第68話 奪取(2)
「捕らえるんだ!逃すな!」
「銃だ!奴ら銃を持ってるぞ!」
「早く…早く警察を!」
「すぐにヘリをこっちに寄こしてくれ!奴らの仲間が奪い返しにきやがっ…クソ!民間人を安全なところへ!」
うるさい。頭が痛い。そう思いながら体を起こそうとするが手に繋がっている何かによって阻害される。
いや目の前も真っ暗だ。何も見えない。袋でも被せられているようだ。
直後に再び発砲音。いい加減銃を撃つ音が分かってきたとガイムは感じた。
「え?何?何が起きてんだ?」
俺は思わずそう口に出していた。その時頭に被せられていた袋が取られる。
「おーい、大丈夫か?」
目の前には紫髪の少女…アナリスか。が俺を呼んでいた。
「えっと…?どういう状況?」
「まぁ説明はあと…とにかく早くこっちに来…」
直後後ろから大柄な男だろうか、とにかく人がパチパチと言う何かを手に持ち、それをアナリスに当てようとしてくる。
そいつはホテルの時のようにガスマスクは着けていなかったものの黒のマスクが貼り付けられているかのように装着されている。
アナリスはそれに気づくと魔法を…ではなく単純に蹴りを入れる。蹴りの箇所は内股。つまり…金的。
「………!っがあ!」
吹き飛ばされた男はなんとも言えない声を出して後ろに止めてあった黒のレクサスにもたれかかる。
「とにかく逃げるよ!【水中呼吸】と【水中動作】を掛けたから。ほら!」
「は?」
俺はいまいち状況が理解できなかったので車の外に出て辺りを確認してみる。
なんというかすごい。いわゆる俺の目の前には黒い車が2台、道路を封鎖するような形で停まっており、その後ろの車の列が凄まじいことになっていた。
そして後ろでは煙を上げて何かに乗り上げる黒い車、それにぶつかる黒い車、横で停まる護送車。そしていろいろなとこから出てくる人々。
一言で言うならカオスだ。
「ほら、ボーッとしてないでさ。飛び降りるよ!」
アナリスに言われ気がつく。そう言えばカノンとキルアの姿がない。代わりにと言ってはなんだが、こちらへ向かってくる多数のゴツい装備をした人々。
どうやらその矛先は俺達らしい。と思った時に奴らが持っている銃から閃光が…高速で放たれた弾丸が俺達目掛けて飛んでくる。
反射的に目をつむるがなんともない。隣を見るとアナリスが弾丸の方に手をかざしている。弾丸はさっきまでの勢いはどこへやら宙に浮いたまま静止したかと思うと、突然消える。
そして後ろからの爆音。振り向いた時に察したがどうやら後ろから銃を撃ったらしい。がそれも何故だか消えている。
そして俺はアナリスに手を掴まれる。暖かくて細い手。だが束の間、グイッと思いっきり引っ張られる。勢いが強すぎて下半身ほ宙に浮いている状態だ。
「ふ?へぇ?」
間抜けな声が出る。こんなに怪力だったかと疑う。俺の体は上半身まで宙に浮いたかと思うと橋の外にゴミを捨てるような感覚で投げられる。
「ぬわあああ!!!」
俺がこう叫んだのも無理はない。下は何メートルもあるかも分からない橋の下。イカれてるのではないだろうかアナリスのやつ。
ドボン!
耳に水が入る。橋の下には水があることは落ちる時に確認済みだ。頭から間抜けに落ちたせいで全身が痛い。そして俺は段々と体が海底に向かって沈んでいくことに気づく。
だが息苦しくもなかった。水圧も感じない。耳の中の違和感も消えている。これがアナリスの言っていた魔法の影響かと考える。そうなると体を浮上させるのに時間はいらない。
適当に上から下に水をかくと体は太陽の反射する水面へと着実に向かっていった。
俺は水面から顔だけを出した状態になる。そう言えばキルアとカノン…そしてヒカルはどうしたのだろうか。
すぐ横を見るとガチガチと歯を鳴らすキルアの姿、銀色の長い髪が絡まったのか髪をいじるカノンの姿が目に入った。
「ふ、二人共大丈夫?」
「うわぁ!冷たい!」
「私は大丈夫です!それより、アナリスさんは?」
アナリス、そうだ。と思い頭上を見上げるとアナリスがこちらへと来ていた。おそらくダイブしようとしているのだが……
「あれ?これまずくね?」
何がまずいか。その落下予想地点。アナリスは足から垂直に落ちるような形で俺の頭上へと降り注ぐ形で…
ゴ…ザブン!!
何かがぶつかる音と水の跳ねる音がほぼ同士に響いた。
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