

____________________

服がとにかく気持ち悪い。水に濡れた服がここまで気持ち悪いとは思わなかった。


「乾かすよ。それ」


アナリスは察したように俺に魔法をかけると服は一瞬で乾く。心がやっぱり読めるのかもしれない。


「ありがとさん」


俺はひねくれたお礼を伝える。


「それでこっからどこに行くんだ?ヒカルもいないし」


「それはどうしようか…あ、待ってこっちに来てる」


「え?」


アナリスがそう言うので周りを見るがヒカルの姿はない。


「橋。私一度会ったことのある人が近くに来ると分かるの。魔法で」


橋。そこには赤い赤色灯があちこちで見える。警察やら消防やら救急やらが集まっているらしい。先程見えていた黒いヘリコプターはいつの間にか消えていた。


「下から来てる」


下。諸葛レインボーブリッジと言われる橋は2階層に分かれている。ダンジョンみたいに。


「なんとか場所知らせることできないの?」


「あ、あたしそれできるぞ!」


キルアがなんだか嬉しそうに答える。そう言うと手をパチンと叩く。


「終わり」


終わったらしい。


「え?」


普段はおとなしいカノンも思わず顔をしかめる。


「だから終わりっつーの」


ほんとうに終わりらしかった。


_______20分後_______

「おまたせしたな!」


ヒカルが華麗に服をパサッとカッコつけて登場する。


「うわ、ダサっ」


「てめぇざけんな」


反射的にそう言うとヒカルは笑顔のままそう言った。


「……とりあえず助かって良かったな。俺が買った財布と携帯、バックはおじゃんになったか?」


「また増やすというわけにはいかないよ。錬金術って相当魔力消費するから。因果応報でこうなったかもだけどね」


アナリスもヘラヘラとした感じでそう言う。


「まぁ喜べ。家は見つかった。ここからそう遠くない場所だ」


「え?そうなの?」


「とりあえずそこに行こうかあと…」


ヒカルはそう言うとスマホを取り出した。

____________________

ヒカル視点

____________________ 

「あ、もしもし?」


俺は人目、異世界人達の人目を気にせずに電話する。とりあえず台場公園から抜け出すことにした一行だが俺はいわゆる歩きスマホをしている。


「すまんな。急遽お願いがあるんだ」


『ほんとなんなんだよ…』


ユウタが電話の向こうで頭を抱える姿が浮かび上がる。


「悪いな。ある写真を解析してもらいたいんだ」


『は?』


俺は返事を待たずにG-mailで写真を送る。ユウタはLINEをしていない。


「…なんだこれ。ヘリコプターじゃん。これをどうしろと」


「機種はA-109だと思う。色は完全にUH-60だけど」


『はあ』


ユウタは同調する時にはあと溜め息かも分からないことを言う。


「これを解析してくれないか?どうにか」


『何言って…?』


「これどっからどう見ても陸自や空自、海自じゃないだろ」


『それは…まぁ多分そうだな』


「これが江戸川区のほうから飛んできた。江戸川区には自衛隊基地はないし警察庁は霞が関だから公安もない」


『…何が言いたい?大体お前が何をしているかも…』


「ちょっと待ってて。電話切らないで」


俺は柔らかながらも有無を言わせない口調でそう言うとアナリスを手招きする。


「何?」


「端的に説明する。電話の相手は信用できる。最初はお前らのこと話さない予定だったけどそんなこと言ってられな……」


「あ、もう別にいいよ。多分もうバレてるし顔も割れてるだろうから」


「へ?」


「皆には言ってないけど…カメラがあった。ヘルメットって言う部分に」


「マジ?なんで言わないんだ?」


「皆うるさくなりそうだから。顔がバレててどこまでも追いかけられるとか言ったらパニクるでしょ」


「それがお前の優しさ…か?ひねくれてるな。賢いのか分からない」


「賢者の勘だよ。信じて。それより私が電話に出ればいいんでしょ?」


「はあ」


ユウタの癖が俺にも出てしまった。そもそもユウタが信じるかも分からないのに。そう言ったアナリスの顔は妙に砕けていたし。


「まぁいいや。なんかあったら俺に言えよ」


ヒカルはそう言うとスマホをアナリスに渡した。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る